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お喋り狐にご注意を

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「っと固い感じはここまでっ!いやー久しぶりの現世。ダンジョンなんて出来るなんて世の中変わりましたねー。あれ?主様どうされました?」
「しゃ、喋れるの?」
「そりゃあ喋れますよ、話せないと主様と意思疎通出来ないし、楽しくないじゃないですか」

 本当にキツネが喋っているようだ。
 実は召喚獣というスキルがあった時から、有名なラーメンの具のような名前の忍者漫画もある事だし、いつか九尾の狐でも出るんじゃないかとは思っていたけれど……

「尻尾は1本だよね?」
「さすがご存知でしたか!?早くレベルを上げて下さいますと、尻尾も増えますのでお役に立てますよ」
「最終的には9尾?」
「そうですそうです、今の世で言えば魔力ですか、それを貯め込み力も上がるって事ですね」

 やはり予想通りの九尾の狐のようだ。でも漫画や伝承と違って、何だかフレンドリーな感じだ。

「玉藻御前《たまもごぜん》か!?」
「キャンッ!!……あ、主様のお師匠様……はい、この世界では昔そういう名で呼ばれた事もございました。または妲己《だっき》と呼ぶ者がいた事もございます」

 クソ忍者の言葉に、俺とクソ忍者の間にいたキツネが飛び上がり俺の足に隠れるように回込んだと思ったら、震えながら答えた。

「妖狐……九尾の狐……この世に仇なすか!?」

 ヒッ!
 お、お師匠様!?めちゃくちゃ殺気がダダ漏れなんですけど??
 超怖いんですけど!?

「と、とんでもございません。主様のスキルとして顕現したこの身、主様の望まぬ事は致しませぬ」
「その言葉に偽りないか?」
「も、もちろんでございますです!!」
「なら良しとするが、くれぐれも良からぬ事は考えるなよ?」
「は、はいですっ!!もちろんでございますっ!」
「横川、お前もしっかり見張れよ?」
「はっ、はいですっ!」

 尻尾を股に挟み込んで、カタカタ震え続けているよキツネ。目の端には涙が溢れかけているし……

「ひ、1つだけ聞いて頂きたい事がございます」
「なんだ?」
「はいっ、その玉藻やら妲己やらと呼ばれていた事は事実でございますが、その伝承やら何やらのほとんどがその当時の権力者たちの醜聞《しゅうぶん》を私に擦り付けたものでございます。た、確かに人に化けて、そのような者たちの元で遊んで暮らしていたのは事実でございます……またその代わりに政敵を屠った事も事実ですが」
「ふむ、それで?」
「ですから世を恨んで禍《わざわい》を起こしたりする気はありませんです。それについ200年ほど前にも顕現しましたが、その時は農家の片隅で犬に間違われて一緒に暮らしておりましたし」
「あいわかった。伝承なる物は度々そのような側面があるのも事実だが、まだお主の主張の全てを丸々受け入れてやる事も出来ぬ。潔白を申すなら、これからの行動で示せ」
「あ、ありがとうございます!精進致しますっ!」

 確かに桃太郎の話などの童話?なども時代とともに内容が変化したりしているって話だもんね。それを考えると玉藻御前の話って確か平安時代とかそんな昔のはずだから、キツネの言っている事ももっともかもしれないとは思う。だけどクソ忍者の言う通り信じきる事も出来ない……だってキツネと言えば化かすのが仕事っぽいイメージがあるしね。

「えっと、その……キツネは顕現していられる時間とか決まりはあるの?」
「あの……お名前を頂戴したく思いますです」
「名前?」
「はい、キツネとは種族名。つまり主様を人間と呼ぶのと同じでございますので」
「そっか……うーん、名前か……」


 名前を付けろと言われても困る。そういうの自信がないんだよね。

「うーん、九尾の狐だからキュウ?それだけだとら寂しいからキュウべぇは……」
「もう主様とは契約していますし、男性ですから、「僕と契約して魔法……」とかありませんので……その名前は却下で」
「……本当に200年振りの顕現なんだよね?」
「そうでございますよ?」

 じゃあなんでそんなセリフ知っているんだよっ!?ってツッコミたいところだけど、キョトンとした顔をしているからきっと徒労に終わるだろうと思えるからスルーしよう。

 クソ忍者は……キツネを脅して満足したのか、既に興味を無くしたように殺気を収めて近くに座ってくつろいでいるから、名前を一緒に考えてくれるようには見えない。

 うーん……
 はっ!
 めちゃくちゃ視線を背中に感じる……

「先輩、新しい仲間です」
「うん!見えてたよ、可愛いねっ!」

 喋るキツネとクソ忍者の殺気にビビって忘れていたけれど、元々は先輩の気を引くためのもふもふ要員を探すためにスキルチェックしたんだったよ。

「主様が一途にずっと密かに想いを寄せる如月香織様ですね。よろしくお願い致します」
「あっ……うん、よろしくね」

 キツネグッジョブだ!
 喋るキツネとは不安だったが、なかなかいいじゃないですか。仲良くやっていけそうだね。
 んっ?
 おいちょっと待てなんで知っているんだ??

