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物語の真相
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本来の物語は、この国の第一王子であるルカと聖女クリスティアの恋愛ファンタジーである。
怪物が現れてルカが先陣を切って怪物と戦い、そしてクリスティアというパートナーと共に国を救っていく。
最初こそ政略結婚ではあったが、お互いの良さに気づき、愛を育んでいく。というのがこの物語の流れだ。
…表向きは。
その裏では別の物語が存在していたことに、果たしてどれほどの人が気づいていたのだろうか。
何故マルスティアは面識のないクリスティアのことを、他の令嬢たちから守ったのか。そして怪物との戦いが終わり、クリスティアと共に笑顔を浮かべて国の平和を喜ぶ最後の場面で何故出番の少ないマルスティアが堂々と出てくるのか。
それは、マルスティアこそが怪物から国を守っていた張本人だったからだ。いわゆる、影のヒロイン。
マルスティアは物心がついた頃から自身の才能に気がついていた。魔法についての関心が深く、こっそりと本を読んで少しずつ技術を習得していった。そのうち本だけでは飽き足らず、瞬間移動や壊れたものを修善するなど、身の回りのことは魔法を使うようになった。
そしてそれは、魔力を持つ限られた人にしか習得できない魔法であること、令嬢が持つべき力ではないことも知っていた。
だからこそ、趣味の範囲で終わらせようと努力した。特に魔法の使い道があるわけではないからだ。
伯爵令嬢として生まれたマルスティアにとって、魔法の習得は彼女の人生において不必要なものだった。単なる興味で身につけただけなのだ。これを人に話してはならない。本能的にそう理解していた。
それが解き放たれる事になったのは、怪物が国に現れるようになってからだった。
怪物は次第にマルスティアの国を荒らしていった。平和だったこの国が一瞬にして恐怖に包まれていく。怖かった。
マルスティアは隠し持ったこの力で何とかこの国の人々の役に立とうと思った。初めて怪物を目にした時、彼女は不思議と怖くなかった。
相手の方が弱く、自分の方が明らかに強いと気づいたからだ。彼女は周囲にバレないように目隠し魔法を使って辺りを覆った後、怪物を次々と倒していった。
そして彼女が率先して倒したのは、物語のヒロインであるクリスティアの地域にくる怪物だった。そこの地域だけが騎士が足りないことを新聞を読んで把握していたマルスティアは、彼女の地域に瞬間移動し、密かにその地域の人々を怪物から守っていた。
そこで、初めてクリスティアの存在を知ることとなる。病院内で甲斐甲斐しく働くクリスティアを見た瞬間、マルスティアは彼女こそが聖女だと直感的に気付いた。
そこではクリスティアが当たり前のように治療魔法を使っていたからだ。マルスティアは皇帝が気づく前から、クリスティアの存在を知っていた。
何故公にならなかったのかというと、孤児院の院長が自身の利益のために彼女の力を利用していたからだった。
マルスティアはクリスティアの存在を密かに広め、ようやく皇帝はクリスティアの存在に気づく事になる。その時彼女は既に多くの人を救っていた。
堂々と人々を助けられる聖女。それとは対照的に、人々を守るために怪物と密かに戦う魔力を持つマルスティア。
実はこの物語のヒロインは2人いたのだ。マルスティアは魔法使いとしての素質を認められ、最終的には皇帝の元で初の女性騎士として活躍することとなる。
それは、この物語の中では書かれておらず、原作者が後付けのように実はそのような裏設定があったとさらりとあとがきに書いたのだ。
マルスティアファンは歓喜した。彼女がそのような重要な役割を持つ人物だったとは!
