地味な私と公爵様

ベル

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憔悴する王子様 sideラエル

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ローズと会えなくなって数日が経った。


最初は、事件の後で精神的にも辛いのだと思い、しばらくはそっとしておいた方が良いのだと思っていたのだが、それがあまりにも続くとさすがに焦りが出てくる。


何度かローズの元を訪ねたのだが、ローズの侍女が出てきて、お嬢様はお疲れのようで会える状態ではないと追い返される日々が続いた。


少しでもいいから顔だけでも見たいと伝えても、会えないとつき返される。


これほどまでに拒絶されたのは初めてで、私はどうしたらいいのか分からなかった。


「...様、ラエル公爵様!」


はっとして顔を上げると、カイが私の顔を覗き込んでいるのに気づいた。


「あ...あぁ、すまない。なんだ?」


「シルキー令嬢とその他の御令嬢の伯爵家からそれぞれ抗議の連絡が来ておりますが、いかが致しましょうか?」


すうっと感情が冷えてゆくのがわかり、私は冷たい声で言った。


「放っておけ。これ以上私の決定を邪魔するようであれば容赦しないと伝えろ」


「承知しました」


本当は家族の爵位ごと奪うこともできたが、そこまでしなかったのは昔の自分の行いを恥じていたからだ。私があのような行動を取らなければ、もしかすると彼女達もあそこまで卑劣な行為をせずとも済んだのかもしれない。


彼女達を学園から追い出すこと、そして修道院へと送ることを決定したのだ。


ぐっと拳を握り、怒りを鎮める。自分にも腹が立って仕方がなかった。


ローズが会ってくれないのは他にも理由があるのだと、気づいていた。シルキー令嬢の話を彼女から問われた時、はぐらかしたことを今更ながら後悔していた。


正直に話していたら何か変わったのだろうか。私はどうして自分勝手にしか考えられないのだろうか。


...ローズ、会いたい。


情けないが、ローズと会えなくなってから私自身も憔悴しきっていた。彼女に会いたくて、触れたくて仕方がない。


どんな様子なのか、きちんと食事を取れているのか心配だった。学園もしばらく休んでいると聞き、会うためにはローズの元へ通うしか方法はなかった。


「ラエル公爵様」


「どうした?」


「少し、休憩をいただきたいのですが」


カイは表情こそ変えないが、そわそわしているのはすぐに分かった。そして、どこへいくのかも。


「いいぞ。マリア令嬢は変わりないか?」


「はい、お陰様で随分と良くなりました」


「...そろそろ彼女を伯爵家へ戻しても良いのではないか?彼女自身、帰りたいと言っていると聞いたが...」


その瞬間、すっとカイが表情を変えた。


「ダメです。完全に完治してからでなければ返すことはできません。それに...」


カイは私の方へ視線を移したかと思うと、ふぅと息を吐いた。


「マリアは困っている人を見捨てられない性格なのです。例え自分が弱っている時ですら相手を助けようとしますから。もし、ローズお嬢様がお見舞いに来るようなことがあれば、申し訳ありませんが私が拒否させていただきます」


...なるほど。


これ以上私とローズの仲を取り持つようなことはしない、というわけか。


「カイ、私がその言葉を聞いて怒るとは思わないのか?」


「私にとってマリアは大事な婚約者です。命をかけても守り抜きたい存在なのです。何を恐れると思うのです?」


すっと冷たい視線を私に向けたと思うと、鋭い言葉を突きつけた。


「恐れながら公爵様、ローズお嬢様が何故面会を拒否されるのかもうお分かりですよね?しかしながら、何故一度も会えないのだと思いますか?」


「それは...」


「私のように、主人が望まなくとも主人を思って行動を起こす者がいることを忘れてはいけません」


では、失礼しますと頭を下げてカイは部屋から出て行った。


カイがあそこまでマリア令嬢を愛していたとは正直思っていなかった。たしかに今までも時間があれば彼女の元へ向かっていたことは知っていたが。


マリア令嬢が目を覚ますまでの間、カイは彼女の側を離れなかった。いつも手を握り、一睡もせずに見守っていた。


私が公務で公爵家を離れるときも、別の侍女に彼女が目覚めたら連絡するようにと伝え、常に気を張っていた。


完璧に騎士としての任務をこなすカイがあそこまで憔悴する姿は初めてだった。


マリア令嬢が目覚めたと聞き、カイの表情が徐々に落ち着いてくるのがわかり、安堵した。


しかし、ある程度日数が経っても彼女を伯爵家へと帰さず、ずっと部屋や敷地内だけに閉じ込めているのだと聞き、改めてカイが彼女をどれほど愛しているかを知った。


...少し異常さを感じるほどではあるが、マリア令嬢も気が強い令嬢だ。さすがに嫌なことは拒否するだろう。


主人のために行動する者もいる、か。


それを聞いて、思い当たることがあった。ローズの元へ行った時、毎回同じ侍女が対応しているのだ。そして、申し訳なさそうに謝りながらも敵意を向けるような鋭い視線に違和感を感じていた。


...なるほど、そういうことか。


私は公務を必死で終わらせ、再びローズの元へと向かうことにした。


もう、限界だ。
ローズ、君に会いたい。
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