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3.5 騎士クルト、混乱の極み
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(クルト視点)
コジマを食事に誘ったのは、何も急な思いつきではなかった。
彼女がこの町、というかウラ婆の所に暮らし始めてもう2年いや3年目か。
俺が初めて見た時から、コジマはあの容姿だった。彼女の存在というか噂はすぐ町中に知れ渡った。
ウラ婆の親戚だと聞いている。
いつも魔女のローブを頭からすっぽり被って、外では絶対フードを取らない。
とはいえ、顔はな・・・ちょっと見ればすぐ分かる。
呪いか何かの魔法か・・・
とにかく、酷いもんだなと思った。 何か力になれないか、そう思って彼女に聞いたが首を振って「言えない」と答えるだけ。もちろん、ウラ婆に聞いても答えは同じだった。
だからせめて、コジマがウラ婆の薬屋の一室を借りてマッサージ屋を始めた時、俺は純粋に応援してやろうと思った。
彼女の声は高く可愛らしい。あんな見た目をしていてもきっと若い女性だから、俺のような騎士が出入りしていることが犯罪の抑止力になるかもしれない。
気の毒な若い女性の助けに少しでもなってやれたら・・・
なんて、とんだ思い上がりだった。
俺は、初回から完全に寝落ちした。コジマの手のひらの温かさ、部屋に満ちるラベンダーの香り・・・そして耳に心地よい美しい声。
この俺が、子供の頃から騎士になる為に鍛錬を重ねてきたこの俺が、たかだか身体を撫でられるくらいで寝落ちるなんて。
しかも、驚いたのはそれだけではなかった。
目覚めたら、慢性的な疲れどころか長年共にあった右肩とかかとの痛みが嘘のように消えていた。
以来、俺は毎週通いつめている。
コジマのおかげで、恒例のトーナメント戦でも先日2連覇を成せた。
だから、日頃のお礼を兼ねて食事に誘ったんだ。
・・・で、あれは誰だったんだ?
コジマか?
ああ、そうだよな。俺は確かに彼女を誘って食事に行ったのだから。
これまでの珍しいサル顔はまるで本物の魔物のようだった。
もしコジマのことを何も知らなかったら、近寄りがたくて触れようなどとは到底思えないだろう。事実、俺もそうだった。
でも彼女の事を知るうち、何よりあの手に癒されるうち、俺はすっかりコジマに親しみを覚えていった。
あの時、大きな串焼き肉に齧り付いたコジマは嬉しそうだった。表情はなくても美味しそうに食べる仕草と声色からコジマが喜んでくれているのがわかったし、それが俺にとってもただ嬉しかった。
だから頬、というかサル顔の口元についたタレを拭いてやることくらいなんてこと無かった。
でもまさか、そんな事で彼女の魔法が解けるなんて・・・
目立つ彼女の容姿を隠すための魔法だと聞いた。確かに黒目黒髪なんて聞いたことも無い。だが、ある意味サル顔の方が目立つんじゃないか?とは言えなかったが・・・
コジマが別れ際に言ったんだ。
彼女の真実の姿を見た男は俺が初めてだって。
そして、花が開くように柔らかく笑ったんだ・・・
今まで魔物並のサル顔だったのに、急にあれはないだろ???!
俺はあんな可憐なコジマの前で、これまで爆睡なんていう醜態をさらしてきたのか?!