表向きは、友人を救った聖女。そして裏の設定は、そのようにして噂を広めたマルスティアの存在が彼女が聖女としての人生を歩んでいく重大な役割を担っていたのだった。
あとがきの端には、このような走り書きの文章が書き記されていた。
『実はマルスティアも治療魔法を使えるんです。だけどクリスティアを引き立たせるためにあえてそのシーンは書きませんでした。聖女は物語に2人も出てこないですからね』
怪物が現れてルカが先陣を切って怪物と戦い、そしてクリスティアというパートナーと共に国を救っていく。
最初こそ政略結婚ではあったが、お互いの良さに気づき、愛を育んでいく。というのがこの物語の流れだ。
…表向きは。
その裏では別の物語が存在していたことに、果たしてどれほどの人が気づいていたのだろうか。
何故マルスティアは面識のないクリスティアのことを、他の令嬢たちから守ったのか。そして怪物との戦いが終わり、クリスティアと共に笑顔を浮かべて国の平和を喜ぶ最後の場面で何故出番の少ないマルスティアが堂々と出てくるのか。
それは、マルスティアこそが怪物から国を守っていた張本人だったからだ。いわゆる、影のヒロイン。
マルスティアは物心がついた頃から自身の才能に気がついていた。魔法についての関心が深く、こっそりと本を読んで少しずつ技術を習得していった。そのうち本だけでは飽き足らず、瞬間移動や壊れたものを修善するなど、身の回りのことは魔法を使うようになった。
そしてそれは、魔力を持つ限られた人にしか習得できない魔法であること、令嬢が持つべき力ではないことも知っていた。
だからこそ、趣味の範囲で終わらせようと努力した。特に魔法の使い道があるわけではないからだ。
伯爵令嬢として生まれたマルスティアにとって、魔法の習得は彼女の人生において不必要なものだった。単なる興味で身につけただけなのだ。これを人に話してはならない。本能的にそう理解していた。
それが解き放たれる事になったのは、怪物が国に現れるようになってからだった。
怪物は次第にマルスティアの国を荒らしていった。平和だったこの国が一瞬にして恐怖に包まれていく。怖かった。
マルスティアは隠し持ったこの力で何とかこの国の人々の役に立とうと思った。初めて怪物を目にした時、彼女は不思議と怖くなかった。
相手の方が弱く、自分の方が明らかに強いと気づいたからだ。彼女は周囲にバレないように目隠し魔法を使って辺りを覆った後、怪物を次々と倒していった。
そして彼女が率先して倒したのは、物語のヒロインであるクリスティアの地域にくる怪物だった。そこの地域だけが騎士が足りないことを新聞を読んで把握していたマルスティアは、彼女の地域に瞬間移動し、密かにその地域の人々を怪物から守っていた。
そこで、初めてクリスティアの存在を知ることとなる。病院内で甲斐甲斐しく働くクリスティアを見た瞬間、マルスティアは彼女こそが聖女だと直感的に気付いた。
そこではクリスティアが当たり前のように治療魔法を使っていたからだ。マルスティアは皇帝が気づく前から、クリスティアの存在を知っていた。
何故公にならなかったのかというと、孤児院の院長が自身の利益のために彼女の力を利用していたからだった。
マルスティアはクリスティアの存在を密かに広め、ようやく皇帝はクリスティアの存在に気づく事になる。その時彼女は既に多くの人を救っていた。
堂々と人々を助けられる聖女。それとは対照的に、人々を守るために怪物と密かに戦う魔力を持つマルスティア。
実はこの物語のヒロインは2人いたのだ。マルスティアは魔法使いとしての素質を認められ、最終的には皇帝の元で初の女性騎士として活躍することとなる。
それは、この物語の中では書かれておらず、原作者が後付けのように実はそのような裏設定があったとさらりとあとがきに書いたのだ。
マルスティアファンは歓喜した。彼女がそのような重要な役割を持つ人物だったとは!
表向きは、友人を救った聖女。そして裏の設定は、そのようにして噂を広めたマルスティアの存在が彼女が聖女としての人生を歩んでいく重大な役割を担っていたのだった。
あとがきの端には、このような走り書きの文章が書き記されていた。
『実はマルスティアも治療魔法を使えるんです。だけどクリスティアを引き立たせるためにあえてそのシーンは書きませんでした。聖女は物語に2人も出てこないですからね』
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