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15.Mecánico
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大型円型施設の天井に向け、私はTALARIAの武装の一つ、電磁杭を穿った。
放電音と共に天井は焼け溶け、内部に侵入する。
ドシン、と崩れ落ちる瓦礫と共に落ちた場所は、巨大な大広間のような場所だ。HERMの訓練施設と似ている、だだっ広い空間。
TALARIAの飛行モードを解き、八本脚の歩行モードに切り替えた。
辺りを観察する。博士の倉庫に来たのと同じような武装をした兵士が、TALARIAの周りを囲んでいた。
「ここまで来たか」
大広間中に、拡声された声が響き渡った。
私は上を見上げる。大広間の天井近くにある放送室らしき部屋から、何人かの人間がこちらを覗いているのが見える。
私は放送室にTALARIAの望遠レンズを向け、モニターにズームした映像を映し出す。
上等なスーツとネクタイを身につけた男がマイクを手に広間を見下ろしていた。さっきの声はこの男の物か。
あの艶めいた髪に、マイクを握る手首に光る高級時計には私も見覚えがある。
「ミケーレ・マッヨォロガ」
モニター映像を見た博士が、ポツリと彼の名を口にした。
マッヨォロガは、HERMで先輩の戦闘を支える部隊の総指揮を任されていた男で、HERMでは参謀補佐の肩書だった筈だ。私も面識がある。彼もまたガジャゴ出向組で、当時もその胸元にはガジャゴのバッヂを煌めかせていた。
「今は彼がガジャゴのCEOだよ。ぼくにガジャゴへの協力を申し出をしたのも奴だ」
博士が私の知らない情報を捕捉してくれた。じゃあ、シャッガイ領域の研究も、博士の倉庫に兵隊を差し向けたのも、こんな馬鹿でかい施設をこさえたのも全部、あの男の仕業ということか。
当時から政治的に事を成すのが得意そうだったし、実際HERMでガジャゴの兵士が起用され続けたのもマッヨォロガの手腕が大きいんだ、という話は先輩からも漏れ聞いたことがある。
実力はあるのは確かなんだろうが、正直に言って、私にとっては背後に向けて舌を出したい部類の人間だ。
「聞こえるかな。TALARIA操縦士。それともミディアム2か」
マッヨォロガが呼んだのは、どちらも私のHERMにおいてのコードネームだ。自分が組織の歯車である、ということを否応なく感じさせられるので、あまり好きな呼び名ではない。
どちらにしても、今TALARIAを操縦しているのが私だということは、マッヨォロガには筒抜けらしい。
「君のことは、以前から監視していた。ただ年相応の少女《ティーン》らしく、夢を追う生活をしていれば良かったものを。君は彼女の犠牲を無駄にするのかね?」
「貴方に言われたくない!」
放送室から私に呼びかけるマッヨォロガに対し、私もTALARIAの拡声器で声を施設内に響かせて応答した。
「ここで何をしているか知らないけど、シャッガイ領域を再び呼び出す、なんて。正気!? それこそ、あの人の戦いに泥を塗っているも同じじゃない!」
先に喧嘩を売ってきたのは向こうだ。話し合いの余地があればとも思ったが、それはないらしい。奴ら、鼻から邪魔者は排除する姿勢だ。
「わかっているのかいないのかわからないが、理があるのは我々の方だぞ。片や世界の大企業、片や個人で持つには過ぎた兵器を持つ危険因子だろう」
「何を!」
あいつ、人のことをきっぱりテロリストと言いやがったぞ。言っていることは否定できないが、こちらはもう腹を括っているんだ。
先輩の守った世界、怪獣のいなくなった世界。それをひっくり返そうとする者がいるなら、相手が誰であろうが構うものか。
私は上空を見上げる。私が開けた天井の穴から、真紅の空が渦巻くのが見える。そこから糸が施設の下に向けて垂れている。この広間の下だ。
思わず奴と言葉を交わしてしまったが、この下にシャッガイ領域と繋がる何かがあるなら、私はそれを破壊するだけだ。
そう思い、私はTALARIAの脚を振り上げた。
「待てよ。その腕を下ろすのはここにあるのが何なのか。理解してからでも遅くはないんじゃないか? おい! ハッチを開け!」
マッヨォロガの合図と共に、施設が大きく揺れた。広間で私を取り囲んでいた兵士は、既に退避を開始していた。
大広間の地面が真ん中からゆっくりと割れていく。
私は改めてTALARIAを飛行モードに転換し、大広間の床から脚を離す。
ゆっくりと、大広間の床から何か巨大な物が迫り上がって来た。
シャッガイ領域に繋がる複数の糸は、その巨大な物体に吊るされている。
「まさかこんな……」
博士から何とも言えない感情を乗せた声が届いた。気持ちはわかる。なんだこれは。馬鹿馬鹿しいにも程がある。
それは巨大なイグアナのような姿をしていた。
その身体の全てを、鈍く光る金属で覆われている。戦車の複合装甲に似ているが、それとも違う輝きだ。
ギラリと光るその紅い眼は、多分TALARIAに取り付けられたライトと同じものだ。
両肩には大砲のような物が取り付けられているが、それは別に武器というわけではなさそうだ。よく見ると、その内部でプロペラが高速で回転している。私の眼にはその周りには、紅い雲が展開されているように見える。先輩が操縦したTALARIA本機にも取り付けられていた物で、シャッガイ領域のような余剰次元を人為的に発生させる小型異次元発生装置だ。
「紹介しよう。これが我がガジャゴの技術の粋を結集した、今後世界の戦場でその威信を見せつけるであろう超兵器」
