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3.何かが起きている

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 学園でアリシアの頬を打ったことを両親に咎められ、マークはこの三日間ずっと自室に閉じ込められている。

 学園からは暴力事件という扱いで二週間の謹慎処分を言い渡された。

「くそっ、なんで僕が……」

 両親から、アリシアの許しが得られるまで謝罪文と見舞いの品を毎日送るように言われた。
 マークは今回もそれら全てをケインにやらせている。

 ケインとはフロックス伯爵家の家令の息子で、マークより五つ年上の青年だ。
 マークはもう何年も、アリシアへの返信や誕生祝いの手配など面倒ごとの全てをケインに任せてきた。


ーーコンコンッッ!!

「誰だ?」
「私です! ケインです!」


 マークが部屋でぼーっとしていると、慌てた様子のケインがやってきた。

「どうしたんだ、そんなに慌てて?」
「それがっ、そのっ、マーク様の婚約が無かったことになるそうなんです!」
「はぁ?」

 マークは行儀悪く寝転んでいたソファから飛び起きた。

「どういうことだ? 婚約を無かったことになどできるもんか」
「それが、ですね。その……婚約の際に交わした書類には、どうやらそういった内容の条件というか、条項っていうんでしょうか、そういうものがあったらしく……」

 ケインが恐る恐る説明すると、マークはポカンと呆けた顔を晒した。

「はぁ? なんだそれ、よく意味がわからないな。いつもいつもマーク様マーク様ってしつこく付き纏ってきたあのアリシアが、そんな簡単に僕のことを忘れられるわけないだろう?」
「ええ、それは私もそう思うのですが、先ほど旦那様とうちの父がそんなことを話していたものですから……」


 二人が信じられない気持ちで話しているときだった。


ーーコンコン。

「坊ちゃま、旦那様がお呼びです」

 ドアの向こうから聞こえる家令の声がいつになく冷たい気がする。
 ケインにドアを開けさせたマークは、家令の顔を見て問いかけた。

「一体、父上はどういったご用件でお呼びなんだ?」

 これから始まる何かが妙に恐ろしくなり、マークは家令にさぐりを入れてみた。

 その問いかけに、家令はまずちらりと自分の息子をうかがった。
 ケインは父親の視線を受けると、気まずげにスッと顔を俯けた。それを見て、すでに息子の口からあのことが告げられたのだと知る。

「どうぞ心しておいでください」

 家令はただそう言って、部屋の外に控えた。


(何なんだ、意味がわからないな。アリシアは僕に心底惚れているんだ。どうせ今回も僕の気を引くための作戦だろ? そうに決まってる)


 父の執務室へと向かいながら、マークは自分自身にそう言い聞かせていた。


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