Sub侯爵の愛しのDom様

東雲

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服の試着を終えた後、ルノーから贈られた服を身につけたまま彼の店を出た。慣れない装いは落ち着かなかったが、彼と揃いの刺繍が施された首元が嬉しくて、その存在を確認するように、なめらかな糸の表面をそっと撫でた。
共に乗り込んだ馬車の中、隣り合って座ると、すぐに彼の手が指先を絡め取った。

「このまま昼食に向かってよろしいですか?」
「ああ、大丈夫だよ」

ゆっくりと走り出した馬車は、ルノーの店からほど近い飲食店へと向かった。昼時を過ぎた店内は人の入りも落ち着いていたが、予約していたのか、通されたのは個室の席だった。
先ほどケーキを食べた店同様、値段は高めだが庶民向けの店内は、雰囲気も出てくる料理も気取っていなくて居心地が良い。メインの魚料理も美味しいが、焼きたてであろうふかふかのパンはバターの香りが強く、ほんのりと甘くて、つい手が伸びてしまう。

「美味しいですね」
「うん」

向かい側の席に座るルノーもパンを口に運びながら、ふわりと笑んだ。
同じ物を食べて、同じ感想を抱いている。ただそれだけのこの瞬間が嬉しくて、自然と頬が綻んだ。

「季節ごとにメニューが変わるそうですから、また二人で来ましょうね」
「…うん」

まだ食事をしている途中なのに、『また』という未来の話をしている。
それはとても愛しくて───少し、ほんの少しだけ、苦しかった。



食事を終え、長めの食休みをした後に店を出た。
時刻はじきに空の色が変わり始めるだろう頃合いで、ルノーと過ごす時間も残り半分もないのかと思うと、急な寂しさが込み上げた。

(明日も、仕事で会えるけど…)

毎日会っているはずなのに寂しくなるのは、それだけ彼を恋しく想っているから…思わぬ所でルノーに向ける情の深さを自覚して、ぽわりと頬が火照った。

「どうされました?」
「あ、いや、なんでもないよ」

今日一日ですっかり慣れた隣り合わせで座る馬車の中、ルノーに顔を覗き込まれ、慌ててかぶりを振った。

「えっと…今度はどこに向かっているんだい?」
「ああ、うちの屋敷に向かっております」
「…ルゥくんのお屋敷?」
「ええ。残りの時間は、二人だけでゆっくり過ごしたいので」

そう言われ、寂しいと悄気しょげていた心が見透かされたような、慰められたような、不思議な感覚を味わった。
恥ずかしさと嬉しさを混ぜ合わせた感情で胸が甘く締め付けられたまま、当然のように繋いでいた指先に力を込めると、重ねた指先にそっと視線を落とした。

「…二人きりじゃなくても、今日は、ずっとルゥくんと一緒にいられて…嬉しいよ」

好意を隠さず伝えることに、照れない訳じゃない。正直、今だって恥ずかしくて顔面が熱い。
だがルノーを前にすると、『好き』という感情が溢れ出し、素直でいなければという思いから、驚くほど真っ直ぐな好意の言葉が口をついて出るのだ。
大きな体でもじもじとするのはみっともないと思いつつ、体が勝手に揺れてしまう。それをなんとか抑えていると、ふとルノーからの反応が無いことに気づき、隣を見遣った。

「ルゥくん?」
「……攫って閉じ込めてしまいたい…」
「うん?」
「いえ、僕もベルと一緒にいられて、とても嬉しいです」

呟くような声が聞こえたが、低い音は馬車の音に掻き消され、よく聞こえなかった。
どこか雰囲気を変えた彼を不思議に思う間も、繋がった指先はじわじわと熱を帯び、触れた皮膚から彼の体温が自分の中に流れ込んでくるような愛しさが、ゆっくりと体を満たしていった。


馬車に揺られること暫く、二度目の訪問となるメリア家のタウンハウスに着いた。
馬車を降り、メリア家の執事と軽く言葉を交わすと、挨拶もそこそこにルノーに手を引かれた。

「今日は僕の部屋に行きましょう」
「? …部屋に行ってもいいのかい?」
「ええ。その方が落ち着いて過ごせますし、誰にも邪魔されませんから」

(…誰かに邪魔をされるのか?)

