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閑話 ラコスタ子爵領にて
しおりを挟む最近、以前より上手く商談が進まないことにフィリッポはストレスを感じていた。
具体的にはいつからか・・・
先週か先々週か。
フィリッポは執務机の前で椅子に腰掛け考えている。
両手は、突き出た腹の上で組むのが最近の彼のスタイルだ。
「まさか、な・・・」
胸に引っかかるような、小さな不安の芽を感じつつもフィリッポは気持ちを切り替える。
しばらく目の前の書類を片付けていると、
コンコンコン!
「旦那様!」
ノックと同時に聞こえたのは、家令マルコの声だった。
「どうしたんだ、騒々しい」
「それがーー
◇
「ひどいな・・・」
今、フィリッポはラコスタ子爵家直営のリンゴ農園を視察している。
ここら一帯のリンゴは果実をそのまま出荷している。他にシードルの製造も手がけ、王都や他領でもかなりの人気を博していた。もちろん、フィリッポ自ら営む貿易事業の主力商品でもあった。
「蛾の大量発生です」
「・・・ふむ」
農園を任せている男から、原因となる毛虫を見せられるが、正直見てもよくわからない。
フィリッポ自身は栽培に携わったことなどないのだから。
「珍しい蛾なのか?」
「いえ、毎年そこそこ発生します」
「じゃあ、農薬の散布を忘れていたのか?」
「いえ、例年どおり対策しておりましたが、湧き出るように増えましてね。ここ1週間いや10日くらいでしょうか・・・」
フィリッポは自身の中で不安の芽が伸びていくのを感じた。
◆
アマーリエの母親・ゲルダは、この辺りでは見たこともない銀色の髪をしていた。
さらに瞳の色も星空を映しとったかのような藍色で・・・
それはもう美しい娘だった。
フィリッポと彼女が出会ったのはある冬の朝のこと。
父親に連れられてやってきた国境寄りの果樹園で、珍しく早起きした彼は朝の散歩に出ていた。
その時に鼻歌を歌いながら、ふらふらと裸足で歩いていたゲルダを保護したのだ。
ゲルダは自分の名前の他にはほとんど何も覚えていなかった。
出会った時からすでに心を病んでいたのだろうとフィリッポは思っている。
今にも倒れそうなほど弱々しかったゲルダは、抱き支えたフィリッポを見つめて涙をながした。
そして、彼を見つめながら愛しそうに「ハンス」と別の誰かの名を呼んだのだった。
しかしその瞬間、フィリッポは恋に堕ちた。
たとえ別の男の名を愛しげに呼んではいても、目の前の美しいゲルダは自分だけを熱く見つめてくれるのだから・・・
そうして2人は結ばれた。
ゲルダがフィリッポの名を呼ぶ事は、彼女が亡くなるまでついぞなかったが・・・
ーーーーーーーーーーーーー
読みに来てくださってありがとうございます( ´∀`)
アマーリエのお父さんのお話なので、いつもと違う時間にアップします。
ではまた明朝に・・・
ストックが切れてるので、更新が遅れる事があるかもです(^人^)
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