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第1話 出会い
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寒い冬が終わって、少しずつ春らしい陽気になってきた三月下旬。
春とはいっても、まだほおをかすめる風はつめたい。
桜はまださいていないものの、春休みになってから急に人が増えた気がする。
もえぎ自然公園。ぼくらは『もえぎ公園』と言っている。
グラウンドがとっても広い公園で、市内のいろいろな小学校の子どもたちがこぞって集まる場所だ。
「おーい、センリ!」
遠くで手を大きくふっている男の子が見えて、ぼくは思わず小走りになった。
「いつも待たせてごめんね」
「習いごとだろ? 気にすんなって」
サッカーボールをわきに抱えてにっこりと笑うのは、友達のユウキ。
そのユウキの後ろでサッカーのパス練習をしているケイとリョウスケ。
ぼくらは、みんなちがう学校の小学四年生だ。四月から五年生になる。
毎週土曜日の三時ごろに、ぼくをふくめた四人でサッカーをして遊んでいる仲間。
もえぎ公園はいろんな小学校の子どもが集まるから、ちがう学校だけど友だちということも、めずらしくはないんだよね。
「よし! 全員そろったし、チーム分けしようぜ」
いつも場をしきっているユウキは、パス練習をしているケイとリョウスケに声をかけると、ぼくらは輪になってチーム分けのじゃんけんをした。
「あ、そうだ。センリはゴールキーパーできないんだっけ」
同じチームになったケイがぼくにそう言った。
「うん。ごめん」
ぼくは、とある事情でゴールキーパーができない。
「じゃあ、おれがキーパーやるから、センリは攻げきに回れよ」
「ありがとう、ケイ」
みんな、ぼくのことを深読みしない。
ふつうなら「どうしてキーパーができないの?」と質問されるだろう。
ぼくはら深い付き合いのある友だちではない。
『休日にサッカーをする仲間』だから、おたがいのことを深くは知らない。
だから、ここは居心地がいいんだ。
「あっ! そうだ、母さんから友だちと行きなさいってもらったんだけど」
そう言って、リョウスケがズボンのポケットから紙切れを四枚取り出した。
「わっ、恐竜博のチケットだ!」
ぼくは大きく声を上げた。
『恐竜博』は、春休み中に行われている恐竜の博覧会のチケットだ。
テレビのCMでも放送されていて、チケットがなかなか取れないほど大人気だと聞いている。
「センリは恐竜好きなのか?」
「うん! 幼稚園くらいのときから好きだよ」
そういえば、小さいときは恐竜のおもちゃでよく遊んでいたっけ。
車や電車といった乗り物や、虫取りも好きだったなぁ。
「それで、急で悪いけど、日付指定で三十日なんだ。どう?」
リョウスケはみんなを見渡す。
(三十日……。その日は――)
「あー悪い。その日、おばあちゃんの家に行くんだ」
ケイが残念そうにかたをすくめた。
「おれは行けるぜ!」
ユウキはニヤリと笑うと、リョウスケとハイタッチした。
「それで、センリは?」
「ぼくも……ごめん、用事があって」
本当は行きたかったのに。どうして『あれ』とかぶるんだよ。
「じゃあ、チケット二枚余るな……って、おわっ!?」
リョウスケはチケットを手に持ったまま、後ろにあとずさった。
彼の目の前には、まだ幼稚園くらいの小さな男の子が目をキラキラとさせて立っていた。
「ひかる、きょーりゅーてん、いきたい!」
「え? あ、ああ……あげようか?」
リョウスケは突然あらわれた男の子にこまりながらも、チケットを渡そうとしたとき、遠くから大きな声がした。
「おい! なにやってんだよ、ヒカル」
ふり向くと、赤いパーカーを着たぼくらと同じ年くらいの男の子が走ってきた。
「あ。にいちゃん」
小さな男の子が言った言葉で、その人がお兄さんということがわかった。
「悪かったな。目をはなすと、すぐどこかに行っちまうんだ」
ほら、行くぞと赤いパーカーの男の子が、弟の服を引っぱる。
「やだ! ひかる、きょーりゅーてん、いーきーたーいーっ!」
小さな男の子は目になみだをためて、じたばたとあばれていた。
「あー、ちょうどこいつらが行けなくて二枚余ってたところなんだ。きみも行く?」
リョウスケがぼくとケイを指さした。
「おれもいいのか?」
赤いパーカーを着た男の子は、自分を指さすと目を丸くしてリョウスケに聞いた。
「いいよ。弟が来るなら、いっしょに行ってあげなよ」
「ほんと!? やったーっ! おにーさん、ありがと!」
小さな男の子は満面の笑みで、とびはねてよろこんでいる。
その、むじゃきによろこぶ姿は昔の自分と重なった。
好きになるものに性別は関係がなかった。
あったとしても、それを受け入れてくれる場所があった。
いつからだろうか。ぼくの好きなものが性別で否定されるようになったのは。
「きみ、この辺に住んでるの?」
ユウキが赤いパーカーの男の子に声をかけた。
「ああ。昨日ひっこしてきたばかりなんだ」
ということは、四月から転校してくるのだろうか。
(ぼくの学校じゃないといいな……)
とてもじゃないけど、口に出しては言えなかった。
「おれたち、土曜日の三時からここでサッカーしてる仲間なんだ。おれはユウキで、こっちはリョウスケ。で、今回行けない二人のケイとセンリだ」
流れるように仲間を紹介していくユウキ。
「センリ?」
赤いパーカーの男の子は、そうつぶやくとぼくを見た。
ギクリ。
ぼくはとっさに地面に目線を落とした。
「おれはヨウだ。四月から小五。こいつは弟のヒカル」
「おにーさん、ありがとう!」
ヒカルくんは満面の笑みでリョウスケを見た。
ヨウは、ぼくらと同い年だ。
「よし、じゃあみんなでサッカーやろうぜ! あ、そうそう。センリはキーパーできないんだよ」
「なんでだ?」
ケイが言ったことに、ヨウが首をかしげて聞いた。
「習い事があるんだって」
へえ、そうなのかと言ってヨウがぼくをじっと見つめた。そして、一言。
「楽器とかやってるのか?」
「……!」
ぼく、今どんな顔をしているんだろう。
ハトが豆鉄砲をくらったって、こういうことをいうんじゃないか?
