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プロローグ

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神崎あやめの朝は、大音量のアニメソングのスマホのアラームで始まる。

アラームを停止し、背伸びをすると
「カナト様おはようございます」とベッド横のフィギュアに話かける。
「カナト」というのは、彼女が最も愛する戦闘系少年漫画の主人公の因縁のライバルだった。
挨拶をすると、トイレへ行き、洗面所に向かい顔を洗う。

キッチンに立つと、手元にタブレットを準備しアニメを再生しながら朝食および弁当作りに取り掛かる。
食事を取り終えるとそのタブレットを洗面所の定位置に起きメイクをする。
アニメにかける時間は1分足りとも無駄にはできない。
色白の肌に、うっすらとベースを塗りファンデーションを重ねる。
チャームポイントの大きな目は日本人離れした色素の薄い瞳の色をしている。
瞼にシャドウを軽く乗せて、長いまつげには気持ち程度にマスカラを塗りアイラインを引く。
頬にチークを乗せて、ピンク色のリップで出来上がり。
肩につくぐらいの髪は、コテで巻き髪にする。
メイクが終了すると、着替えを始めるがその間もアニメは再生されている。

部屋着を脱ぐと、Eカップの形のよい胸と、細い腰にすらりと伸びた細い足があらわになる。
身長は158センチほどのグラビアモデル体型でありながら、人形のような顔立ちでモデルやグラビアアイドルのスカウトによく捕まっている。
そんな誰もが羨む美人は現在24歳。恋愛盛りのお年頃。

しかし、生まれてから一度も彼氏ができたことがない。
一人暮らしで家事全般をこなし、毎日、自炊を心がけており、妻にするには申し分なく、仕事も真面目に取り組んでいる。
性格も、明るく天真爛漫だ。

理由は、二つ。
彼女は、小学生から大学までエスカレーター式の女子校に通っており青春時代に男と一切関わっていない。
(二人の兄と父は別として)

二つ目は、超がつくほどの「オタク」だった。
一見、何の変哲も無い白とピンクを基調としたアンティークな家具も交えた女の子らしい部屋のベッドの下には、フィギュアや漫画に、アニメグッズが隠されて、クローゼットの奥には人前に出せないような乙女ゲームとシチュエーションCDがずらりと並んでいる。
彼女の趣味は、もっぱらアニメ鑑賞に、ゲーム、イラストを描く、コスプレだった。

小学校の頃からから変わらない友人たちも、皆オタクのため彼女の趣味を否定する人はおらず、休みの日はほとんど彼女たちと過ごす。
最近になって仕事関係で男の人を交えた飲み会が増えてきたくらいで、男のいる飲み会や合コンとは無縁の生活を送っていた。

しかし、彼女は幸せだった。
何故ならば、「カナト」を愛しているから。
強くて、かっこよくて、男らしくて、友達思いで、でもちょっと意地っ張りで・・・
こんな理想な男は現実にいないと考えている。
これらが彼女を恋愛から遠ざける原因だった。

「行ってくるね。カナト様・・・」
フィギュアに声をかけて、部屋を出た。

朝日を浴びてイヤフォンでアニメソングを流しながら歩く。


彼女は、池袋の三階建てのオートロック完備でセキュリティー万全のアパートの二階に住んでいる。

実家は、郊外の住宅街にあり、就職を機に一人暮らしを始めた。

本来ならば、実家からも通うことができるのだが、片道1時間かかることと、元々子供部屋が二つしかなく8つ離れた一番上の兄が家を出て一人暮らし(彼女を連れ込むため)をしていて空いた部屋が自分の部屋になったのだが、結婚をして子供も生まれ実家に戻ることになったためあやめが出て行く形となった。

一番下の待望の女の子とだけあり、両親には大切に育てられたため両親が一人暮らしをすることを渋ったが、「職場まで片道1時間」ということを何度も強調して交渉した結果、セキュリティーを一番に考えた部屋を両親が契約した。

本当は、アニメショップに近く、職場にも近いという格好の場所であり、両親の目を気にせずアニメグッズを集めたいというのが目的である。

一人暮らしをすれば帰りが遅くなることや、夕飯の有無を伝えなくてもいい手間が省けるという理由の方が強かった。
決して、兄のように気兼ねなく女の子を連れ込めるなどという考えはなかったのだ。

兄二人は、あやめのようにアニメを好む趣味はないが、あやめが少年漫画にハマるようになっていたのは兄に漫画を借りていたからであった。
彼らは、専らサッカーにで汗を流し、女の子にモテまくるというキラキラ青春ルートを辿っている。
しかし、一番上の兄は8つ上で、下の兄は4つ上なのであまり会話をすることもなかった。

そして、オタクであることを家族には隠している。

今は、一人暮らしのため、自由に「オタクライフ」を楽しんでいる。
どんなに仕事が大変でも、嫌なことがあったとしてもアニメは自分を救ってくれる。


-アニメさえあれば生きていける。

それが、あやめの持論であった。
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