上 下
16 / 47
Side 1ーOne way loveー

9(今泉翠)

しおりを挟む


高校生の頃、私はバス通学で、同じバスに乗るギャルの友人(髪の毛長さは実際セミロングだが、エクステをつけておへそぐらいのロングヘアに、ばっちりつけまつげとカラコンを装着して、喋る声が高かった。今はショップの店員をしているらしい)のミナが乗ってくるまでの間だけ自由な時間があった。
その時間を勉強時間に費やしていた。
この時間くらいしか勉強をする時間がない。休み時間は昨日見たテレビの話や恋の話、メイク直しで忙しい。
放課後も、プリクラに買い物、カラオケ三昧。ギャルでいるのも大変だ。
限られた時間の中でもやらなければならないミッションが必ずある。

それは「学ランのイケメン」が乗っているかどうかのチェックをすること。
学ランのイケメンの顔はしっかり見たことがなかった。あまりジロジロ見てはいけない気がしていたのと、ミナが好きである以上私が好意を持ってはいけないと言うこと。
ありえないけれど、もし私のことを好きになってしまったらまた面倒になるからだ。

バスに乗るタイミングでさっと確認をして、必ずメッセージを送っていた。
学ランのボタンを乱暴に開けて、耳にはピアスをしている。髪は染めていないものの軽くパーマがかかっているのかセットしてあるのかで今時のおしゃれなちょっとチャラそうな男の子でありながら、ミステリアスな雰囲気を持っていた。
いつも耳にヘッドフォンを当ててスマホでゲームをしているか窓の外をぼけっと見ていた。
しかし、そんな姿になぜか引き込まれてしまう自分がいた。

「友達の好きな人は好きになってはいけないし、好きにさせてもいけない」
まるで教訓のように私に染み付いている。
だからこそ、興味の無いそぶりを続け、これ以上彼に興味を持つことも辞めた。

高校を卒業してからは一切彼の姿は見かけなかった。

手繰り寄せた記憶と今隣で手を繋ぐ瀬戸口を重ねる。


「学ランのイケメンって瀬戸口のことだったの?」

「なにそれ?」

「うわ~~無理・・・ここまででいいよ。じゃあまた明日。」

そういって私は、その手を離し家に向かって早歩きした。
状況の理解できていない瀬戸口が追いかけてくる。


「ダメなんだよ。」

「え・・・なんで・・・意味わかんない」

私は瀬戸口を振り切った。
それでも負けじと手を掴んで離さない瀬戸口に『友達の好きな人が自分を好きで、友達に嫌われた』と言う思い出したくない苦い話をする。
普通に考えて人に好意を持ってもらえることは嬉しいことだ。
だけれど、自分に好意がないのに相手が勝手に私を好きで大切な友達を失うと言うのはあまりに理不尽すぎる話。

大人になった今ならば、きっともう少しこの状況をお互いにうまく切り抜けられたのかもしれないがあの時は子供だったのだ。
しかし、子供の頃の記憶というのは強烈で大人になった今でも何かの拍子で突然やってくる。
こうして「恋愛がうまくいかない」言い訳の出来上がり。

私は、今誠心誠意ぶつかってきてくれた瀬戸口にきっと意味のわからないことを言っていると思う。

だけれど、そうやって面倒なことと関わらないことが一番だと思ってしまう自分がいる。


「もうその子と連絡とってないんでしょ。きっと俺のことなんて忘れてるよ。
それにそんなこと言い出したらキリないよ。
俺だってこんなに翠のこと好きだったのに他の男に取られてるんですけど・・・
三角関係なんてよくあることだよ。」

そっか、瀬戸口だって今までのパッとしない様子だと、会社の若い女の子たちに見向きもされなかったが今の姿は全くと言っていいほど別人で、まるでファッション雑誌やドラマから飛び出してきたようだ。
今まで言い寄ってきた女の子はたくさんいて、それに伴ってのイザコザもあったはず。

友達が好きな人を好きになってはいけないルールなんてない。
恋愛は自由でいいんだ。




「確かに・・・そうじゃん。じゃあ付き合う?」


「ちょっと、翠ちゃん。なんか軽くない?雑じゃない?」

私の、ジェットコースターのように急上昇・急降下する思考に瀬戸口は戸惑っていた。
突然呼び捨てしだしたくせに、子供扱いするようにちゃん付けをされると少し調子が狂う。

いざ、付き合うことを了承されると、瀬戸口も動揺するようで何回も「いいの?」「ねぇいいの?」聞き返す。

自信たっぷりだと見せかけて本当は不安で仕方がなかったのだと思うと瀬戸口がとても愛おしくなる。

「え・・・もうどっちなの?」

恥ずかしそうに、両手で顔を抑えた瀬戸口が可愛い。

「いやその・・・・嬉しすぎて・・・・このまま持ち帰ってもいい?」

「それはダメ・・・ここまで守ってきたんだからもっとロマンチックな感じでお願いします。」

「了解」


その日は、しっかり瀬戸口が家まで送り届けた。
きっと私が一人暮らしならばそのまま今日が卒業式になっていたかもしれない。
実家暮らしなのでセーフ。こんなに急に心の準備はできない。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

