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続編 クライドル学院にて

SIDEギルベルト

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 男子寮の三年生専用サロンが何やら騒がしい。
 喉が渇いたギルベルトは、寝る前に何か冷たいものをと思ったのだが、中を覗き見て少し後悔した。
 
「「ウェーイ」」」
 
 あの二人が、炭酸水で何度も乾杯を繰り返している。

「どうしたお前ら,いよいよ沸いたか?」

「おっ、いいとこに来たなにぃちゃん!」
「ほら、こっち来て座んな!」

 酔っているわけでもないのに、テンション高めな彼らは、まあいつもこんな感じではあるが、なんだかとても嬉しそうだ。


(こいつらに相談してみるか?)

「ギルベルト、お前明日彼女と出掛けんだろ?」
「心配すんな、どうしたってユリウスとヨルンには勝てねーから!」

「「ギャハハハハ!!」」


(やっぱりやめとくか)

「おい、待てって! 冗談だって!」
「俺達ほら、こう見えてもう相手いるんだぜ? 相談に乗ってやるから」

(ああ、そうだったな……)

 炭酸水を片手に、ギルベルトは二人の対面に腰掛ける。


「よし、そうこなくちゃ! まずは俺たちにお前の胸の内をさらけ出せ!」
「そうだ、話はそれからだ!」

(部屋で一人、思い悩むよりはいいかもな……)


「まあ、いざとなったら先輩直伝のアレだ!」
「そうだ、ノア・メソッドな! イケメン限定だけどな!」

  
 こうして三人の夜は更けてーーいけば良かったのだが、消灯時間が十分後に迫っていた。



◇◇


(ギルベルト視点でお送りします)


 女のことなんて絶対に好きになれない。なるわけがない。

 ずっとそう思ってきた。
 悪いのはあいつらであって、他の女性は何も悪くない。そう、頭ではわかっていても、身体が拒絶してしまうんだ。

 しかし、リヒター家の跡取りは俺しかいないし、親戚から誰かを養子に据えようにも、近い血筋にはあの強烈な三姉妹しかいない。

 俺が何とかしなくては。そういう思いはずっとあった。

 


 アリシア・ブルーベル

 隣国から転校してきた彼女は、真っ直ぐな黒い髪に深い青の瞳をしていた。
 彼女と目が合うと、俺は息が止まるほどの衝撃に、全身が固まったように動かなくなってしまった。

 こんな時期になってランタナから転校生が来る。
 彼女が来る少し前に知らされたニュースで、実はしばらく騒がしかった。

 緑色のリボンらしい、ということでまだ相手のいない男どもは浮き足立っていたが、正直俺には他人事でしかなかった。
 実際に彼女を見るまでは。


 ユリウスが彼女をランチルームへ案内するため差し出した手をはたき落としたのは、完全に無意識だった。

 だって、彼女に触れて欲しくなかったから。


『あの、あなたのことは何てお呼びすればいいかしら?』

 俺は女子の高い声で名前を呼ばれるのが大嫌いだ。あいつらのせいで、無関係な女子に名を呼ばれても身の毛がよだつ。
 俺は一生、ずっとこのままなのだろうなと思っていた。

 それがあの日、ランチルームで彼女に声を掛けられた時、彼女の美しい声でどうしても自分の名前を、できれば愛称で呼んでほしいと思ってしまった。

 自分は一体どうなってしまったんだ。
 本当に何が起こっているのか未だにわからないんだ。

「アリシア」
「アリシア、アリシア……」

 部屋に一人でいると、何度でも呼んでしまう。

 目を閉じると、彼女の照れたような微笑みが瞼に浮かぶ。

 少し近づくと、フワっと甘い香りがして、どうしようもない気持ちになる。

 早朝の中庭で、偶然彼女に会えたあの日はその幸運を神に感謝した。

 彼女に濡れた髪を拭いてもらった時、俺はしばらく呼吸を忘れるほどだった。
 彼女自身も無意識だったのだろう。ハッと気がついた時の彼女の可愛らしさと言ったら!!

 彼女の走り去る後ろ姿が見えなくなった後、こっそりと彼女の座っていた方へ移動したことは絶対に誰にも言えない秘密だ。

 
 掴んだ手の小ささも、柔らかさも、息を飲むほどに美しい微笑みも、あのサファイアみたいな澄んだ瞳も……

 彼女の全部が俺だけのものになったらいいのにって、最近はそればっかりだ。


 
 ユリウスはいい奴だ。
 言動は軽いが、実際は真面目で信頼もできる。なんでもそつなくこなせる器用なタイプだ。きっとアリシアも彼を好きになる。

 ヨルンもいい奴だ。何より頭がいい。身体つきは俺に言わせるとちょっと細過ぎるが、細身がタイプの女子も多いと聞く。おまけによく気がつくタイプだから、アリシアもきっと彼を好きになる。

 じゃあ、俺は?
 女子には感じ悪いし、無口で無愛想。身体を鍛えるのが好きだが、気の利いたことも言えないし、できない。何をすれば彼女に喜んでもらえるのかさえわからない。


 一体、俺のどこに好きになってもらえる要素があるだろうか?
 


◇◇



 せっかく三人で彼女を誘って街を案内するというのに、なんなんだ、俺は今日一体何をしに来ているんだ。

 馬車に乗っても、正面に座るアリシアが眩し過ぎて直視出来やしない。気の利いた言葉一つ掛けられない。     
 そして結局俺は窓の外を見るしかない。これじゃあ教室にいる時と同じじゃないか。完全に逃げだ、このチキン野郎。

 どの口が『婚活だ』とか抜かしやがったんだ。くそっ、自分自身が情けなくて嫌になる。

 
 ユリウス達は学生がよく行く店をアリシアに案内しているが、俺は楽しそうに歩く三人を後ろで見守ることしかできない。

 昼になっても、気の利いた店のひとつも知らないし、目の前のこのティールームのことだって今初めて知ったところだ。

 長蛇の列を前に、残念そうなユリウスとヨルン。そして、困ったような顔のアリシア。

 俺が気の利く男なら、こんな時もっとスマートに代わりの店を提案したりできるのに……




 そう思った時だった。

ーーバシッッ!!

 アリシアの黒髪に触れようとする不埒な手が伸びてきて、俺は思わずそれをはたき落としていた。

 途中で淡い緑色の髪が視界に入った。
 
 ノアさんか?! 
 と思ったが、なおさら力を加減出来なかった。

 この人はダメだ。
 絶対にダメだ。
 

『良かったら一緒にどう? 僕、今日ここのVIPルーム借りてるんだよね』


 あー、最悪だ。

 よりにもよって、一番会わせたくない男とアリシアが顔を合わせてしまうなんて。

 



ーーーーーーーーーーーー
だんだん一話が長くなりますね。
読みにくかったらすみませぬ。

あと何話かな、まだ書き終わってないですが挿話とこの話含めて12話超えたら本編より長い……

まあ、仕方ないか(^◇^;)
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