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魔法じゃなくて言葉でお願いします

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     100階層まで来た。
 ここまで休憩なしという鬼のような強行である……まっ、いつもの通りか。
 延々と魔法をぶっ放し続け、魔力に不安を感じたら九字をきって回復しながらという感じだ。数と気持ち悪さを除けば大した敵ではない。面倒なのはドロップを拾う事くらいだろう。ただ果たしてドロップであるカブトムシのツノのかGの羽根なんて物を買い取って何に使うのかはわからないが、落ちている物は全部拾っている。ついでと思って、先日アマたちに教えて貰った薬草や鉱石なんて物も探してはいるのだが、一切見当たらない。どうやら師匠たち曰く、このダンジョンには薬草どころか有用な草や、鉱石は採取出来ないらしい。それも相まってこのダンジョンの不人気さに拍車が掛かっているようだ。
 これではしょっちゅう溢れかえってしまうのでは?と疑問に思ってしまうのだが、もちろん探索者協会もただそれを見守っている訳もなく、近隣の旅館やホテルなどと連携して、探索後に協会発行の証明書を持って行くと、宿泊料金が安くなったり、食事に何点かのサービス品が付いたりするらしい。
 ここだけではなく、日本全国の過疎地域や不人気ダンジョンはどこもが趣向を凝らして、あの手この手でシーカーを招き寄せようと画策しているとも聞いた。
 外国ではシーカーの義務として、不人気ダンジョンなどに探索する事が決められている所や、軍や警察の訓練をそこで行う所もあるそうだ。日本の場合は自衛隊の方々が、過疎地域のダンジョンに潜っているらしい。
 いつか余裕が出来たら……師匠が許可してくれるなら、そういった場所を観光がてら周りながら探索するのもいいかもね。未だ愛知県を出たのは、小中学校の修学旅行で京都奈良大阪沖縄しかないからさ。

「さて、では1度如月くんたちを出せ」
 
 師匠の言葉に従い、4人を出して地面に寝かせる。
 鬼畜治療師はテントを建ててるから、今ならちょっとハレンチに突き出しているマシュマロパイを取っ手替わりに持とうかと思ったんだけど……うん、師匠から短刀が飛んできたので自重しました。

「意識のない者にやるな……それは人としてどうかと思うぞ」
「はい……」
「小僧、今度いい所に連れてってやるから我慢して早く出せ」
「はいっ!!」

 ハゲヤクザの言ういい所ってどんな所だろうか!?
 ピンク色な場所?それとも以前師匠に連れられて行ったキャバクラかな!?
 俄然やる気が出てきた!!

「爺さん、子供をあんまり怪しい所に連れて行くのは考えもんだよ」
「わかっとる」

 鬼畜治療師の声にハゲヤクザが応じながらも、俺の方を向いて軽く目配せをしてきた……さすが絶倫ハゲだ、わかってるね!

 うーん、さすがにここまで不眠不休で来たせいか少し疲れているのかな?3人の身体が重く感じる……本人たちが起きていたら口が裂けても言えないけれど。
 先輩?先輩は軽いよ……ってか意地でも持つ。他の人のように引き摺り出したりしない。

「香織以外も一応女の子なんだから、もう少し丁寧に扱ってやんな」とか鬼畜治療師に怒られながらも、何とかテントに放り込んだ後、食事をして休憩となった。
 もちろん先輩たちとは違うテントで……かなり離された場所で寝る事になった。「どうにも信用出来ん」とか言われちゃったよ。

 ………………
 …………
 ……

 起きたのは5時間後だ。
 いつも不思議に思うが、師匠たちたちはいつ眠っているのか?俺より先に寝る事はないし、俺が起きるといつも既に何かしらして起きているんだよね。

「師匠たちって寝ているんですか?」
「もちろん寝てるぞ?ただ長年の生活のためか、短い時間で十分だ。それにお前と共に潜る時は、ほとんど我らは何もしておらんからな、疲れも何もないに等しい」

 って事は、いつか俺も同じようになるんだろうか?昔は毎日8時間は最低寝ないと次の日眠たさを感じていたけれど、今や5時間も寝ると充実した感じがするようになったのも事実だもんなー。習慣って怖い。

