10 / 12
#10 犯人
しおりを挟む
建物の中に入り、地下へ降る階段に足を踏み入れて、微かに感じるものがあった。
ターゲット(仮)が都内某所のこのビルで開催される『ヒーロー社会における平和を考えるシンポジウム』に、サプライズゲストとして呼ばれて登壇する予定いるらしい、というのは情報屋から掴んだ。それ以外のターゲットに対する情報は、奴からは手にすることができなかったので、例によって行き当たりばったりの行動だが、それこそ俺の能力の本領発揮とも言える。
……と言うのはほとんど言い訳だが、ここに来るまでの移動の間、念のため何人かに連絡を入れていた。
「……いるな」
階段を降り、扉を開けて、広い地下駐車場に着いて、自身の背中に電撃が走るような直感を感じた。
俺はただ、自分が思うままに歩を進めた。ふと携帯端末を開く。圏外だ。ここから先、首尾よく行動する他ない。
俺は心臓の鼓動が速くなるのを感じていた。ただの直感。ただの妄想。しかし、それは俺にとってはもはや真実だ。
俺のような殺し屋が重宝されるのは、一重にこの直感のためだけだ。
手から毒を噴出したり、身体の一部を爆弾に変えてしまったり、普通の人間ならまず当たらないような遠くからでも対象を仕留める鷹の目を持っていたり、この業界、強さと能力で言えば俺以上の同業者は沢山いる。むしろ俺など、身体は普通の人間仕様なのであり、強さだけで言えば下の下もいいところだ。
それを若い自分はわかっていなかったわけだが。
「あれか」
強く直感を感じる場所があった。
駐車場の角に止めてある乗用車、あそこから強く自分の求めているものがあるという直感がある。
ここが暗い駐車場というのに加え、中は濃いスモークガラスで外からはよく見えない
俺は車の前まで歩いて行き、コンコンと窓を叩いた。
地下駐車場にエンジン音が響き渡り、運転席側の窓が開く。
間違いなかった。
稲妻が頭から落ちてきたかと錯覚するほどの衝撃が脳から足元を貫く。
俺の求めているターゲットがこの男なのだと俺の身体が答えている。
「……こうなってしまって、何人か用心しなければいけない相手は考えていた」
運転席に座る男は、静かに俺の方を向き言った。
「千里眼の能力者、ザ・クヴォイが死んでからもう何年もそういうタイプのヒーローもヴィランも現れていない」
チャキ、と金属音が聞こえた。
「だから、私を見つけ出すのならマナヒコ、お前あたりだろうとは思っていた」
「だから事件のほとぼりが冷めるまで行方をくらまそうとしたと」
「くらませる、まではいかない。ただ、姿を隠し通せることができれば、とは思っていた」
当然、というか俺の直感には限界がある。
自分の追う事象から年月が経てば経つほど、その真実を直感する感度が鈍るのだ。
ウルフレディも『調査はできるだけ早い方がお前の能力にとって都合が良い』と言っていたのも、あまりに時間が経ちすぎると、テキーラ・ウルフを殺したターゲットに対する直感を、俺が失ってしまうからだ。
車の中で、男がもぞもぞと動いた。
俺は後退り、その場から飛び退く。
次の瞬間、車が真ん中から縦に真っ二つに斬れた。
「私を殺すんだろう。お前はそういう男だ。受けた依頼からは逃げない。そこにお前なりの信念がある、と私は思っている」
剣道の防具のような真紅のヒーロースーツを着た彼は、俺に向かい、刀を伸ばした。
俺の前にいたその男は、日本が誇るトップヒーロー。誰もが憧れる、ヒーローの中のヒーロー。
当然殺しなんてしない。ヴィランの暗殺なんて聞いたこともない。
冷や汗が頬を伝わるのを感じた。
「俺はこんな身の上だが、あんたを尊敬してたんだぜ、紅ヤマト」
日本のトップヒーロー、紅ヤマト。
奴がテキーラ・ウルフを密かに殺した、下手人だ。
ターゲット(仮)が都内某所のこのビルで開催される『ヒーロー社会における平和を考えるシンポジウム』に、サプライズゲストとして呼ばれて登壇する予定いるらしい、というのは情報屋から掴んだ。それ以外のターゲットに対する情報は、奴からは手にすることができなかったので、例によって行き当たりばったりの行動だが、それこそ俺の能力の本領発揮とも言える。
……と言うのはほとんど言い訳だが、ここに来るまでの移動の間、念のため何人かに連絡を入れていた。
「……いるな」
階段を降り、扉を開けて、広い地下駐車場に着いて、自身の背中に電撃が走るような直感を感じた。
俺はただ、自分が思うままに歩を進めた。ふと携帯端末を開く。圏外だ。ここから先、首尾よく行動する他ない。
俺は心臓の鼓動が速くなるのを感じていた。ただの直感。ただの妄想。しかし、それは俺にとってはもはや真実だ。
俺のような殺し屋が重宝されるのは、一重にこの直感のためだけだ。
