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7 野宿は回避

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 私は今、ヒューの家の馬車に揺られている。私の隣にはヒューが、正面にはゲラルドさんが座ってる。


『リリーは今日寝るところもないんですよ!』

 とか言って、ヒューが一生懸命二人を説得してくれたんだよね。


 いやマジで、私には今日から帰るところがない。だからこの際、厚かましいのは重々承知でヒューの好意に甘えさせてもらうことにしたの。


 意外にも、ヒューパパはあっさりOKしてくれたんだよね。ゲラルドさんのほうはご主人様がOKなら……と、渋々といった表情を浮かべてた。

 


 今、ヒューは私の右腕にキュッと掴まって、眠ってたときと同じようにぴったり寄り添っている。  


「我々はまだ貴女を信用しておりません。その事をくれぐれもお忘れなきよう」


 ヒューと見つめ合っていたら、正面に座ったゲラルドさんからそんな言葉が飛んできた。
 彼の隣に座るヒューパパの顔をちらっと伺ってみたけど、無表情だからさっぱり感情が読めなかった。

「はい、肝に命じておきます・・・」

 ゲラルドさんの心配は当然のことだと思う。  
 私にも図々しいっていう自覚はちゃんとある……けど、ほんとごめんなさい、異世界で野宿とかほんと無理。っていうか、異世界じゃなくたって野宿とかしたことないんだもん。


「もう、ゲラルドってばリリーをいじめないでください」

 ヒューは私の右腕ごとギュッと抱き込んで安心させるように微笑んでくれた。
 対面に座る2人、特にゲラルドさんはそんな私たちをなんとも言えない複雑な表情で見ていた。



 ヒューパパはクール系イケメンだ。
 プラチナブロンドよりの淡い金髪を短く刈り上げて、剣士っぽいというかいかにも身体鍛えてますって雰囲気。
 アイスブルーの瞳は見るからにクールな印象で、表情筋はあまり仕事してなさそう。

 ゲラルドさんはいかにも学者って感じの気難しそうな印象。歳はヒューパパと同じくらいか少し年上な感じ?
 栗色の長い髪を背中でひとつに結んでる。瞳の色は黄緑色。こちらも違うタイプのイケメン、インテリ眼鏡様だね。

 失礼にならない程度に二人を観察した後、窓の外を見た。日が傾いて、空はもうオレンジ色に染まり始めている。
 
 これ、実は人生初の馬車だったりする。
 石畳って見た目結構ガタガタしてるのに、ほとんど振動がないんだよね……あ、もしかして魔法とか使ってるのかな?

 そんなことを考えていると。


「息子が世話になった、ひとまず礼をいう」

 初めて、ヒューパパから話し掛けられてちょっとびっくりした。

「あ、いえ。特別なことはなにもで…」

 イケメンを直視できる勇者では無いので、私は一瞬だけ目を合わせた後はヒューパパの襟元を見つめていた。


「あの、貴女のことを詳しくお聞きしてもよろしいですか?」


 続いて、正面に座ったゲラルドさんが切り出した。
 パンを鑑定した後、ゲラルドさんの雰囲気が少しだけ変わった気がするんだよね。ちなみにあのまま、パンは全てゲラルドさんに預けている。
 なんか、あれだ。四次元ポケット的なあれに私のサブバッグごと入れられてしまった。


「はい。あの、改めまして厚かましくもお言葉に甘えてしまい申し訳ございません」

 まずは、頭に巻いたショールを外して向かいに座る二人に頭を下げた。

「うわぁ……」

 と、ヒューが声を上げる。
 顔を上げると、正面に座る保護者2人もこちらを見入るように見つめていた。きっとこの髪色のせいだよね。


「私は桜乃川サクラノカワりりと申します。あの、ご存知ないかと思いますが、私は日本という国に暮らしていました。ですが今日、なぜか突然この国に転移したみたいで……」

 あえて、ヒューと同じように「転移」と言わせてもらった。
 だって「召喚」よりは一般的な気がした。
 万が一にも自分のステータスとやらをまた強制的に見られたら困るし、聖女と一緒に召喚されたって話は避けたいんだよね。

 ここでまた、このイケメン二人を前に「非処女」をさらすのもなんか嫌だし、いくら行くとこないからって娼館送りも勘弁してほしい。


「ニホン?」
「聞いた事もありませんね」

 そりゃそうでしょうとも。

「ニホンという国がどこにあるのか知らないが、君のその髪と瞳の色はとても珍しいな」

 ヒューパパもゲラルドさんも、私を物珍しそうに見てる。

「私の国では、皆さんのような色合いのほうが珍しいですよ?」


 とはいえ、ここが地球上なら黒眼黒髪も金髪碧眼だって珍しくもなんともない。ってことは、ここは私のいた世界ではないということ。

 唐突に『異世界』という単語が頭に浮かぶ。


 あの時、最前列で信号待ちなんかしてなかったら、こんなことに巻き込まれずにすんだのかな。

 あの時、試作品なんて焼いてないで定時で店を上がってたら、ちゃんと家に帰れてたのかな。

 あの時……


 って、暗い思考に沈みそうになってパッと顔を上げると、ヒューパパのアイスブルーの瞳と目が合った。


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