「ど、どうして、そう思ったの?」
おそるおそる、ぼくはヨウに聞いてみた。
「いや、つき指とか気にする人って、楽器やってる人が多いよなと思って」
……どうして。突き指をしたくないなんて、ぼくは一言も言っていないのに。
ぼくの心を読まれているみたいで、全身のふるえと冷や汗が止まらなくなった。
さっきの名前のことだってそうだ。
おかしいと思ったのだろうか。『センリ』という名前が。
(もしかして、ぼくのこと――気づかれてる?)
「……楽器なんて、まさか! だってぼく、男だよ?」
「え? 男だって楽器やるだろ」
何を言っているんだ? そんな返しだった。
ドクン、と心臓がはね上がる。しまった、と思った。
「……じゃあ、ぼくが今日はキーパーをやるよ」
「おっ、今日のセンリは男気があるな!」
横からケイにひじでつつかれる。
「なに言ってるんだよ、ケイ。ぼくは――」
ぼくは、今日もまた息をはくようにウソをつく。
「ぼくは男なんだから、当たり前じゃないか」
春とはいっても、まだほおをかすめる風はつめたい。
桜はまださいていないものの、春休みになってから急に人が増えた気がする。
もえぎ自然公園。ぼくらは『もえぎ公園』と言っている。
グラウンドがとっても広い公園で、市内のいろいろな小学校の子どもたちがこぞって集まる場所だ。
「おーい、センリ!」
遠くで手を大きくふっている男の子が見えて、ぼくは思わず小走りになった。
「いつも待たせてごめんね」
「習いごとだろ? 気にすんなって」
サッカーボールをわきに抱えてにっこりと笑うのは、友達のユウキ。
そのユウキの後ろでサッカーのパス練習をしているケイとリョウスケ。
ぼくらは、みんなちがう学校の小学四年生だ。四月から五年生になる。
毎週土曜日の三時ごろに、ぼくをふくめた四人でサッカーをして遊んでいる仲間。
もえぎ公園はいろんな小学校の子どもが集まるから、ちがう学校だけど友だちということも、めずらしくはないんだよね。
「よし! 全員そろったし、チーム分けしようぜ」
いつも場をしきっているユウキは、パス練習をしているケイとリョウスケに声をかけると、ぼくらは輪になってチーム分けのじゃんけんをした。
「あ、そうだ。センリはゴールキーパーできないんだっけ」
同じチームになったケイがぼくにそう言った。
「うん。ごめん」
ぼくは、とある事情でゴールキーパーができない。
「じゃあ、おれがキーパーやるから、センリは攻げきに回れよ」
「ありがとう、ケイ」
みんな、ぼくのことを深読みしない。
ふつうなら「どうしてキーパーができないの?」と質問されるだろう。
ぼくはら深い付き合いのある友だちではない。
『休日にサッカーをする仲間』だから、おたがいのことを深くは知らない。
だから、ここは居心地がいいんだ。
「あっ! そうだ、母さんから友だちと行きなさいってもらったんだけど」
そう言って、リョウスケがズボンのポケットから紙切れを四枚取り出した。
「わっ、恐竜博のチケットだ!」
ぼくは大きく声を上げた。
『恐竜博』は、春休み中に行われている恐竜の博覧会のチケットだ。
テレビのCMでも放送されていて、チケットがなかなか取れないほど大人気だと聞いている。
「センリは恐竜好きなのか?」
「うん! 幼稚園くらいのときから好きだよ」
そういえば、小さいときは恐竜のおもちゃでよく遊んでいたっけ。
車や電車といった乗り物や、虫取りも好きだったなぁ。
「それで、急で悪いけど、日付指定で三十日なんだ。どう?」
リョウスケはみんなを見渡す。
(三十日……。その日は――)
「あー悪い。その日、おばあちゃんの家に行くんだ」
ケイが残念そうにかたをすくめた。
「おれは行けるぜ!」
ユウキはニヤリと笑うと、リョウスケとハイタッチした。
「それで、センリは?」
「ぼくも……ごめん、用事があって」
本当は行きたかったのに。どうして『あれ』とかぶるんだよ。
「じゃあ、チケット二枚余るな……って、おわっ!?」
