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#1 テキーラ・ウルフが死んだ。
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テキーラ・ウルフが死んだ。
東京郊外にある地下室のアジトの椅子で、俺がその報せを聞いて思ったことは、驚嘆でも悔恨でもなく「誰に殺られた?」という疑問符だった。
「それが、誰が殺ったわけでもねえらしいんですよ。自然死だそうで」
「あの物ノ怪みたいな爺さんが自然死? 冗談だろ」
俺はテレビを付けた。
テレビのニュースに映るのは相変わらずヒーロー達の活躍だった。
バスの転落事故を防いだオーネットマン、子供が溺れそうなのを颯爽と救ったトードガール、地下鉄を襲った大型ヴィランを倒したレッドキャップ……。
「旦那、流石に奴の死はニュースにゃ流れませんて」
「いや、わかってる。わかってるんだけどな」
ふ、と俺は笑みを零した。
「どうかしましたか、旦那?」
俺にウルフの死を報せに来た禿げ頭の情報屋がそう聞いた。
「いや何。あんな奴でも本当に死ぬときは死ぬのだな、とそう思っただけだ。ところでイトナミ」
俺は情報屋の名を呼ぶ。ん、と片方の眉を禿げ頭は吊り上げた。
「ヒーロー達はどれだけこのことを知っているんだ? お前にも伝わっているくらいだ。ヒーローコミュニティにもそろそろ訃報が流れてもおかしくはないだろう。だが、俺はそれをまだ聞いてないんでね」
「ははあ。それは流石に私どもにもわかりかねますや。旦那自身はまだ一応コミュニティに籍はあるんでしょう?」
情報屋はにやりと笑った。
「俺自身はヒーローではない、と散々っぱら言っているんだが、一応な。紅ヤマトのたっての希望だと言うし、抜け切れんでいる」
「ならもう少し待ったほうが……」
そんなことを言っているうちに、外套のポケットに入れっぱなしになっていた携帯電話が鳴るのが聞こえた。俺は携帯電話を取り出して、通知を見る。
「……噂をすれば、か。これでヒーロー達にも情報が行き渡ったな」
テキーラ・ウルフが死んだ。
「新参者にゃあその意味もよくわかるまいが、これは大ニュースだぞ」
「ようござんした。それじゃあ私はこれで」
「わかった、よく報せてくれたイトナミ」
情報屋は深々と頭を下げてアジトを出ていった。
まあ、もしもウルフが死ぬようなことがあれば、そのことをいの一番に報せてくれ、なんて昔イトナミに依頼したのは俺だし、それ以上のことを奴がする必要もない。
今度は俺はアジトの電話機が鳴った。今時古臭い黒電話だ。戦後から受け継がれているという代わり映えのしない部屋だからこんな時代遅れの代物がこのアジトにはゴロゴロと転がっている。
「はいはい、どちらさん?」
「テキーラ・ウルフが死んだ」
電話口の声がそう言う。俺は苦笑した。
「知っている。今しがたイトナミに聞いたとこだよ。ヒーローコミュニティにも訃報が流れた。あんたが一番最後だぞ、ウルフガール」
そう、テキーラ・ウルフの孫娘に少しだけ嫌味を投げかける。組織に関係のある人間に訃報を伝えているところ、ようやく俺の順番が回ったってところか。
「そうか。お前への連絡順位は本来高くなくてな」
「そりゃそうだろうよ。……待て。本来ってのはなんだ」
「今度、ウルフの葬式をやる。参列するだろ」
「呼ばれりゃそりゃ行くさ。ウルフの爺さんは太客だったし、俺も個人としては弔いを上げたい」
「その時に時間があるだろう。また日取りが決まったら連絡する。じゃあな」
それだけ言うと、ウルフレディはすぐに電話を切ってしまった。
東京郊外にある地下室のアジトの椅子で、俺がその報せを聞いて思ったことは、驚嘆でも悔恨でもなく「誰に殺られた?」という疑問符だった。
「それが、誰が殺ったわけでもねえらしいんですよ。自然死だそうで」
「あの物ノ怪みたいな爺さんが自然死? 冗談だろ」
俺はテレビを付けた。
テレビのニュースに映るのは相変わらずヒーロー達の活躍だった。
バスの転落事故を防いだオーネットマン、子供が溺れそうなのを颯爽と救ったトードガール、地下鉄を襲った大型ヴィランを倒したレッドキャップ……。
「旦那、流石に奴の死はニュースにゃ流れませんて」
「いや、わかってる。わかってるんだけどな」
ふ、と俺は笑みを零した。
「どうかしましたか、旦那?」
俺にウルフの死を報せに来た禿げ頭の情報屋がそう聞いた。
「いや何。あんな奴でも本当に死ぬときは死ぬのだな、とそう思っただけだ。ところでイトナミ」
俺は情報屋の名を呼ぶ。ん、と片方の眉を禿げ頭は吊り上げた。
「ヒーロー達はどれだけこのことを知っているんだ? お前にも伝わっているくらいだ。ヒーローコミュニティにもそろそろ訃報が流れてもおかしくはないだろう。だが、俺はそれをまだ聞いてないんでね」
「ははあ。それは流石に私どもにもわかりかねますや。旦那自身はまだ一応コミュニティに籍はあるんでしょう?」
情報屋はにやりと笑った。
「俺自身はヒーローではない、と散々っぱら言っているんだが、一応な。紅ヤマトのたっての希望だと言うし、抜け切れんでいる」
「ならもう少し待ったほうが……」
そんなことを言っているうちに、外套のポケットに入れっぱなしになっていた携帯電話が鳴るのが聞こえた。俺は携帯電話を取り出して、通知を見る。
「……噂をすれば、か。これでヒーロー達にも情報が行き渡ったな」
テキーラ・ウルフが死んだ。
「新参者にゃあその意味もよくわかるまいが、これは大ニュースだぞ」
「ようござんした。それじゃあ私はこれで」
「わかった、よく報せてくれたイトナミ」
情報屋は深々と頭を下げてアジトを出ていった。
まあ、もしもウルフが死ぬようなことがあれば、そのことをいの一番に報せてくれ、なんて昔イトナミに依頼したのは俺だし、それ以上のことを奴がする必要もない。
今度は俺はアジトの電話機が鳴った。今時古臭い黒電話だ。戦後から受け継がれているという代わり映えのしない部屋だからこんな時代遅れの代物がこのアジトにはゴロゴロと転がっている。
「はいはい、どちらさん?」
「テキーラ・ウルフが死んだ」
電話口の声がそう言う。俺は苦笑した。
「知っている。今しがたイトナミに聞いたとこだよ。ヒーローコミュニティにも訃報が流れた。あんたが一番最後だぞ、ウルフガール」
そう、テキーラ・ウルフの孫娘に少しだけ嫌味を投げかける。組織に関係のある人間に訃報を伝えているところ、ようやく俺の順番が回ったってところか。
「そうか。お前への連絡順位は本来高くなくてな」
「そりゃそうだろうよ。……待て。本来ってのはなんだ」
「今度、ウルフの葬式をやる。参列するだろ」
「呼ばれりゃそりゃ行くさ。ウルフの爺さんは太客だったし、俺も個人としては弔いを上げたい」
「その時に時間があるだろう。また日取りが決まったら連絡する。じゃあな」
それだけ言うと、ウルフレディはすぐに電話を切ってしまった。
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