「主様は常日頃から「ストップ!キツネ余計な事は言わんでいい、先輩が困るだろっ!」じた……わかりました」

 やべー!
 前言撤回、喋るとかとんでもないな。危うく言ってはいけない事を喋りそうな予感がしたよ。絶対あの後「自宅に……」とか言いそうだったもん。

「んっ?」

 首を傾げる先輩可愛い!じゃなくて、話を続けさせたらヤバイ!話を変えなければ!!
 何が……何がある!?

「先輩、せっかくなのでこれに名前を付けてやってくれませんか?」
「っ!!いいの!?」
「もちろんです、先輩にお願いしたいです」
「じゃ、じゃあ私が好きな名前でもいい?」
「なんでしょうか?」
「うどん!!」
「い……い名前ですね、可愛いです。お前の名前はうどんだ、いいな」
「あんちょ「いいな?」……はい、うどんです」
「うどんちゃんよろしくね!」

 こいつ安直とか言おうとしやがったよ。まぁ俺も思ったけどさ、先輩の好きな名前って言うんだから決定なんだよ……
 正直すまん、今度揚げをやろうと思う。
 って本当に揚げなんて食べるんだろうか?後で本人?本獣?に聞いてみよう。

「先輩、うどんの名付けありがとうございました。申し訳ないんですが、ちょっとうどんに聞いたりしたい事があるので、また後ででもいいですか?」
「そっか……うん、また後でねうどんちゃん」

 まだ質問の途中だったし、他にも色々聞きたい事がある。先輩が大鷲の上でトラに囲まれながらキツネを膝の上で愛でる姿をずっと見ていたい気もするけど、キツネが何を何故知っているかを聞いておかないと、色々不味い事になりそうだからね。

「なんでございましょう?」
「まず顕現時間は?」
「他のものたちと違って、消える事はございませんわ」
「えっ?ずっと??」
「はい、もし私の姿を見せたくないとお思いでしたら、体内に戻る事も出来ますが、召喚などと叫ばなくとも体内に話しかけて頂けるだけで出て来れます」
「念話とかそんな感じ?」
「そうですそうです。今もお望みでしたら念話も可能です」

 ずっと出っ放しってのは不安だったけど、姿を見せないように出来る事がわかってほっとした。冬休み終わって学校とかに連れて行けないからね。そして念話が出来るのも大きい、ちょうどこれから他人に聞かれたくない質問もする所だったし。

『いつから俺の事を知っているの?』
『そうですね、主様がこの世に産まれ落ちたその日からでございます。まぁそうは言っても、赤ん坊の頃は私も力を戻しておりませんでしたのでほとんどの事は何も見れてもおりませんし、記憶もないのです。しっかりと記憶出来ているのはここ数年でございますね……ですので、もしその頃の話がご所望でしたらお役に立てず申しわけございませんです』

 産まれ落ちた時って……
 一瞬まだ見ぬ両親の事も考えたが、それよりもここ数年とはいえ全ての事を知られているという衝撃の方が激しい。

『お前を無に還すにはどうしたらいい?』
『ええっ!?な、なんでそうなるのでしょう!?』
『お前は知ってはいけない事を知りすぎたようだ……』
『ちょっ!ちょっと落ち着いて下さい。大丈夫です、絶対に主様に不利になるような事は言いませんので』

 そんな事を言われても信用出来るわけがない。現についさっき先輩に余計な事を言いそうになってたし。

『わかりました、香織様とお話する時は必ず主様の許可を頂いてからに致します』
『師匠たちにもだぞ?』
『もちろんでございます……それにあの方は……ああっ、これまで生きてきて初めてですよ、あんなに怖かったの』
『とりあえずは保留としよう』
『ありがとうございますっ!』
『で、他に何が出来るの?』
『現時点では、他の召喚獣への指示出しや罠発見、ダンジョン内の道案内などでしょうか。あとは……そうですね、主様のものと比べると児戯にも等しいのですが、炎の玉を出して攻撃する事くらいでしょうか』
『現時点ではというと、レベルが上がると他にも出来るようになる?』
『はい、まず2尾になりますと、サイズの自由変更や氷での攻撃が行えるようになったりします』
「わかった、とりあえずよろしく」
「はいっ」

 色々不安はまだ消えないが、とりあえずは様子見する事にしよう。もしどうしようもないと思ったら……師匠に躾をお願いする事にしよう、うん。

 色々衝撃が大きすぎて、この時はまだもっと考えなければならない真実の一端に触れている事に気付いてもいなかった。
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