そもそも、何をされたら邪魔になるのだろうか?
不思議な発言に首を傾げながら、ルノーに連れられるまま、屋敷の二階にある彼の部屋へと向かった。
そこでふと、夜会や茶会以外で人の家に上がることすら初めてなことに気づき、ほんのりと緊張感が漂った。

「どうぞ」
「お、お邪魔します」

通された部屋は、家具が飴色のアンティークで統一された落ち着いた雰囲気の部屋だった。
スッキリしているのにどこか愛らしい雰囲気の室内は彼によく合っていて、家族以外の人の私室に初めて入った物珍しさも相まって、ついキョロキョロと辺りを見回してしまう。

「可愛らしい部屋だね」
「ふふ、ありがとうございます」
「あっ、す、すまない、つい……」
「ベルに褒めてもらえるのであれば、どんな言葉でも嬉しいですよ」

微笑むメリアの表情は柔らかく、気分を害していない様子に安堵の息を吐く。

(可愛いというのは失礼だったかもな…)

成人男性と分かっていても、どうにもルノーの愛らしい顔立ちに思考が引っ張られてしまう。
発言に気をつけよう…と気を引き締めていると、不意にルノーに手を引かれた。

「ベル、こちらへ」

ゆるりと誘われ、言われるがまま彼の後についていった先にあったのは、部屋の奥に鎮座していた大きなベッドだった。
ダブルサイズのそれは天蓋付きで、とても立派だ。ただそれを目の前にどうすればいいのか分からず、首を傾げた。

「え……と…?」
「どうぞ、お掛け下さい」
「…ルゥくんの、ベッドだよね?」
「はい」
「…ここに、座るのかい?」
「はい」

───なぜ?
そう思うも、ハッキリと答える彼を前に色々と尋ねるのはどうにも憚られ、浮かんだ疑問は飲み込んだ。

「えっと……じゃあ…失礼、します」

彼と手を繋いだまま、恐々とベッドの縁に腰掛ける。人様のベッドの上に上がったことなど、当然これまで一度も無い。なんだかいけないことをしているような気分に、ドキドキと胸が鳴った。

(誰かのベッドに触れるなんて、マルクのベッドで一緒に寝たのが最後だろうか…)

それとて十歳になるかならないかの頃が最後で、それ以降は弟のベッドにすら上がったことはない。落ち着かない気持ちからソワソワとしていると、ふっと笑うような音が空気を伝って耳に届いた。

「ソワソワしてらっしゃいますね」
「それは…だって、人様のベッドに座るなんて、落ち着かないよ」
「……それだけですか?」
「ん?」
「…いえ」

(…そういえば、ルゥくんは座らないんだろうか?)

自分はベッドに腰を下ろしているが、ルノーは向かい合った状態で立ったままだ。
珍しく彼を見上げる体勢に気づき、僅かに顔を上げると、新鮮な視点を楽しむようにルノーを見つめた。

「…楽しそうですね」
「私がルゥくんを見上げることなんて、なかなか無いからね」

相手がルノー以外でもそれは同じことなのだが、いつも自分を見上げている彼を、今は自分が見上げている新鮮さに、知らず口元が緩んだ。
見上げるとこういう視点なんだな───暢気にそんなことを考えていた次の瞬間、強い力で肩を押され、ガクンと視界がブレた。

「!?」

脳が揺れるような感覚と同時に、体が柔らかな物の上に倒れる衝撃に襲われ、予想外の事態に息が止まった。

「…、……?」

混乱する思考の中、痛いほど掴まれた肩と、視界に映る光景に、ドクドクと心臓が激しく鼓動する。
見上げた視界の中、こちらを見下ろすルノーの表情に笑みはなく、愛らしい空気は完全に消えていた。
真っ直ぐこちらを見つめる金色の瞳───その双眸が、妙にギラついているように見えて、倒された体は固まったまま、起こすことができなかった。

