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Side 2ーaffairー

3(逢坂蓮)

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会社に出勤していよいよ新人研修がスタートする。
俺は一番に彼女の姿を見つけて目があうと彼女は微笑んだ。

その姿に俺は昨日の出来事が夢じゃなかったということに安心する。

「あの人だよね・・・」
「うん・・・多分そう・・・社長令嬢って感じだよね」
俺の隣でこそこそと話す女子たちの会話が耳に入る。

「じゃあ、これ君たちの名札ね。しっかり首にかけて名前覚えてもらってね」と指導係の先輩が俺たちに名札を手渡していく。

(そうだ、あの女の名前見とかなきゃ)

金城心春(きんじょう こはる)と刻まれた名札に俺は思わず立ちくらみがした。

(おいおい、どうしよう・・・社長の娘を抱いちまった・・・・)

休憩時間になると一目散に、金城心春を呼び止めた。彼女は笑顔で「昨日はどうも」と一言。
どうしてこんなにも平然としていられるのだろう。

「いや、その昨日は勢いでごめん。こういう中途半端な関係は俺あまり良くないからさ・・・・その・・・」

「やっぱり真面目~~~~責任とって付き合うみたいな?」
 俺はこくりとうなづいた。

「別に付き合ってなくても良くない?したいときにすれば」

「は?」
俺の返答を待つ前に、喫煙室へと消えていった。

俺のリズムがどんどんかき乱されていく。
俺はタバコが苦手なので喫煙室まで追いかけることはしたくなかったが、喫煙室はガラス張りになっており中の様子が見える。
金城心春は、男子たちと楽しそうに話をしている。

(なるほどね、俺だけじゃないんだ・・・)

鎖骨のキスマークが脳内にちらついて、イライラする。

俺の彼女になったわけじゃないのに、どうしてこんなに支配したくなるのだろうかと疑問に思うぐらい不思議な女だった。
時折、俺の憧れの金城要が見え隠れする気がした。
だから、こんなにも惹かれてしまうのだろうか。

本当に、彼女は気まぐれでそれから三日後くらいに俺の部屋に突然訪れて朝まで抱き合った。

でも、次の日の早朝にまた帰っていく。
都合のいいときに彼女のいう通り「したい時にする関係」が気付いたら半年続いていた。



「逢坂くんって彼女いるの?」

おそらく勇気を出して話しかけてくれたのだろう、同期の女子社員が頬を赤らめながら俺に問う。

この時点で俺に好意があるということは自惚れかもしれないがわかってしまった。
俺も決して鈍感ではない。

「いないよ。」

「そうなんだ。じゃあ今日一緒に飲みに行きませんか?」
と上目遣いで誘う。
いい加減俺も彼女が欲しいところだった。
気まぐれな心春に振り回されてばかりだし、仕事は慣れないことばかりで疲れるし、こういうふわふわしていて虫も殺せなさそうな、尽くしてくれそうな女の子に癒されるのはいいかもしれない。
返事をしようとすると、心春がその間に割り入るように入ってきた。

「ごめん・・・今日、私と予定あるんだよね」

(は???)

「おいおい、どういうことだよ」

「え?私たち付き合ってるんじゃなかったの?」
俺は、頭の中に大きなハテナマークを浮かべる。

「だって、お前彼氏いるだろう?キスマークあったし」

「は?いないけど・・・そのキスマークつけたの元彼だし、超、前の話なんだけど・・・・」

「なんだそれ・・・やりたい時にやればいいっていってたじゃん。」

「だって、あの女と話してるの嫌だったから、あ、私蓮のことが好きなんだな~~と思って」

俺は、思わず腹を抱えて笑った。

「変な女」

こんな女に振りまわれるのも悪くないと思ってしまう自分が怖い。

蟻地獄のように吸い寄せられて出られない。

こんな恋をしたのは後にも先にも初めてだった。
心春は、とにかく仕事のできる女で英語はペラペラで同期の中でも別格だった。

俺も、彼女に触発されてメキメキと結果を出していった。とても良い関係だった。

依存することなく、お互いを高め合っていけて体の相性もいい俺たちの関係は誰にも好評することなくひっそりと続いていた。

しかし、この恋は突然打ち切られることになる。

交際してから3年経ったある日、突然社長室に呼ばれた俺は、「昇格?」と期待を膨らませていた。

しかし、部屋の中は重苦しい雰囲気に包まれている。社長は俺を睨みつけるように見る。

「逢坂蓮・・・うちの心春と付き合っているようだね。」
3年も付き合っておきながら否定はできないため俺は返事をした。

「君のことは優秀だと思っているし、会社にも随分貢献してくれた。私の本を読み込んでくれていたことも、それを活かしてくれていたことも非常に嬉しかった。だが、娘の結婚相手となると話は別。悪いけれど君の家族のことを調べさせてもらった。相当なギャンブル依存、消費者金融で借金もしているみたいだね。」

(おいおい、そんなの知らなかったぞ)

そういって、社長は机の上に札束を出した。

「本当なら、今すぐにでもこの会社を去って欲しいくらいだけれど、君は苦労してこの会社に来てくれたみたいだし、結果も出しているいい人材だからね。そこは認める。でも、娘からはもう離れてくれ。君は良くても君の両親とは関わりたくない。自分自身はろくに努力せず子供の手柄で裕福になるのは許せない。どうせいい出資者にされてますますパチンコにのめり込んでくのが目に見えてわかる。あとは、我が社の社員の親がギャンブルで借金があるのはね・・・だから、このお金で返済して、両親を病院に連れて行きなさい。
言ってることわかるよね・・・」

「お金はいりません。俺がなんとかします。彼女とも別れません。好きだから。そして、この会社辞めます。」

俺は声を震わせながら言い放ち社長室を出た。

底辺の人間は、いつまでも底辺にしかいられない。思いっきり俺や家族を見下したあの男が、憧れから幻滅に変わる。

でも、心春のことは変わらずに好きで好きでたまらなかった。

仕事や憧れの存在を失っても、変わらない愛があって守りたい人がいて、それだけで充分と思ってしまう自分がいる。

それ程に俺の中で心春の存在は大きかったのだ。




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