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葛藤

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マリーは僕が好きで結婚した訳ではないことくらい、わかっていた。彼女の中で僕との結婚は政略結婚。それ以上の感情はきっとない。


彼女と結婚できれば、妻にできれば満足するのだと。満たされるのだと思っていた。念願だった彼女を妻として迎え入れることも、彼女と肌重ねることもできた。


ずっとずっと、喉から手が出るほど欲しかったものを手に入れたはずなのに。どうして今こうも苦しいのだろうか。


好きになって欲しい、僕と同じくらい彼女に愛してもらいたい。


そんな感情が渦巻くようになったのはいつからだろう。


初めて肌を重ねた夜、嬉しくて涙が零れ落ちた。彼女をようやく手に入れたのだと、実感できた気がしたから。それと同時に、彼女に愛されたいと言う気持ちも芽生えたのだ。


「好きだよ」
「愛してるよ」


そう伝えるたびに、彼女の口からも同じ言葉が出てくるのを願う自分がいた。


昔から、優秀な兄達と比べられながら育ってきた。出来損ないだと思われていた僕は、周りからは期待されずに育った。


特に除け者にされたり、邪険に扱われたりした訳ではない。兄二人は僕に対して優しかったし、周りの期待なんてある方が辛いことも多いぞ、なんて言って慰めてくれた。けれど僕はそれが羨ましかった。誰かから必要とされていることが、それが手に入ることが単純に羨ましかったのだ。


初めてマリーと出会って、僕は自分の人生が少しずつ変わっていくのを感じた。


この子が、将来の僕のお嫁さんになるんだ。...僕の、僕だけの。


何も手に入れられない、期待もされないと思っていた。でも彼女だけは僕のものになるんだ。


執着、と言われればそうなのだろう。僕にはマリーだけだった。


読書好きな彼女。それは僕にとって好都合だった。


外の世界は知らなくていい。彼女の世界は僕だけでいい。そう思っていた。


パーティーではしゃぐ彼女を見て、僕は彼女を狭い世界に閉じ込めてしまっていたのではないかと思った。


それと同時に、それを知ってしまうことで僕のそばから彼女が離れて行ってしまうのではないかと不安になった。


御令嬢が僕のそばにまとわりついても、彼女は表情を変えなかった。マリーが他の男達に言い寄られていたら、僕は冷静さを保ってはいられないだろう。


つまりは、僕はマリーにとってその程度なのだ。


カストル公爵とマリーの視線が合うたび、僕は苦しかった。お願いだから、その綺麗な瞳に他の人を映さないで欲しい。


...気持ちが悪い。こんな感情、捨ててしまいたい。


マリーが不安げに問いかけてくる。僕の様子がおかしいと。


「おかしい、か」


そうだ。僕はおかしい。


マリーをぼんやりと見つめ、ずっと避けていた言葉を投げかけた。


「君は...僕のことが好きかい?」

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