「ル…ル、く…?」

もしや、何か怒らせるようなことを言ってしまったのだろうか?
怯え半分、悲しさ半分でなんとか名前を呼ぼうとすれば、満月のような金色がゆっくりと細められた。

「……ベルは本当に可愛いですね」
「ッ…」

言葉と共に彼の体が傾き、視界いっぱいにルノーの整った顔が視界いっぱいに映る。

「ねぇ、ベル。僕も“男”だって、ちゃんと理解されていますか? 貴方の目の前にいるのは、貴方のことを六年間想い続けていた男ですよ?」

ゆっくりと紡がれる静かな言葉に息を呑む。

「ベルを自分だけのものにしたくて堪らない、欲にまみれた雄です。躾けて、縛りつけて、僕だけのSubになるように調教したくて堪らない恋に狂った男です。そんな男の部屋に連れ込まれて、ベッドまで招かれて……ベルのことを抱きたいと言ったのに、もう忘れてしまったんですか?」
「ッ───」

そう言われた瞬間、今の状況を理解し、カッと頬が熱くなった。
ルノーの部屋、彼のベッドの上。
押し倒された体と、こちらを見つめる情に濡れた瞳───そこに含まれた欲に気づき、反射的に彼の体を押し返そうと腕が伸びるも、その身に触れた瞬間、ルノーが口を開いた。

「お嫌ですか?」
「っ…!」

悲しさを含んだ声に、伸びた腕は凍りつき、それ以上動かせなかった。

「“可愛い僕”に襲われるだなんて、思ってもみませんでしたか?」
「ル、ルゥく…」
「ベルから見たら、僕なんてまだまだ子どもですし、ずっとひ弱に見えますものね」
「ちがっ、そんな、こと…!」
「…そういう対象として見れなくて、当然ですよね」
「…っ!!」

ああ、自分の行動は、彼を意識していないと思わせてしまったのか───怒っているようなルノーの声音に、ふるふると体が震えた。
そこに芽生えた感情は『恐怖』ではなく、無意識の内に愛しい人を傷つけてしまった『悲しみ』で、途端に視界がじわりと滲んだ。

「ちがうっ、ちがうよ…!」

固まっていた両腕を伸ばし、押し倒す彼の体に無理やり抱きつくと、自らその身を引き寄せ、抱き締めた。

「ごめんね! ごめんなさい…っ、違うんだ! ルゥくんは、だって…、いつも、優しくて、私よりずっと、大人びてて…、だから…!」

なんと言えばいいのか分からない。
彼を意識していない訳ではない。ただ、性的なことに対する知識の欠如から、そちらに意識が向いていなかっただけだ。
だがそれをどう説明したらいいのかが分からなくて、上手く言葉が出てこなかった。

「ルゥくんが男の子だってことは、ちゃんと分かってるけど、私が……その、せ、性的な、ことを、分かってなくて…!」

三十二歳にもなって、なんて情けないことを言っているんだろうと思う。ただ今は、彼を傷つけてしまったことを償いたくて必死だった。

「ごめんなさい…っ、ごめんね…!」

謝罪の言葉を繰り返しながら、自身の肉体よりもずっと細い体をぎゅうぎゅうと抱き締める。
もしも許してもらえなかったら、呆れられてしまったらどうしよう…そんな不安から、次第に声に泣きが混じり始めた時だった。

「……ごめんなさい」
「…!」

肩口でポツリと呟くような声が聞こえ、ぴくんと肩が跳ねた。
腕の中、ルノーが身じろぎしたのが分かり、恐る恐る腕の力を緩めれば、緩やかに上体を起こした彼と目が合った。

「…ごめんなさい。ベルが全然僕を意識してくれないので、意地悪を言ってしまいました」
「ち、ちが…、意識してないなんて…そんなことないよ…!」

悲しげな表情で微笑むルノーに、キュウッと胸が切なく鳴いた。
彼のことは、きちんと好きな人として意識している。ただ恋愛事に疎いせいで、と結びつかないだけなのだ。

「大丈夫ですよ、ベル。分かってますから」

穏やかな笑みを浮かべたまま、ルノーの体が離れていく。
優しい表情も、柔らかな口調もいつもと変わらないのに、まるで何かを諦めているように聞こえる声音に、心臓が嫌な音を立てた。

(ダメだ…!)