大広間の床のハッチが開き切り、その巨躯を露わにしたそれを指し示し、マッヨォロガが叫んだ。
「MechaVodzigaだ!!」
放電音と共に天井は焼け溶け、内部に侵入する。
ドシン、と崩れ落ちる瓦礫と共に落ちた場所は、巨大な大広間のような場所だ。HERMの訓練施設と似ている、だだっ広い空間。
TALARIAの飛行モードを解き、八本脚の歩行モードに切り替えた。
辺りを観察する。博士の倉庫に来たのと同じような武装をした兵士が、TALARIAの周りを囲んでいた。
「ここまで来たか」
大広間中に、拡声された声が響き渡った。
私は上を見上げる。大広間の天井近くにある放送室らしき部屋から、何人かの人間がこちらを覗いているのが見える。
私は放送室にTALARIAの望遠レンズを向け、モニターにズームした映像を映し出す。
上等なスーツとネクタイを身につけた男がマイクを手に広間を見下ろしていた。さっきの声はこの男の物か。
あの艶めいた髪に、マイクを握る手首に光る高級時計には私も見覚えがある。
「ミケーレ・マッヨォロガ」
モニター映像を見た博士が、ポツリと彼の名を口にした。
マッヨォロガは、HERMで先輩の戦闘を支える部隊の総指揮を任されていた男で、HERMでは参謀補佐の肩書だった筈だ。私も面識がある。彼もまたガジャゴ出向組で、当時もその胸元にはガジャゴのバッヂを煌めかせていた。
「今は彼がガジャゴのCEOだよ。ぼくにガジャゴへの協力を申し出をしたのも奴だ」
博士が私の知らない情報を捕捉してくれた。じゃあ、シャッガイ領域の研究も、博士の倉庫に兵隊を差し向けたのも、こんな馬鹿でかい施設をこさえたのも全部、あの男の仕業ということか。
当時から政治的に事を成すのが得意そうだったし、実際HERMでガジャゴの兵士が起用され続けたのもマッヨォロガの手腕が大きいんだ、という話は先輩からも漏れ聞いたことがある。
実力はあるのは確かなんだろうが、正直に言って、私にとっては背後に向けて舌を出したい部類の人間だ。
「聞こえるかな。TALARIA操縦士。それともミディアム2か」
マッヨォロガが呼んだのは、どちらも私のHERMにおいてのコードネームだ。自分が組織の歯車である、ということを否応なく感じさせられるので、あまり好きな呼び名ではない。
どちらにしても、今TALARIAを操縦しているのが私だということは、マッヨォロガには筒抜けらしい。
「君のことは、以前から監視していた。ただ年相応の少女《ティーン》らしく、夢を追う生活をしていれば良かったものを。君は彼女の犠牲を無駄にするのかね?」
「貴方に言われたくない!」
放送室から私に呼びかけるマッヨォロガに対し、私もTALARIAの拡声器で声を施設内に響かせて応答した。
「ここで何をしているか知らないけど、シャッガイ領域を再び呼び出す、なんて。正気!? それこそ、あの人の戦いに泥を塗っているも同じじゃない!」
先に喧嘩を売ってきたのは向こうだ。話し合いの余地があればとも思ったが、それはないらしい。奴ら、鼻から邪魔者は排除する姿勢だ。
「わかっているのかいないのかわからないが、理があるのは我々の方だぞ。片や世界の大企業、片や個人で持つには過ぎた兵器を持つ危険因子だろう」
「何を!」
あいつ、人のことをきっぱりテロリストと言いやがったぞ。言っていることは否定できないが、こちらはもう腹を括っているんだ。
先輩の守った世界、怪獣のいなくなった世界。それをひっくり返そうとする者がいるなら、相手が誰であろうが構うものか。
私は上空を見上げる。私が開けた天井の穴から、真紅の空が渦巻くのが見える。そこから糸が施設の下に向けて垂れている。この広間の下だ。
思わず奴と言葉を交わしてしまったが、この下にシャッガイ領域と繋がる何かがあるなら、私はそれを破壊するだけだ。
そう思い、私はTALARIAの脚を振り上げた。
「待てよ。その腕を下ろすのはここにあるのが何なのか。理解してからでも遅くはないんじゃないか? おい! ハッチを開け!」
マッヨォロガの合図と共に、施設が大きく揺れた。広間で私を取り囲んでいた兵士は、既に退避を開始していた。
大広間の地面が真ん中からゆっくりと割れていく。
私は改めてTALARIAを飛行モードに転換し、大広間の床から脚を離す。
ゆっくりと、大広間の床から何か巨大な物が迫り上がって来た。
シャッガイ領域に繋がる複数の糸は、その巨大な物体に吊るされている。
「まさかこんな……」
博士から何とも言えない感情を乗せた声が届いた。気持ちはわかる。なんだこれは。馬鹿馬鹿しいにも程がある。
それは巨大なイグアナのような姿をしていた。
その身体の全てを、鈍く光る金属で覆われている。戦車の複合装甲に似ているが、それとも違う輝きだ。
ギラリと光るその紅い眼は、多分TALARIAに取り付けられたライトと同じものだ。
両肩には大砲のような物が取り付けられているが、それは別に武器というわけではなさそうだ。よく見ると、その内部でプロペラが高速で回転している。私の眼にはその周りには、紅い雲が展開されているように見える。先輩が操縦したTALARIA本機にも取り付けられていた物で、シャッガイ領域のような余剰次元を人為的に発生させる小型異次元発生装置だ。
「紹介しよう。これが我がガジャゴの技術の粋を結集した、今後世界の戦場でその威信を見せつけるであろう超兵器」
大広間の床のハッチが開き切り、その巨躯を露わにしたそれを指し示し、マッヨォロガが叫んだ。
「MechaVodzigaだ!!」
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