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Side 2ーaffairー

金城心春(きんじょう・こはる)

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私は、自分の家族のことが世界で一番理解できない。

物心がついた頃から冷めきった家の中で生活していた。大きな庭のある都内の大豪邸で大型犬を飼い、日中はお手伝いさんがいて常に家は清潔に保たれて、美味しい料理が振舞われて、欲しいものはなんでも手に入った。

それでも、いつも寂しかった。

父は若くして会社の社長であり、家にはほとんど帰らない。
だから、私は父親はいないものだと思っていた。
母は専業主婦でありながらいつも疲れ切った顔をしていて時折、ヒステリックを起こす。

「あんなたなんて生まなければよかったのに」

「あんな人と結婚しなければよかった」私と二人きりで、私が何か母の気に触ることをすれば、ずっとガミガミと言い続けるその時間が苦痛で仕方がなかった。
誰しもが、「美人で優しいお母さんだね」と私に言うから誰にも言えなかった。

そんな母は私が高校生の時に、突然病で倒れて死んだ。
心の底で「よかった」と思った自分が恐ろしかった。憎かった。
私が母を嫌いだったから死んだんだ。

大きな家に一人で取り残された私は、男に依存した。

10代でもセックスを覚えれば体も心も満たされる気がしたから。
それは大学生になっても変わらなかった。

大学を卒業すると有無を言わさずに父親の会社に入社させられた。
つまらない父親のつまらない話を永遠と聞かされるのに嫌気がさして私はただひたすらにパズルゲームをしていたら隣に座っていたと思われる男に怒られた。

彼は、160センチの私よりも頭一つ分大きくて、学生時代は金髪にでもしていたのかナチュラルではなく、作られた黒髪を丁寧にワックスでセットしており一見女子受けの良さそうな爽やかなイケメン青年なのだが、眉のキリッとした整え方にパリピ(パーティーピーポー)の名残を感じた。

こいつは「チャラい」きっと彼女はいるだろうし、女経験も豊富だと思う。
私は、彼のようなクラスで目立つような元気で明るくて人気者のような男は苦手だった。
男友達も多くて、女友達も多くて修学旅行のバスでは一番後ろの席でゲラゲラ笑っているような男が。


私の寂しさを紛らわせてくれるのはいつも、「落ち着いた年上の大人の男」
初めは、同じ年のくせに説教をしてくるのだから面倒な男なのか、荒手のナンパなのかと考えていた。

「おい、さっきの態度は流石になくない?」から始まり「せっかくこんなにいい会社に就職したんだからさ。ばれなかったからよかったけどさ・・・それに社長の本読んだことある?まじであの人ハンパないから!あんないい話していたのにゲームしてるとか本当に損してるよ。」

(あんなクソ親父のことリスペクトする人いるんだ・・・しかも、見た目とは裏腹に真面目~~~)

熱弁している割に、スーツを着るのに慣れていないせいかネクタイが曲がっている。

私はこの時に母性本能をくすぐられたのだと思う。

年下の男の良さと言うものが今まで分からなかったが、ネクタイを直しただけで頬を赤らめる姿に年下も悪くないと思った自分がいた。

彼に至っては同じ年だけれどこんなに男の人を可愛いと思ったことがなかった。


そして、今まで社長の娘である以上先生には悪いことをしても怒られなかった。

見て見ぬ振りをされたこともよくある。
友達にも気を使われることが多かった。
しかし、彼は「社長の娘」としてではなく「私自身」をしっかり見てくれて考えてくれて怒ってくれたのだと少し嬉しくなった。
おそらく私が社長の娘であることを知らないだけかもしれないけれど。


きっとこれから彼はこの会社の中で人気者になって、女子社員に狙われてしまうような男。
まず、この会社に入れている時点で、女からの評価は上がるし、顔もいい。


私が社長の娘だと知ったら一線引かれてしまうかもしれない。
このまま話すことができなくなるかもしれない。

その前に単純に彼のことが知りたかった。
「友達」になりたいと思った。
彼が見ている世界を少し知りたかった。
男と遊び慣れている女のふりをして近づくことにした。

狭い居酒屋でお酒を飲んで、なんでもない話をする。
今まで出会ってきた男たちは、食事はあくまで通過点で「早くホテルに行きたい」と言わんばかりにせかせかし始める。
察しのいい女を演じて彼らの興奮を促せばより私を可愛がってくれる。
それが女の本望で、女の存在意義なのではなかろうか。
男には尽くして、男のいいなりになる。
それで男は優越感に浸るそれが仕事への活力となってそれで生活が豊かに慣ればそれでいい。

そう思っていたのに。

「そろそろ帰るか~~~」と彼は言った。
大体の男は「この後どうする?」って聞くはず。
持ち帰るための決まり文句のようなもの。
「まだ帰りたくない」と言っておけば男は大喜び。

それでも、彼は会計をして私の家まで送ろうとする。
このままの流れに乗って帰ってしまえばきっと私たちはそれまでの関係。明日からはきっとただの同期になってしまう。
社長の娘だと知ったら、こんな狭くてタバコとやきとりの煙で充満した居酒屋にはいかないと思うし、気軽にご飯に行ってくれなくなってしまうかもしれない。それってなんだか寂しい。

「やだ・・・」
私は、子供みたいにそう回答した。

「やだって言われてもね~~~明日もお互い仕事だよ。それにこんな遅くまで連れまわせられないって・・・」

まとわりつく私を優しく振りほどきながらタクシーを呼ぼうとする。

(本当に、帰そうとするんだ・・・・なんか寂しいじゃん)

受話器に当てたスマホを取り上げて、胸を押し付けるように抱きついて耳元で囁く。


「じゃあ、家に行く」

(これで落ちない男なんていないでしょ。)

案の定、顔を赤らめた姿に母性に近い感情を抱いた。


「めっちゃ狭いけどいいの?」

「いい」
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