「意地悪を言ってしまった」と彼は言ったが、きっとさっきの言葉は彼の本心だ。
六年間ずっと想い続けてきたというその感情が、どれほどの熱量を孕んでいるのか、自分には想像することすらできない。どう受け止めたらいいのかも、正直分からない。
ただ今は、彼があらゆる感情と共に、色欲めいたものまで我慢していることが分かり、このままではいけないと焦る気持ちから、反射的に離れていくルノーの体を抱き寄せていた。

「し、躾けて、ほしい…っ!」
「───」

口をついて出た言葉に、バクバクと心臓が鳴る。
それでも今は言葉を選ぶ余裕などなくて、彼の本音をなぞるように、自身の気持ちを告げた。

「ル、ルゥくんが我慢しないでいいように、ルゥくんだけの、Subになれるように、いっぱい、躾けてほしい、から…っ、だから……っ!」

悲しくなることを言わないで───縋るような思いで告げた直後、抱き締めていたルノーの体がするりと腕の中から抜け、驚く間もなく、深い口づけを受けた。

「ル、く…んぅ…っ」

柔い舌が別の生き物のように咥内を舐め上げる。
今日二度目の口づけは、昼間のそれよりも少しだけ乱暴で、でも優しくて、息継ぎの為に離れることすら嫌がるように、長く重なり合ったままだった。

「んぐっ…、んぅ……っ、ぷぁっ、はぁっ、はぁ…っ」

ようやく解放された頃には、息苦しさからクラリと眩暈がした。
必死になって酸素を取り込む間、見上げた視界の中ではルノーが見惚れるほど美しい笑みを浮かべていて、酸欠とは異なる理由で目が眩んだ。

「本当にベルは可愛いですね」
「う……」
「愛しています。愛しています、僕のベル」
「あっ…」

刹那、首筋を熱い息が擽り、温かく湿った何かが皮膚の上を這った。

「ル、ルゥく…っ」

それが舌だと気づくよりも早く、啄むようなキスが首筋を愛でた。チュッ、チュッと響くリップ音に混じり、ぬるつく舌が肌を舐め、ぶるりと肌が粟立つ。
同時に彼の細い指先が、片手で器用にシャツのボタンを外していっていることに気づき、性急さを孕んだその動きにビクリと体が跳ねた。

「あ、ま、まって、ルゥくん…!」
「躾けてほしいのでしょう?」
「そ、そう、だけど…、そうだけど…っ」

嫌ではない。ただ心の準備ができていないのだ。
羞恥と焦り、緊張から語尾を震わせれば、ルノーの唇が目尻にそっと落ちた。

「ベル、怖いことはしませんから、胸だけ触らせて下さい」
「む、むね…だけ…?」
「ええ、胸だけです。それ以外は触りません。…ダメですか?」
「……ダメじゃ、ない…」

「胸だけ」と言われ、ほんの少しだけ不安が和らいだ。
決して安堵できた訳ではないが、どこまでされてしまうのか分からないよりは、『ここまで』と分かっていた方が気持ち的には安心する。
ホッと気を抜くのと同時に体の強張りを解けば、首元のフリルタイが外され、シャツの前が大きく開かれた。

「ッ…!」

同性なのだから、さして恥ずかしくないはず…そう思うのに、好きな人の前で素肌を晒しているのだと思うと、羞恥で耳まで熱くなった。

「ああ……なんて綺麗なんでしょう…」

恍惚とした表情でほんのりと頬を染めるルノーだが、彼が『綺麗』と称したのは無骨な男の胸と腹筋だ。
鍛えた体は筋肉質で、決して綺麗と言われるようなものではないはずだ。それでもうっとりとした瞳で見つめられると、ドキドキと胸が高鳴って仕方なかった。

「ベル、とっても綺麗ですよ。ああ…貴方の肌に触れられるなんて、本当に夢のようです」
「ひゃっ」

ひんやりとした細い指先が、胸の上を優しく滑る。たったそれだけでぞわりと肌が粟立ち、おかしな声が出た。

「ふふ、可愛いですね」
「やっ…ま、まっ…」
「ベル、最初の『躾』です。───強請って下さい」
「ッ…!」
、してほしいことを強請って下さい」

『躾』という単語と共に放たれたDomのオーラ。
Glareとは異なる圧は、いつもの彼とは全く違くて、その変化に気持ちは少しだけ怯え───本能は、とろりと溶けるような歓喜に震えた。

