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お嬢様も時には積極的に?

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ある日のことです。


アリスは一人考えていました。最近、マートスにやられっぱなしじゃない?と。


前までは私に全く興味を示さないどころか冷たくあしらうくらいだったのに、最近は私の方がマートスに攻められてタジタジにされてしまっている。


なんだか、悔しいわ。


こうなったら、マートスに急にキスして驚かせてやる。見てなさいよ!


さて、上手くいくのでしょうか...?




「マートス!」


騎士の訓練の昼休憩を見計らい、アリスはマートスを中庭へと呼んだ。マートスは相変わらず無表情のまま、むしろだるそうに何ですか?という始末。


なによっ。この間クラウス様が来た日はあんなに嫉妬してたくせに!


あの日はひどかった。クラウス様は久しぶりの再会に嬉しそうに私を抱きしめようとしたところ、隣にマートスがさっと現れてなんとクラウス様を睨みつけたのだ。


突然の騎士の登場にクラウス様は驚いて、決まり悪そうに「元気そうだね」と握手のみして、その後ずっと隣でマートスが立っているものだから会話も弾まず、微妙な空気のままお開きとなったのだ。


「マートスのバカっ」


「誰がバカなんですか?」


あの日のことをふと思い出してボソッと呟くと、マートスが鋭くそれを拾い上げる。


地獄耳なのよね、この人。


「...あの日のことなら謝りませんよ。婚約者に抱きつこうとする方を牽制して何が悪いのですか?」


「なっ...」


自覚はあったのね。た、タチが悪いわ。


「...呼んだのはそれですか?」


私を横目で見て、ふぅとため息をつく。


何よ。何でそんなに不機嫌なのよ。


悔しかった。私はマートスを見るだけでこんなにもときめく。たとえ彼が不機嫌でも、会えるだけで嬉しいのに。


「...っ、違うわよ!!」


アリスはマートスの唇にキスをしようと勢いよく顔を近づけた。


ガツッ


「いっ....た...」


勢いがつきすぎて歯がぶつかり、痛みと恥ずかしさで思わずしゃがみ込んだ。


「...アリスお嬢様?」


上の方でマートスの声が聞こえるけれど無視する。悔しい、悔しい。


どうしてこうも上手くいかないのだろう。


「アリスお嬢様」


「......」


「...アリス」


突然名前で呼ばれて驚いて顔を上げると、少し笑みを浮かべたマートスが、しゃがみ込みアリスを覗き込んでいた。


「な、なによ」


恥ずかしくなってそっぽを向くと、マートスが頬を両手で挟むようにして無理矢理自分の方へと向かせる。


「キスしようとしたんですか?」


「...そうよ。悪い?」


「ふっ」


マートスは吹き出すように笑った。なかなかマートスが笑う姿は見られない。アリスは驚きながらもバカにされたのだと思い、「なによっ、もういい!」とその場を離れようとした。


腕をぐっと引かれたかと思うと、目の前にはマートスの顔があった。じっと見つめられてアリスはじわりと顔が熱くなるのを感じた。


そしてそのまま、マートスは目を閉じた。


「どうぞ」


「な、によ?」


「してくれるんですよね?キス。目を閉じてますから、これで良いですか?」


「なっ...!?」


マートスは目を閉じたまま動かない。腕は掴まれたままで逃げられなくなった。


...悔しい。でも、もういいわ。


アリスはそっと顔を近づけ、マートスの唇に自分の唇を押し付けた。


その瞬間、はむっと唇を食べられたかと思うと、舌がするりと入り込んでくる。


「んっ...!?」


そのまま後頭部をがっちり掴まれ、アリスはしまったと思ったがもう遅い。


徐々に侵食されてゆくのを感じながら、アリスは必死でついていく。


「ハァッ...アリス、舌をもっと絡めて」


「んっ....ぁ...」


「そう、いい子だ...」


何も考えられなくなる。


マートスは一通りアリスを味わうと、満足したように唇を離した。


「アリスお嬢様、後少ししたら夫婦になるんですよ」


「...そうね」


「楽しみにしてます」


耳元で囁いたかと思うと、真っ赤になるアリスを残して訓練場へと戻っていった。



私、マートスに敵う日が来るのかしら?
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