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市場調査

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「もう私お嫁に行けない」
「どうせ貰い手なん・・・・・・グハアッ」

玉座で膝を抱え小さくなる魔王の呟きに、デリカシーのない一言を告げるラース。懲りない男は魔王の振りぬいた拳に地を舐めた。

「ハッキリ言っちゃ面白くないでしょ」

不穏な事を誰にも聞こえないほどの小さな声で呟くメイド長。
偶然にも伝令の言葉を伝えに来て聞いてしまい、震えあがる執事長。後日、魔王城の本当の主は誰なのか?などと悩んでしまう原因であった。

「あっ、伝令でございます・・・・・・ラース、お前が読み上げなさい」

何故か執事長は急いだ顔で部屋に入って来たにも関わらず、ラースに伝令文を渡した。そして「忙しい忙しい」と誰に聞かれるでもないのに、大声で独り言を呟きながら謁見場から速足で出て行った。
その様子から何かを察したメイド長も後ずさりしながら扉へと向かっていた。

「なにかあったのかしら?ラース、伝令文はなんなの?」
「はっ、えっと・・・・・・ま、魔王様、私なぜか突然目が霞んで見えませんので・・・・・・」
「なんの冗談?いいから早く読みなさい、急ぎの伝令よ」

ラースの顔は青く、額には大粒の汗、足は小刻みに震えていた。

「う、右将軍より伝令・・・・・・「魔王様が呪いのエプロンにより裸で街を練り歩き暴れているとの噂を耳にした、急ぎ世界一の気付け薬をお送りする」・・・・・・」
「右将軍は現在海と大陸を2つ渡った、ちょうど世界の反対側にいらっしゃいます。世界の果てまで届く魔王様の御勇名ですね」
「イヤアアアアアアアアアアアア!」

メイド長の止めの一言により、魔王は絶叫した。
その声は右将軍に届いたという。
ラース?ラースは読み上げると同時に立ったまま気絶していた。

・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・

「魔王様、気分転換に市井に行かれませんか?」
「噂が・・・・・・」
「人の噂などすぐに移り変わるものです」
「そ、そうよね人の噂も何日とか言うものね」
「えぇそうでございますよ。まぁ、火のない所に煙は立たぬとも言いますが」
「えっ?「まぁ」の後でなんて?」
「いえ、魔王様はお美しいと」
「そう?じゃあ、市井の者を見に行きましょう」

右将軍の伝令より10日経っていた。〝人の噂は七十五日”で全然足りていなかった。メイド長の顔は大きな笑みに包まれていた。ただ滅多に褒めない相手から褒められた事に魔王も顔はゆるんでいる、そこに企みがあるなど微塵も感じていなかった。

城から出るにあたって、そのままの姿では大騒ぎになる事も予想される為に魔王は変化の魔法を使う。ただ、自分の容姿にプライドがある為、魔王の象徴とでも思われる大きな角は隠す事に留めた。

「メイド長、あなた変化の術使えないけどどうするの?」
「最近使えるようになったんですよ、ただ休憩中に練習していた為に相手とした〝ラース”の姿になってしまうのです。ですので本日は深めにフードを被って参りますわ」

変化の術は初心者は他人の顔を真似して作る事から始める、熟練になると自らの容姿を自由自在に扱えるようになるのだ。

活気に溢れる街並みを歩く2人。人々の顔からは笑みが零れ、賑やかな様子が見て取れる。それをほっとした様子で見守る魔王様、やはりこれでも施政者なのだ。

「おっ、姉ちゃん美人さんだね~どうよこのブローチなんて似合うんじゃないか?」

商店主に声を掛けられ、満面の笑みで近寄る魔王。

「この国はどうですか?」
「んっ?違う所から来たのかい?そうだな~いい国だぞ、平和だし豊かだしな」

一応まだ国王である事を忘れていなかった質問に答える店主。その返答に嬉しそうに笑う魔王。

「お、そういえば姉ちゃん魔王様に似てるな~」
「そ、そうですか?魔王様はどんな方なんでしょう?美人だと聞いたのですが」

自分で言ってて悲しくならないのか、そんな質問を期待に満ちた目でする魔王。それを見るメイド長の顔は不機嫌に歪んでいた。

「おう、美人だぞ~、姉ちゃんに似ているがもっと美しいな。俺がもっと若かったら飛びついちまうくらいにな」
「そ、そうですか!そんなに素敵で美人でナイスプロポーションなんですね!」
「お、おう」

商店主は魔王のテンションに引いていた。若干変な者を見る目になっていたのは言うまでもない。

気をよくした魔王はその後色んな店に入っては同じ質問を繰り返す。その度に満面の笑みを浮かべ、テンションは上りに上がっていた。

「魔王様、そろそろ時間ですので最後にあの大きな宝石店で聞きませんか?」

そこは街の真ん中に位置し、周りの店舗と比べて一際大きく構えているのにも関わらず、なぜか今まで魔王の視界に入っていなかった。

「すみません、この街に初めてきたんですけど、魔王様ってどんな人なんですか?」

繰り返し慣れた質問を満面の笑みを浮かべてする魔王、同じ答えを待っていた。

「あんっ?魔王?ありゃ顔は綺麗だが最悪らしいぞ?気に入らない事がありゃ部下を殴り罵り、場内では裸でうろついていて羞恥心の欠片もない、その癖男には色目使って近寄るらしい・・・・・・まぁ俺も聞いた話なんだがよ」
「なななななな、なん・・・・・誰ががががががががが」
「ど、どうした姉ちゃん。昨日来たイケメンの兄ちゃんが言ってたんだよ」
「だだだだだだだ誰ですか!?」
「お?何って言ったかな~?あっ、そうだ、顔はこんな感じだ」

目を開き顔を引き攣らせ、口からは泡を飛ばし食い付く魔王に店主は立体画像で男を映し出した。

「あああああああああああああの野郎!!」

目にも止まらぬ速さで魔王は城に走り出していた、「殺す」「塵にする」など恐ろしい事を叫びながら。
メイド長はその後姿を見送りながら、にやけた顔でそっと魔法の呪文を口にし、深く被ったフードから頭を出した。

「ん?あの姉ちゃんどうしたんだ?・・・・・・おっ?昨日のイケメンの兄ちゃんじゃねぇか!さっきあんたの話してたんだよ、魔王様の事でな」
「いえいえ、私も無駄にならずに済みました・・・・・・こちらの話です」

朗らかに笑う商店主とにやけ面の男がそこにいた。



その頃魔王城では派手な爆発音が鳴り響いていた。
「無実だ!」「知らない!」
男のそんな絶叫と共に。

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