脳髄爆発世紀末

宮塚恵一

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Chapter1 : Punk virus phenomenon

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 パンッ。
 人通りも少なくない、お昼時の駅前広場で、大きな音が響いた。その場にいた誰もが音のした方を振り返った頃には、土砂降りの雨みたいな勢いで、赤い液体が空から降り注いだ。
 悲鳴。広場から蜘蛛の子を散らすように逃げていく人々。鳴り響く緊急警報。

『PVP発生。速やかに避難を。決して現場から離れないでください。繰り返します。PVP発生』

 広場に残される一人。否、さっきまで人であった骸が、支えを失ったかのように今更倒れた。

 検疫車の列が、駅前広場に到着した。防護服に包まれた処理員達が、可及的速やかに首元からドクドクと血を流す骸を検疫車まで運ぶ。血に塗れた広場の清掃が行われていく様を、PVP検疫監査の峰越みねごしはPVP発生現場上空で浮揚するドローンからの映像を、モニターを通じて眺めていた。

警報アラームが間に合ってねえな」

 ボソッと呟く峰越の言葉に、検疫職員の笹賀ささがな溜息混じりに、怒りを露わにした形で応えた。
 
「これでもだいぶすごい方っスよ! 量子ウイルスの発生機序なんて不明なまま、爆発ウイルスの感染者を特定可能になっただけでも偉業っス!」
「次の感染者の特定を急げ」
「聞いちゃいねえっス!」

 笹賀はブツブツと文句を言いつつも、端末を開き、現場の処理員達に指示を伝えた。

「発生現場から半径一キロ圏内を速やかに封鎖。一人も外に出さんでください。その中のうちの誰かが次の感染者……っス」

 笹賀の指示を受け、処理員達は事前の打ち合わせ通りに現場周辺の封鎖とを行っていく。

「これで感染者の特定ができれば、PVPへの対応が劇的に変わる。気張っていけ、笹賀」
「ウスっ!」

 峰越の激励を受け、笹賀は敬礼をする。
 今後、世界が救われるかという岐路だ。否が応にも、皆に緊張が走った。

 爆発ウイルス現象Punk virus phenomenon
 前触れもなく、突如として

 現象の過程は三段階。

 まず、人間の頭部が約0.12秒で体積が通常時の50倍まで肥大。その後、頭部は破裂音を伴って爆発。爆発時に、はその場から消失する代わりに、上空約100mから約600リットル、一人の人間の持つ約120倍もの血液が、バラバラになった脳髄と共に、爆発した頭部上空を中心にして降り注ぐ。

 理屈も何もあったものではない。

 この現象が世界を恐怖に陥れてからもう十四年。

 世界中を襲ったこの未曾有の大災厄は、世界の人口の約半数、実に約50億人をも減少させた。その内の何人がであるのか、実際のところわかっていない。だが、爆発ウイルス現象、通称PVPは世界各地で同時多発的に起こり、その後大幅に発生数を減らし、初の発生から六年後には、年間発生数が平均約677件まで収束した。

 度重なる厄災の発生に対する研究の結果、この現象は量子ウイルスと呼ばれる、空間から空間に移動する物質が人間の脳内に感染することで起こることが判明した。

 瞬時の頭部の肥大も、血液量の尋常でない増大も、脳髄の上空への瞬間移動も全て、量子ウイルスの起こす三次元空間への歪みが原因で起こる現象だ。
 この理不尽にPVPという名称がついたのも、それが判明してからである。
 現象が量子ウイルスによる物とわかってから、各国は“検疫部”と呼ばれるPVP対策チームを発足。量子ウイルスに感染した感染者を中心にPVPが起こってから約一週間で、PVPの周辺1Km圏内のだけが次の感染者となり、新たなPVPを起こす、ということも突き止められた。

 そしてPVPが空間を歪ませる量子ウイルスによるものということは、逆に言えば、量子ウイルスのある所にはその歪みが観測され、感染者を特定できる筈、というのが有力な説であった。しかし、その特定法は長らく不明だった。

 特定法を発見したのが、笹賀君熙ささがきみひろ。東都大学物理学研究室の院生に過ぎなかった天才であり、自身の発見した感染者特定法を最も有効に扱えるのは自分であるとPVP検疫職員にも志願し、峰越と共に今回の特別作戦を指揮することになった男だ。

 今回の作戦は、笹賀のPVP感染者特定法が有効であるかを見極める、極めて重要な物であった。
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