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Side 2ーaffairー
6(金城心春)
しおりを挟む私は呼吸が上がって頭が真っ白だった。
一瞬泣き止んだが、すぐに火がついたように泣き出した息子をそのまま家に残し、マンションの屋上まで駆け上がった。東京の夜景が広がる綺麗な景色を目に焼き付けて、「母親失格」の私は今日死のう・・・
この時、旦那がちょうど帰ってきてくれたなら私は息子にこんなことをしなかったと思う。
誰か私を止めてくれる人が必要だった。
助けてくれる人が必要だった。
屋上のフェンスを無心で越えようとした時に私の腕が強い力でぐっと掴まれた。
腕を掴んだ男は、私の顔を見るなり「心春・・・」とつぶやいた。
私は、この声も顔も知っている。
「蓮・・・」
震える私に来ていたスーツのジャケットをかけて部屋まで連れて行ってくれた。
「まじか、心春と同じマンションだったんだ・・ここ・・・」
と頭を掻きながら蓮は言った。
このマンションの購入金額は相当なもの。
両家からの結婚祝いとしてプレゼントされたもので実際の値段を私は知らない。
「まあ、俺は一番最上階だけど~~~。びっくりしたよ。せっかくだから屋上から夜景でも見ようかと思えば飛び降りようとする人がいるから・・・」
こんな母親として最低なことをしようとした私のことを笑いに変えようとする蓮はあの頃と変わらない。
「旦那は、今日出張だから上がって・・・」
部屋に戻ると変わらずに泣き続ける息子の声が部屋じゅうに響いている。
「子供いたんだ。わ~~~泣いてるね。」
そういうと、蓮はすぐに息子の元へ行き抱き上げた。
「慣れてるね。子供いるの?」
「いね~~~よ。独身だわ。おお~~よしよし可愛いね~~~。そんな泣くなって・・」
慣れた手つきで抱くと、息子は嬉しそうに笑った。
「すごいね。今日一日ずっと機嫌悪くて何してもダメで・・・・」
涙が溢れ出しそうになるのを必死でこらえる。自分から蓮から離れて自分だけが幸せになる道を選んだのに。
こんな姿を晒すなんて情けない。
「旦那さんいつも帰り遅いの?かわいそうに・・・一人で頑張ってたんだな」
その言葉に涙がとめどなく溢れた。
「俺も五つ下の妹がいて、かーちゃんがよくそうやってナーバスになってた。育児ノイローゼってやつ?
でもとーちゃんと俺で必死にいろんな方法考えたんだよね。だから俺は母親にはなれないからわからないけれど心春の苦しさはわかる気がするよ・・・・それに、お前やつれてる。あんまり寝てないんじゃない?俺抱っこしておくから寝なよ。あ、ミルク次何時?でどんくらいあげればいいの?」
こんな風に、元彼に頼ってしまうのはいかがなものかと思いながらも、ベッドに横になるとすぐに眠りについてしまった。
こんな安心感はいつぶりだろう。
目が覚めると、息子のきゃっきゃと笑う声が聞こえた。
「おはよう。よく眠れたか?」と笑顔で言う蓮に付き合っていたあの頃を思い出してしまう。
「ごめん。こんなに寝ちゃって。」
気がつくと、2時間ほど眠っていたらしい。
「寝なきゃ、頭もおかしくなるさ。そんじゃあ俺そろそろ部屋に戻るわ。番号変わってないから・・・また昨日みたいなことがあったら呼べよ。旦那さんにバレないように・・・」
そう言い残して、私の頭を優しく撫でて息子の頬をプニプニと触って部屋から出て行った。
(この子は本当はあなたの息子だよ・・・多分・・・・)
絶対に言えないセリフを胸に秘める。
それから数日後、スーパーへ行くためにエレベーターに乗ると、ばたりと蓮に居合わせた。
エレベーターに乗らないのも不自然のために仕方がなく乗った。
隣には、綺麗な黒髪に白い肌が映える華奢で若そうないかにも「ミスキャンパス」といった女の子と手を繋いでいた。私に気がつき手を離したが、その女は見せつけるように手を繋いだ。
(見たくない・・・)
息子を抱っこヒモで前に抱えて、それでもと塗ったファンデーションはもうドロドロに溶けている。
隣の女は可愛らしい花柄のワンピースを着て、ヒールを履いているのに私は、ジーンズにスニーカー。
蓮の隣には相応わしくない。
隣の女はもちろん私のことを認識などしていないからか、「かわいいですね。何ヶ月ですか?」とニコニコの笑顔で息子の顔を覗き込む。
「うわ~~赤ちゃんいいなあ・・・私も早く欲しい」
思わず、蓮と目があった。
「おい、そんなに覗き込んだら、お前の顔見て泣くぞ」
「ひど~~~い」
私は、作り笑いをして二人を振り返ることなく先に降りた。
少しでも、蓮が私への好意を持っているんじゃないかと思い込んでいた自分が大バカ者。
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