はぁ・・・
「おい、クルト! いつまでサボってんだよ!」
「ああ? 誰がサボってるって?」
ちょうどいいとこに同期のヨハンがやって来た。
「え? いや、お前なんか変じゃね?」
「問題ない」
俺が休憩から戻らないのを気にかけてくれたヨハンには悪いが、少々頭をスッキリさせたい。
「え、何?いやだよ」
「まだ何も言ってないし、まぁ遠慮するな」
逃げようとするヨハンの首根っこを掴んで、鍛錬場まで引っ張る。
「先週からコジマのマッサージを受けてないんだ」
「じゃあやめとこうぜ、な?」
「大丈夫だ、めちゃくちゃ疲れてるから」
「なら今すぐ行けよ!」
嫌がるヨハンを相手に小一時間、みっちり打ち込んでやったら、無性にコジマに会いたくなった。
コジマを食事に誘ったのは、何も急な思いつきではなかった。
彼女がこの町、というかウラ婆の所に暮らし始めてもう2年いや3年目か。
俺が初めて見た時から、コジマはあの容姿だった。彼女の存在というか噂はすぐ町中に知れ渡った。
ウラ婆の親戚だと聞いている。
いつも魔女のローブを頭からすっぽり被って、外では絶対フードを取らない。
とはいえ、顔はな・・・ちょっと見ればすぐ分かる。
呪いか何かの魔法か・・・
とにかく、酷いもんだなと思った。 何か力になれないか、そう思って彼女に聞いたが首を振って「言えない」と答えるだけ。もちろん、ウラ婆に聞いても答えは同じだった。
だからせめて、コジマがウラ婆の薬屋の一室を借りてマッサージ屋を始めた時、俺は純粋に応援してやろうと思った。
彼女の声は高く可愛らしい。あんな見た目をしていてもきっと若い女性だから、俺のような騎士が出入りしていることが犯罪の抑止力になるかもしれない。
気の毒な若い女性の助けに少しでもなってやれたら・・・
なんて、とんだ思い上がりだった。
俺は、初回から完全に寝落ちした。コジマの手のひらの温かさ、部屋に満ちるラベンダーの香り・・・そして耳に心地よい美しい声。
この俺が、子供の頃から騎士になる為に鍛錬を重ねてきたこの俺が、たかだか身体を撫でられるくらいで寝落ちるなんて。
しかも、驚いたのはそれだけではなかった。
目覚めたら、慢性的な疲れどころか長年共にあった右肩とかかとの痛みが嘘のように消えていた。
以来、俺は毎週通いつめている。
コジマのおかげで、恒例のトーナメント戦でも先日2連覇を成せた。
だから、日頃のお礼を兼ねて食事に誘ったんだ。
・・・で、あれは誰だったんだ?
コジマか?
ああ、そうだよな。俺は確かに彼女を誘って食事に行ったのだから。
これまでの珍しいサル顔はまるで本物の魔物のようだった。
もしコジマのことを何も知らなかったら、近寄りがたくて触れようなどとは到底思えないだろう。事実、俺もそうだった。
でも彼女の事を知るうち、何よりあの手に癒されるうち、俺はすっかりコジマに親しみを覚えていった。
あの時、大きな串焼き肉に齧り付いたコジマは嬉しそうだった。表情はなくても美味しそうに食べる仕草と声色からコジマが喜んでくれているのがわかったし、それが俺にとってもただ嬉しかった。
だから頬、というかサル顔の口元についたタレを拭いてやることくらいなんてこと無かった。
でもまさか、そんな事で彼女の魔法が解けるなんて・・・
目立つ彼女の容姿を隠すための魔法だと聞いた。確かに黒目黒髪なんて聞いたことも無い。だが、ある意味サル顔の方が目立つんじゃないか?とは言えなかったが・・・
コジマが別れ際に言ったんだ。
彼女の真実の姿を見た男は俺が初めてだって。
そして、花が開くように柔らかく笑ったんだ・・・
今まで魔物並のサル顔だったのに、急にあれはないだろ???!
俺はあんな可憐なコジマの前で、これまで爆睡なんていう醜態をさらしてきたのか?!
はぁ・・・
「おい、クルト! いつまでサボってんだよ!」
「ああ? 誰がサボってるって?」
ちょうどいいとこに同期のヨハンがやって来た。
「え? いや、お前なんか変じゃね?」
「問題ない」
俺が休憩から戻らないのを気にかけてくれたヨハンには悪いが、少々頭をスッキリさせたい。
「え、何?いやだよ」
「まだ何も言ってないし、まぁ遠慮するな」
逃げようとするヨハンの首根っこを掴んで、鍛錬場まで引っ張る。
「先週からコジマのマッサージを受けてないんだ」
「じゃあやめとこうぜ、な?」
「大丈夫だ、めちゃくちゃ疲れてるから」
「なら今すぐ行けよ!」
嫌がるヨハンを相手に小一時間、みっちり打ち込んでやったら、無性にコジマに会いたくなった。
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