リョウスケはチケットを手に持ったまま、後ろにあとずさった。
彼の目の前には、まだ幼稚園くらいの小さな男の子が目をキラキラとさせて立っていた。
「ひかる、きょーりゅーてん、いきたい!」
「え? あ、ああ……あげようか?」
リョウスケは突然あらわれた男の子にこまりながらも、チケットを渡そうとしたとき、遠くから大きな声がした。
「おい! なにやってんだよ、ヒカル」
ふり向くと、赤いパーカーを着たぼくらと同じ年くらいの男の子が走ってきた。
「あ。にいちゃん」
小さな男の子が言った言葉で、その人がお兄さんということがわかった。
「悪かったな。目をはなすと、すぐどこかに行っちまうんだ」
ほら、行くぞと赤いパーカーの男の子が、弟の服を引っぱる。
「やだ! ひかる、きょーりゅーてん、いーきーたーいーっ!」
小さな男の子は目になみだをためて、じたばたとあばれていた。
「あー、ちょうどこいつらが行けなくて二枚余ってたところなんだ。きみも行く?」
リョウスケがぼくとケイを指さした。
「おれもいいのか?」
赤いパーカーを着た男の子は、自分を指さすと目を丸くしてリョウスケに聞いた。
「いいよ。弟が来るなら、いっしょに行ってあげなよ」
「ほんと!? やったーっ! おにーさん、ありがと!」
小さな男の子は満面の笑みで、とびはねてよろこんでいる。
その、むじゃきによろこぶ姿は昔の自分と重なった。
好きになるものに性別は関係がなかった。
あったとしても、それを受け入れてくれる場所があった。
いつからだろうか。ぼくの好きなものが性別で否定されるようになったのは。
「きみ、この辺に住んでるの?」
ユウキが赤いパーカーの男の子に声をかけた。
「ああ。昨日ひっこしてきたばかりなんだ」
ということは、四月から転校してくるのだろうか。
(ぼくの学校じゃないといいな……)
とてもじゃないけど、口に出しては言えなかった。
「おれたち、土曜日の三時からここでサッカーしてる仲間なんだ。おれはユウキで、こっちはリョウスケ。で、今回行けない二人のケイとセンリだ」
流れるように仲間を紹介していくユウキ。
「センリ?」
赤いパーカーの男の子は、そうつぶやくとぼくを見た。
ギクリ。
ぼくはとっさに地面に目線を落とした。
「おれはヨウだ。四月から小五。こいつは弟のヒカル」
「おにーさん、ありがとう!」
ヒカルくんは満面の笑みでリョウスケを見た。
ヨウは、ぼくらと同い年だ。
「よし、じゃあみんなでサッカーやろうぜ! あ、そうそう。センリはキーパーできないんだよ」
「なんでだ?」
ケイが言ったことに、ヨウが首をかしげて聞いた。
「習い事があるんだって」
へえ、そうなのかと言ってヨウがぼくをじっと見つめた。そして、一言。
「楽器とかやってるのか?」
「……!」
ぼく、今どんな顔をしているんだろう。
ハトが豆鉄砲をくらったって、こういうことをいうんじゃないか?
「ど、どうして、そう思ったの?」
おそるおそる、ぼくはヨウに聞いてみた。
「いや、つき指とか気にする人って、楽器やってる人が多いよなと思って」
……どうして。突き指をしたくないなんて、ぼくは一言も言っていないのに。
ぼくの心を読まれているみたいで、全身のふるえと冷や汗が止まらなくなった。
さっきの名前のことだってそうだ。
おかしいと思ったのだろうか。『センリ』という名前が。
(もしかして、ぼくのこと――気づかれてる?)
「……楽器なんて、まさか! だってぼく、男だよ?」
「え? 男だって楽器やるだろ」
何を言っているんだ? そんな返しだった。
ドクン、と心臓がはね上がる。しまった、と思った。
「……じゃあ、ぼくが今日はキーパーをやるよ」
「おっ、今日のセンリは男気があるな!」
横からケイにひじでつつかれる。
「なに言ってるんだよ、ケイ。ぼくは――」
ぼくは、今日もまた息をはくようにウソをつく。
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