「ルゥくん…」
「はい」
「胸……いっぱい、触って…っ、いじめて下さい…!」
「───good boy良い子。よくできました。ご褒美に、たくさんいじめてあげますからね」
「ぁ……アッ、や…っ」

褒めてもらえた。
それだけで幸福感が込み上げるも、ルノーの指先でふにりと胸を揉まれ、思考はあっという間に羞恥に飲まれた。

「ふ…、ぅ…っ」

女性のような柔らかなどない、ただの男の胸部だ。
そう分かっているのに、胸筋で緩やかに盛り上がったそれを視界の端でモニモニと揉まれ、妙な倒錯感が生まれた。

「大きいおっぱいですね」
「ひぅっ、や、ちが…!」

耳元に寄せられた唇に、ビクンと肩が跳ねる。耳を擽るような吐息と共に、囁くようなルノーの声が鼓膜を揺らし、ゾクゾクとしたものが腰に抜けた。

「可愛いですよ、ベル」
「や…、ルゥく…っ、それやだ…っ」
「ダメです。ちゃんと、僕の声を聞いていて下さい」
「うぅ~っ」

ふにふにと胸を揉まれながら、自分にしか聞こえないような小さな声が、吐息と共に耳朶を嬲る。
どこまでも優しい声なのに、有無を言わさぬ力が込められたそれに、体はただ従うことしかできなかった。

「んっ…、んぅ……んゃ!?」

なんとか唇を噛んで声を抑えるも、直後にはそれも叶わなくなった。
胸にある小さな突起。その表面を、ルノーの指先がゆっくりと撫でたのだ。

「まって! ルゥくん、そこ…っ、あ、あ、ダメ、ダメだ…!」

たった今まで、ただそこにあるだけの肉の粒だった。
そのはずなのに、少しだけ冷えた指先がゆっくりと小さな粒を撫で転がすたびに、言葉にし難い波のような感覚が生まれた。

「やっ…、やだ…っ、ルゥく…!」
「…ベル、乳首気持ちいいの?」
「ひっ!」

ハッキリ『乳首』と言葉にされ、体が跳ねた。
恥ずかしい単語と、いつもと異なるルノーの口調に、頭がふつふつと煮えるような羞恥が全身を包み込む。

「乳首気持ちいいね、ベル」
「ちがっ、ちが…ぁっ」
「違うの? 指の下で、えっちな粒がコリコリしてるの、ベルも分かるでしょう?」
「ひぅっ、あっ…、ルゥく、ルゥくん…っ、耳やだ…!」
「うん、耳も気持ちいいね」
「やだ…っ、ルゥくん…!」

熱い吐息に耳の中まで擽られ、ゾクゾクと背筋を走る悪寒を止められない。
ルノーの言葉の通り、胸の突起が固くなっているのが自分でも分かった。
今まで意図的に触ったことすら一度もない部位。それなのに、優しく転がされるたび、体がビクビクと跳ね、同時に耳を吐息と言葉、声でねぶられ、勝手に腰が揺れた。

(なんで…!?)

それが『快感』であると、性的な知識に乏しい頭は理解できず、ひたすらに混乱し続ける。
性的な意思を持って触れる初めての人肌と、性を誘発する刺激と言葉。
全部が恥ずかしくて、体は熱くて、頭はいっぱいいっぱいで───気づけば瞳から、ぽたりと涙が零れていた。

「いぁ…っ、ルゥくん…!」
「…ベル、泣くほど嫌だった?」
「っ…! ヤじゃな…、嫌じゃないけど…!」
「…恥ずかしい?」
「う、う…!」

コクン、コクンと何度も頷けば、こめかみや目元にチュッと触れるだけのキスが落ちた。

「えっちなことは、嫌じゃない?」
「う…!」
「ふっ、良かった。…もう少しだけ、乳首虐めますからね」
「アッ、や、なんで…っ」
「虐めてって言ったのはベルですよ」
「そ、そうだけど…、そうだけ、あっ…、やぁっ」