副社長と出張旅行~好きな人にマーキングされた日~【R18】

日下奈緒
恋愛
福住里佳子は、大手企業の副社長の秘書をしている。 いつも紳士の副社長・新田疾風(ハヤテ)の元、好きな気持ちを育てる里佳子だが。 ある日、出張旅行の同行を求められ、ドキドキ。

【R18】抜き差しならぬ仲ですが一戦交えてみませんか

花麒白
恋愛
「ブチ犯して欲しいの!」 24歳の女性騎士クラリスは独身処女をこじらせすぎた。戦の褒賞金で購入した美男子性奴隷にクラリスは頼み込む。結果は大満足。挙句には彼を夫に迎え入れた。平穏な夫婦生活が続いていたが、彼のとんでもない事実が発覚。その日を境にして二人は抜き差しならない関係に発展してしまう。 孤独を抱える女騎士と謎多き元敵国出身の性奴隷。訳あり夫婦が互いを知るまで。 ※残酷描写ありです。 ※「ムーンライトノベルズ」様でも掲載しております。

西谷夫妻の新婚事情~元教え子は元担任教師に溺愛される~

雪宮凛
恋愛
結婚し、西谷明人の姓を名乗り始めて三か月。舞香は今日も、新妻としての役目を果たそうと必死になる。 元高校の担任教師×元不良女子高生の、とある新婚生活の一幕。 ※ムーンライトノベルズ様にも、同じ作品を転載しています。

【R18】カラダの関係は、お試し期間後に。

栗尾音色
恋愛
たくさんの「キープ君」をエッチはさせずに手玉に取っているだけで恋愛中ではないOLの綾乃はある日、同じIT企業に勤める親友の咲子から「結婚」という現実を突きつけられる。 焦った綾乃は数多の「キープ君」の中から本物の愛を選ぶべく、「お試し期間」を設けて男を試すことを決意。 いろいろなタイプの男を翻弄してやるつもりが失敗の連続で、そんな綾乃に対して同期入社のデザイナーで同い年の超イケメン性悪男・桐矢葵はいつも嫌味ばっかりで…? ※ムーンライトノベルズ、エブリスタ(濡れ場カット版)でも公開中! ※R-18指定 性描写が含まれる話数には、「※♡」をつけています。 主人公の恋人は、誰もが目を奪われるようなイケメン。 意地悪だが口がうまく、主人公以外の女性に対してはまったく嫌味のない爽やかさを売りにしている超モテ男。 HではドSまではいかないS寄りですが、たまに攻められると受けに徹して喘ぎます。…が、最終的にはやはり倍返しという展開がオチ。 テクニシャンで言葉責めを多用して女を翻弄するタイプ。 苦痛系や、暴力的な描写は一切ありません。 あくまで『甘い攻め』だと思って、暖かい目で見てもらえるとありがたいです。 基本的にセリフが多めなので、喘ぎや言葉攻めが好きな方は楽しめるかもしれません♡ また、言葉攻めありきのクンニシーン多めですので、お好きな方はご自由にご堪能ください。(笑) ※比喩的な文章はあまり使いません。 よって、あからさまな性器の名称なども描写していますので、そういったものが苦手な方は閲覧をお控え下さい。

寡黙な彼は欲望を我慢している

山吹花月
恋愛
近頃態度がそっけない彼。 夜の触れ合いも淡白になった。 彼の態度の変化に浮気を疑うが、原因は真逆だったことを打ち明けられる。 「お前が可愛すぎて、抑えられないんだ」 すれ違い破局危機からの仲直りいちゃ甘らぶえっち。 ◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。

裏切りメイドの甘い贖罪

のじか
恋愛
騎士クロードに仕えるメイドのミルルの本当の顔。それは敵対派閥から送り込まれたスパイだった。ミルルは雇い主の指示を受けてクロードの執務室を漁るが、その現場をクロードに押さえられてしまい、尋問を受けることになる……。 ※メイドがエッチな尋問と言葉責めを受け、無理矢理される過程で淫乱に目覚めていく話です ※このお話はムーンライトノベルズ様にて短編として投稿しています。

【R18】さよなら、婚約者様

mokumoku
恋愛
婚約者ディオス様は私といるのが嫌な様子。いつもしかめっ面をしています。 ある時気付いてしまったの…私ってもしかして嫌われてる!? それなのに会いに行ったりして…私ってなんてキモいのでしょう…! もう自分から会いに行くのはやめよう…! そんなこんなで悩んでいたら職場の先輩にディオス様が美しい女性兵士と恋人同士なのでは?と笑われちゃった! なんだ!私は隠れ蓑なのね! このなんだか身に覚えも、釣り合いも取れていない婚約は隠れ蓑に使われてるからだったんだ!と盛大に勘違いした主人公ハルヴァとディオスのすれ違いラブコメディです。 ハッピーエンド♡

【R18】あなたに愛は誓えない

みちょこ
恋愛
元軍人の娘であるクリスタは、幼い頃からテオという青年を一途に想い続けていた。 しかし、招かれた古城の夜会で、クリスタはテオが別の女性と密会している現場を目撃してしまう。 嘆き悲しむクリスタを前に、彼女の父親は部下であるテオとクリスタの結婚を半ば強制的に決めてしまい── ※15話前後で完結予定です。 →全19話で確定しそうです。 ※ムーンライトノベルズ様でも公開中です。

処理中です...