「さて、あれらが起きてくるまで手合わせでも行うか」
「はいっ」

 分身3体とトラ5頭を先輩たちのテント周りの警護に置いて、森の中を走り回りながら師匠たちと手合わせを行う。スキルはもちろん不可で、使っていいのは空歩だけだ。
 そろそろ一撃くらい入れる事が出来てもいいと思うんだけど……不意打ちなどをしても、当然というか待っていたかのように受けられ反撃される。
 果たして勝てる日は来るんだろうか?
 3人とも「我らは年老いてく身、お前はこれからの身、直ぐに追いつかれる」なんて言うけどさ……先が見えない。

 先輩たちが起きてきたのは、4時間ほど手合わせを行ったあとだった。
 どうやらうなされたらしく、その顔には疲れや、やつれているようにも見えた。まっ、そんな姿も儚げでいいんだけど。
 不思議そうな顔でテントから出てきて、今度は一変して怯えた表情となり周りを見渡し、トラを見つけほっとしているようだ。

「起きてきたようだな……食事とするか、どうやら修練に身が入らんようだ」

 ついその姿を目で追っていたら、師匠たち3人に同時に殴り飛ばされて言われた。

 先輩たちに挨拶をし、その後食事となった。鬼畜治療師から4人には小言……G如きで立ち止まり前に進めないとは何事かと説教じみたものがあった。女性は特に嫌うと思う場所なんだけど、師匠たち曰く「どこのダンジョンでも、何が出てくるかわからないので苦手だとか言っているのは甘え」だそうだ。それを克復させるために先に送り込んだのに……って事らしいんだけどさ、苦手とかそんなんじゃなくて、生理的に無理なものは無理だと思うんだけどね……
 そしてここは100階層だって説明をしたんだが、問題はどうやって運んで来たかだ。

「横川のトラに括りつけて来た」

 なぜ真実である時空間庫の事を説明しないのか?それはまた魅了耐性が5から7に上がっていた事を起因とする。魅了魔法を持っているのは秋田さんは確実なんだけど、金山さんと田中さんは確認が取れていないのでわからない。師匠たちが現在のステータス及びスキル確認は拒まれているのだ。先輩曰く、以前に確認した時は秋田さん以外持っていなかったというのだが……
 秋田さんは鬼畜治療師が本人に確認をとったところ、「えっ?なんで私が横川くんを魅了しないといけないんですか?」ときょとんとした表情で言われたそうだ……いや、言いたい事はわかるよ?でもさ、「」って言わなくてもいいと思うんだ。そしてそれを可哀想なモノを見る目でそのまんま俺に伝えてくる鬼畜治療師もどうかと思うよね!!
 という事で、金山さんと田中さんが疑わしいらしいのだけれど、好意が合っての魅了なのか?それとも何かを企んでの魅了なのかが判別がつかないために、うどんの事もそうだがヤバそうなスキルは極力見せずに隠すという方向らしい。

 ただたった4日で、しかも半日づつなのにレベルが2も上がるというのはおかしいと師匠たちは首を捻っていた。なので心当たりはないのかと問われたけれど、アマとキムとは違いずっと男からの呼び出ししかなかったのでわからないんだよね。好意ある視線なんてなかったし……
 もしかして男からなのか!?
 視線といえばお猿さんのじっとりとしたものだけど……まさか!?
 ってそんな事はないよね??
 女性からの魅了だったら大歓迎なんだけど、男だとしたら嫌だな……常に九字印きっとこう、うん。
 それにしても、男なのか女なのかわからないけれど、好意なら魔法じゃなくて言葉で伝えて欲しいところだよ。

 説教が済んだあとは、ボス部屋に突入してそのまま外に出る事となった。
 意外にもすんなりと出る事を疑問に思っていたら、師匠から衝撃的な事を告げられた。

「すっかり忘れておったが、お前明日誕生日だろう?」

 あっ……
 俺も忘れてたよ。
 そういえばそうだった、そうだったけど特に予定なんてないんだよね。
 ちなみに俺、アマ、キムと3人の誕生日は全く同じ日なんだよ。それが原因で仲良くなったってところもあるんだけどね。
 だから毎年3人でプレゼント交換的な事をしていたんだけど、今年は修行ばかりの毎日ですっかり忘れていたから、何も用意してないや。
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