罪と罰とは

双葉

文字の大きさ
上 下
5 / 6

しおりを挟む
一時間ほどでジュースを買って戻ると多少落ち着いた竹次が泣いていた位置に座っている
「買ってきたんですが、飲みますか?」
竹次はわたしからジュースを受け取ると開けて焼け酒をするかのようにジュースを飲み咽せている
わたしも何とか場を和ませようと「わたしの分もありますから、取りませんよ」と言ってみたが間違っていたらしい
竹次はわたしをみてから「さっきの続きですが、まだ聞きたいですか?」と聞いてきた
「いえ、あなたが奥様を刺したのではない事は知れましたから。ですが話を聞いて疑問に思う事がたくさんあります」
「どうぞ」
「一つ目はなぜ罪を認めたのですか?サインした調書においても裁判においても偽証罪に当たる可能性もあります」
竹次はジュースをぐびっといき、咳き込んだ
「別に嘘はついていませんよ。『お前が殺してのか』と聞かれたらので、はいと答えた。最後、ハルを殺す為に包丁を押し込んだ。殺す為に刺したんですから殺意もあったと思っています」
「でも、そうなるように仕向けた気さえする。話が本当なら殺人ではなく自殺幇助だ。司法を職としたいものとして抗議します。なぜ警察にそんなふうに言ったんですか」
「別にそうしようと思った訳ではないよ。あの時は何も考えられなかった。ただ聞かれた事に答えていたらそうなっただけだ」
「でも、警察がそんなずさんな事をするなんて」
「別にずさんではないだろう。多少の思い込みはあっただろうが、刺したと思う人間がいて、本人も『殺した』と言っている。その時の話もろくに聞けない。でも、包丁もあり、妻の血で汚れている、話も近所から聞いている」
「状況証拠だけじゃないですか。抗議するべきですよ」
「もし、抗議してなんになる?妻は帰ってこない。私が妻を殺した事実は変わらない」
「でも、あなたの名誉は少なからず回復すると思います」
「そんなものは要らない。ここで妻とのんびり暮らせるだけで良い。もしわたしが抗議するとすれば、罪の軽さだろうか」
「え?」
「わたしの罪は、妻の命の重さだ。あんなに軽くて良いのだろうか。妻の命はそんなに軽いのか。警察は妻をすぐに忘れるだろう。忘れるほどの軽さなんだろうと思う。わたしも、知らない人が殺されても気にも留めない。ご近所の方々は妻を覚えてくれている。それがありがたい。わたしが住んでいれば、妻はわたしと一緒に生きているんだ」
竹次の話で判決の時に見た悔しそうな顔を思い出した
あの時竹次は本気で腹を立て悔しがっていたのかもしれない
今わたしは、軽かったのだから良いではないかとは言えなかった
竹次は加害者であると同時に遺族なのだ
その上、本人の希望を叶える為にした事
本当は加害者より目の前で殺された一被害者に近い気がする
それでも近所から後ろ指をさされながら細々と生きている
知らぬ土地に行けば少しは楽になるかもしれないのに、頑なにここに住みたがっていると聞く
法では刑務所から出れば罪を償った事になるかもしれないが、竹次にとってはご近所に責められている事も罪を償っている事になるのかもしれない
そして、ハルが生きていた証の一つを求めているのかもしれない
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...