手から毒を噴出したり、身体の一部を爆弾に変えてしまったり、普通の人間ならまず当たらないような遠くからでも対象を仕留める鷹の目を持っていたり、この業界、強さと能力で言えば俺以上の同業者は沢山いる。むしろ俺など、身体は普通の人間仕様なのであり、強さだけで言えば下の下もいいところだ。
それを若い自分はわかっていなかったわけだが。
「あれか」
強く直感を感じる場所があった。
駐車場の角に止めてある乗用車、あそこから強く自分の求めているものがあるという直感がある。
ここが暗い駐車場というのに加え、中は濃いスモークガラスで外からはよく見えない
俺は車の前まで歩いて行き、コンコンと窓を叩いた。
地下駐車場にエンジン音が響き渡り、運転席側の窓が開く。
間違いなかった。
稲妻が頭から落ちてきたかと錯覚するほどの衝撃が脳から足元を貫く。
俺の求めているターゲットがこの男なのだと俺の身体が答えている。
「……こうなってしまって、何人か用心しなければいけない相手は考えていた」
運転席に座る男は、静かに俺の方を向き言った。
「千里眼の能力者、ザ・クヴォイが死んでからもう何年もそういうタイプのヒーローもヴィランも現れていない」
チャキ、と金属音が聞こえた。
「だから、私を見つけ出すのならマナヒコ、お前あたりだろうとは思っていた」
「だから事件のほとぼりが冷めるまで行方をくらまそうとしたと」
「くらませる、まではいかない。ただ、姿を隠し通せることができれば、とは思っていた」
当然、というか俺の直感には限界がある。
自分の追う事象から年月が経てば経つほど、その真実を直感する感度が鈍るのだ。
ウルフレディも『調査はできるだけ早い方がお前の能力にとって都合が良い』と言っていたのも、あまりに時間が経ちすぎると、テキーラ・ウルフを殺したターゲットに対する直感を、俺が失ってしまうからだ。
車の中で、男がもぞもぞと動いた。
俺は後退り、その場から飛び退く。
次の瞬間、車が真ん中から縦に真っ二つに斬れた。
「私を殺すんだろう。お前はそういう男だ。受けた依頼からは逃げない。そこにお前なりの信念がある、と私は思っている」
剣道の防具のような真紅のヒーロースーツを着た彼は、俺に向かい、刀を伸ばした。
俺の前にいたその男は、日本が誇るトップヒーロー。誰もが憧れる、ヒーローの中のヒーロー。
当然殺しなんてしない。ヴィランの暗殺なんて聞いたこともない。
冷や汗が頬を伝わるのを感じた。
「俺はこんな身の上だが、あんたを尊敬してたんだぜ、紅ヤマト」
日本のトップヒーロー、紅ヤマト。
奴がテキーラ・ウルフを密かに殺した、下手人だ。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
許せなかった僕たちへ
古川ゆう
ミステリー
僕達は、過去に大きな過ちを犯してしまった。
このまま一生、罪悪感を抱え生きていかなくてはならないのか。
過去の事件のことなど忘れ社会人になった3人は久しぶりの同窓会にて再会する。
3人の再会を祝福するかの様に
突如としてあの時の事件が再び蘇る。
事件の真相を究明するべく、僕達は動き出した。
※ 話しのおかしな点など多々あると思いますが温かい目でお付き合いください。
書けたら上げていきます。不定期更新です。
所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!
ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。
幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。
婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。
王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。
しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。
貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。
遠回しに二人を注意するも‥
「所詮あなたは他人だもの!」
「部外者がしゃしゃりでるな!」
十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。
「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」
関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが…
一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。
なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる