地味な私と公爵様

ベル

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お姫様の告白

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ラエル様の前に立った瞬間に、私は足がすくむのを感じました。


これから気持ちを伝えようというのに何故だか怖いのです。気持ちを伝えることがこれほどまでに勇気がいるのだと、今更ながら気づきました。


これまで私はラエル様に対してどれほど失礼なことをしてしまったのか、彼がどれほど勇気を出して私に対して想いを伝えてくれたのかを考えると、何故だか泣きそうになります。


「ら、ラエル様!」


勇気を振り絞り、彼の名を呼びました。


けれど、目の前にいるのにラエル様は下を向いたまま、「はっ、」と吐き出すように乾いた笑みを見せました。


今まで見たことがない彼の様子に、戸惑ってしまいます。


でも、これで怖気付くわけにはいきませんでした。想いを伝えると、決めたから。


「...っ、ラエル様!」


私がもう一度呼びかけると、ラエル様はようやく私の方に視線を向けました。その瞳は驚いたように大きく見開かれています。


いうのよ、ローズ。


「好きです」


出た言葉は、風にかき消されてしまうほど、かすかな声でした。


だけれど、それは私に一気に胸を熱くさせました。心でいつも思っていても、言葉にしたことが今までなかったからです。


ましてや自分の思いを相手に伝えるなんて、初めてのことだったからです。


ラエル様、好きです。
あなたが好きです。


何故だか涙が溢れて止まりません。
目の前のこの人が好き。


想いを伝えることは、こんなにも幸せなことでもあるんですね。


「...っ、うっ...ラエル様...」


「ローズ」


零れ落ちる涙をなんとか拭おうと目を擦っていると、その手をラエル様がそっと掴みました。


「擦らないで。傷がつくだろう?」


はっとして顔を上げると、心なしかラエル様の目が少し赤く潤んでいるような気がしました。


「....やっとだ」


その瞬間、ふわりと優しく包まれたかと思うと、そっと唇が重なるのがわかりました。


一瞬の出来事に、私は思わず固まりました。


今...き、キスをっ...


「ふっ...真っ赤だな」


ラエル様が幸せそうに微笑んで私を見つめています。その微笑みが自分に向けられているのだと思うと私も幸せでした。



  


ガサガサガサッ



突然近くで葉をかき分けるような音がして、驚く私をさっと庇うようにラエル様が前に立ちました。


目の前に現れた人物に、私とラエル様は驚きました。



「カイ、お前...」


「マリア?」


「うふふっ、うまく行ったようで良かった」


「ラエル公爵様、本当に良かったです」


なんと二人が仲睦まじそうに歩いてきたのです。二人が婚約者だということを知らなかった私は驚き、ラエル様は何やら拗ねたような表情になりました。


「...せっかく2人でこれからって時に一体なんだ」


ラエル様が何か呟いていましたが、よく聞き取れませんでした。


しかし、さすがはお付きの騎士様です。コーラス様はすぐに気がついたようで、マリアに何やら耳打ちをしています。


マリアは嬉しそうに私の方を見て微笑むと、後は任せなさい、と颯爽と去っていきました。


「ラエル公爵様、あとは私とマリアにお任せください。今日は公務もないですし...ローズお嬢様、このあとは講義もないですよね」


「....??このあとは確かダンスマナーの講義が....」


そのほかにも今日は講義があったはずです。それなのに何故か次の言葉を遮られてしまいます。


「あぁ、ないはずだ。カイ、馬車を用意しろ」


「かしこまりました。...あと、大変申し上げにくいのですがラエル公爵様、私の婚約者より伝言が」


「なんだ?」


こそこそっと何やら耳打ちをされ、ラエル公爵様は一瞬顔をしかめたかと思うと、ふっと口角を上げて納得されたような表情をされました。


「ローズ、君はいい友人を持ったね」


もちろんマリアはとても素敵な友人だけれど、何故いきなり?と私が不思議そうにしているのを見て、ラエル公爵様は「本当に君は可愛いよ」と私の頭を撫でました。


「....っきゃ!?」


いきなりラエル様に抱き抱えられたかと思うと、少しの我慢だからと私の抵抗も虚しく、外につけられた馬車までお姫様抱っこのまま運ばれてしまいました。


「...逃げられると困るからね」


妖艶にラエル様が微笑むのを最後に、私は馬車に押し込まれ、どこかへと運ばれてゆくのでした。







「今日ここにあなた様とローズを呼ぶ計画を立てたのは私です。あなたは今日、私に借りを作ったということをどうぞお忘れなく。それから、私のローズを次泣かせたらあなたを許しませんのでご覚悟を」


...ローズ、良かったわね。
私は何があってもあなたの味方よ。


マリアは少しだけ寂しく感じながらも、親友の幸せを願うのだった。

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