言葉と共に、固くなった粒を二本の指先でクリクリと優しく弄られ、膨れ上がった熱にいよいよ耐えられなくなった体を必死に捩った。

「やだっ、ルゥくん、もぅやだ…!」
「…嫌なの?」
「あ、ちが…ヤじゃな、ヤじゃな、けど…っ」
「……ここまでかな」
「んぁっ」

ふっと笑うような吐息が耳元を擽るが、おかしくなっている今の体にはそれすら毒だ。

「ルゥく、ルゥくん…っ」
「…ベルは本当に愛らしいですね」
「んうぅ…っ」

褒められているのは分かるが、今はそれどころじゃない。こうしている間も、指先は容赦なく乳首を弄り、声に鼓膜を犯され、粟立つ体のヒクつきが止まらないのだ。

「ルゥく、ごめんなさい…っ、やめて…、もうやめて…っ」
「うん、もう終わりにしようね」
「ん…っ、ぅん…!」
「じゃあ最後に『乳首気持ちいい』って、自分のお口で言って下さい」
「っ…!?」
「上手に言えたら、今日はもう終わりにしましょうね」

耳に慣れた口調で微笑むルノーはいつもの彼で、だが瞳に宿った輝きは、“雄”としての色欲を放っていて、肉体も精神も征服されるような甘美な酔いが全身を満たした。

「ぁ……ルゥくん…」
「うん、なぁに?」

恥ずかしくて恥ずかしくて堪らない。
それでも、蕩けた頭は愛しいDomに褒めてもらいたいと信号を発し続けていて、いつの間にか上がっていた息に声を混ぜるように、望まれるまま言葉を吐いた。

「ちく、び……乳首、きもちいい…です…」

瞬間、体が熱くて焼けてしまいそうな羞恥に襲われるも、瞳を細めて嬉しげに微笑む愛しい人を目の前に、それすらも悦びに変わってしまった。

「乳首いじめられるの、気持ちいいんですか?」
「ん…、ぅん…っ、乳首きもちいぃ…」
「良い子。よく言えましたね」
「ん……」

ゆっくりと唇が重なり、深く重なり合ったまま、口の中を食べられる。
くちゅりと漏れる粘着質な水音が咥内で生まれるたび、ひくりと喉が鳴り、気持ち良さに脳が痺れた。
意識がぽんわりとしてくる中、唇が僅かに離れた瞬間に、ルノーがポツリと呟いた。

「ご褒美ですよ、ベル」
「え? ひゃっ!? やっ、いぁっ~~~…!!」

呟きと同時に、固く勃っていた両胸の突起をコリコリと激しく転がされ、背が仰け反った。
急な刺激にあられもない声が漏れるも、再び深い口づけを受け、嬌声はルノーの喉の奥へと消えていった。

(ダメ、ダメ、ダメ……ッ!)

愛しいDomに躾けられ、一方的にいじめてもらえることにSubの本能が悦ぶ。
強制的な熱で感度を高められた肉体で初めて得る快感の波は、うぶな体にはあまりにも強烈で───脳が事態を理解できないまま、肉体は甘い絶頂を迎えた。

「~~~っ!! ふはっ、はぁっ、はぁっ、はぁ……、ぁ……?」
「…上手にイけました。良い子ですね、ベル」

ぼぅっとする意識と視界の中、仄かにGlareのオーラを纏った金色に見つめられ、ぐらりと脳が揺れる。
まずい───そう思った時には、もう遅かった。

「可愛い可愛い、僕のベル。これからもっともっと、いやらしい子になるように、たくさん躾けてあげますからね」
「ッ───…」

言葉と共にぶわりと濃くなったDomのオーラに、視界が眩む。
既にずぶずぶに酔っていた肉体は、己を支配しようとする雄の欲と熱に耐えられず、カクンと体から力が抜け落ちるように、意識を手放した。










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実際は乳首をちょこちょこ弄ってるだけですが、ベルさんにとっては大変な初えっち回でした(*´︶`*)
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