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プロローグ
逢坂蘭8
しおりを挟むバスケットボール部のマネージャーは三年生が私一人、二年生はおらず、今年は新しく一年生が二人入部しました。細身で長身のクールビューティーな藤枝さんと、身長が145センチと小柄で目がクリクリとした童顔で小動物のような河合さんです。部員たちは大喜びです。どっち派なのかと話あっているのを何度も耳にしました。
この部は、兄や昴が引退してからというものの戦力が下がっていきました。元々、進学校であるため部活よりも勉強が優先され、今年はとても全国大会に進めるとは思えません。それでいて、入部してきたマネージャーは、初めの頃は後輩ができたことが嬉しかったのですが、やる気が感じられないのです。
まず、ボトルのドリンクの配分は何度注意しても間違えるので、その度に部員から苦情がきます。
仕事は基本的に恋の話をしながら行うので3倍以上の時間がかかり、結局私がやることになります。浮かない顔をした私に、キャプテンの田口くんが声をかけました。彼は同じ歳で入部当初から私のことを気にかけてくれて、とてもキャプテンとして頼りがいのある人でした。おまけに明るくて人懐っこいキャラクターなので、女子からの人気がとても高いです。私は彼と少しだけ話をしただけなのですが、一年生のマネージャーたちはそれをよく思わなかったようです。
「逢坂先輩って、部内恋愛禁止って言ってたけどさ、結局キャプテンとか他の部員たちに色目使ってんじゃん。」と陰口を言っているのを聞いてしまいました。しかし、わざと聞こえるように言った気がしてならないのです。それからというものの部活へ行くにも拒否反応が出てしまいます。夏休み前まではには引退は確定しているはずなのに、やる気が出ないのです。昴だったらどんなアドバイスをくれるだろうかと考えていた矢先のことです。
彼女たちは、私や部員の前ではとても人懐っこい後輩を演じます。決してあの時のような黒い部分が表にだしません。「逢坂先輩って本当に美人ですよね・・・憧れる・・・彼氏っているんですか?」と藤枝さんが問いましたが、私は正直にいないことを伝えます。逆に聞いて欲しいからなのか、こちらも問いかければ藤枝さんは彼氏がいないのですが、河合さんは、「多分、逢坂先輩は彼氏のこと知ってると思いますよ。今、大学生でこのバスケ部のOBなんですけど・・・」と言いながスマホのツーショット写真を私に見せてくれました。
えぇ、知ってるも何も彼は私の幼なじみの昴です。彼は写真を撮ることをとても嫌うので、河合さんが強引に寄り添ってシャッターを切ったように見受けられますが、二人は頬を合わせています。画面越しに久しぶりにみた昴は、髪の毛をブリーチして金髪にしていました。
「そうだったんだ・・・」と言って私は彼の金髪は似合わないと笑い、ただの幼なじみで恋愛感情は一切ないことをアピールします。そして、彼の良いところをいくつか教えましたが、詳しく覚えていません。動揺していたからです。
私のことを妹としかみられなくて、河合さんのような『妹キャラ』の子を『女』として見るのです。私は、ますます幼なじみのことが分からなくなりました。それから引退までの間、時折聞かされる彼女からの惚気話に頭が変になりそうでした。私とはしたことのないキスを彼女するのです。
潔く部活を辞めればよかったのですが、こんな理由で辞めることはできませんでした。
それでも、さらに精神的なダメージが私を襲います。河合さんはとても人懐っこく、可愛いらしいのです。昴のお母さんもおばあちゃんもすぐに彼女のことを気に入りました。彼の家に入っていく彼女を何度も見かけています。ある時は、彼の家の庭にあるバスケットゴールで二人で楽しそうにバスケをしているところを目撃しました。昴のお母さんは私たちがくっつくと思っていから、『びっくりした。』『残念だった。』と言われましたが『今まで通り遊びに来てね。』と声をかけてくれました。
しかし、河合さんはとても嫉妬深いのです。引退してしばらくたった頃に突然呼び出されたかと思えば、「彼氏に近づかないで」「お母さんと仲良くしないで」というのです。幼なじみだということは聞き入れてもらえません。そう言われてしまえば余計に瀬戸口家には近づけなくなります。
もう、昴を忘れて他の恋をして方がいいと気がついたのです。夏休みのある日、エアコンをつけた部屋の中いつもの通り工藤さんとたくさん笑いながら勉強をしていました。普段は、学校が終わってからなので家には父がいましたが、その日は夏休みの平日で、父が出張に出掛けていました。普段は心配性な父も、工藤さんとはとても仲が良く信頼関係もできていたので年頃の娘と二人きりにしても問題ないと思っていましたし、私自身もいつも通りに勉強を手伝ってもらうだけです。
授業を終えて、工藤さんは肩のストレッチをしながら問いかけました。
「夏休みどこかに遊びに行くの?」
「みんな受験勉強で忙しくて、近場でちょっと集まるくらいですよ。」
「うわ、つまんな~。高校最後の夏休みなのに・・・じゃあ個人的に聞いてもいい?」
工藤さんは頬杖をつきながら私を見つめましたが、そのように男の人に見つめられたのは昴以来です。
「彼氏いるの?」
「いないですよ。」
「嘘でしょ?」
嘘はついていません。事実です。あれから何度か同じ学校の男子生徒に告白はされているけれど全て断っています。理由は自分でもわかっています。昴のことをまだ引きずっていることと、工藤さんのような魅力的で知的で大人の男に週二ペースであっていればろくに接点のない、まだあどけなさを残した高校生は魅力的に見えなくなるのです。
自然な流れで私の手に触れました。きっとこんな風にいろんな女の子に接するのは息をするのと同じでしょう。
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