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プロローグ
逢坂蘭5
しおりを挟む告白というのは、ある程度見込みがある状態でするか、玉砕覚悟でするものだと私は思うのです。昴は100%両想いであると確信していたので、まるでジェットコースターのように急上昇して急降下し、心が追いつかないのです。
この経験は、恋愛が容易い物ではないという教訓になりましたし、いい思い出にもなりました。だけれど、あれほどまでに自信があった自分が恥ずかしいのです。自分から想いを伝えてしまったことが恥ずかしいのです。
この経験を何度も積んでいたのならばもう過去であると割り切れるのですが、初めての経験なので告白をしてしまったことに対する後悔や恥ずかしさで私はこの世界から消えてなくなりたくなるのです。
この感情をかき消すために様々な努力をしました。一つ目は昴が私を振ったことを後悔するようにと女磨きに力を注ぎました。二つ目は、恋愛です。新しい恋をすることで過去の恋を忘れることができるとどの雑誌や本にも書いてあります。三つ目は、勉強です。目標を持ち地道な努力を続けることはとても気が紛れていきました。
しかしながら、新い恋を見つけることは容易ではありませんでした。昴以外の人を好きになることなど到底できないのです。未だに校内では昴の姿を追いかけて、声が聞こえては心臓が高鳴ってしまう。苦しいと思いながらもこの感情を楽しんでいる私がいるのです。
そんな私は『男』というのをしっかり理解していなかったようです。それは部室の掃除をしている時でした。この部屋では相手チームの試合の偵察のために録画した映像を再生できるように小型のテレビとDVDプレイヤーがおいてあります。一人一人にロッカーがあり、名前が書かれています。部室の掃除はするもののそれぞれの部員のロッカーは開けてはいけない決まりになっています。3年生は引退をしても体育の授業の際にここで着替えをすることがあるので、卒業までは個人ロッカーを使用してもいいことになっています。
ダメだとはわかっていましたが、『瀬戸口昴』の文字を見るとその中が見たくて仕方がなくなりました。一瞬だけです。きっと大したものは置いていないと思います。とても見たい。
葛藤していると、同じ学年の部員の佐山くんが「忘れ物~~」と言いながら入って来ました。彼は、とても明るいムードメーカー的存在です。「掃除ありがとう。でも、あの奥のロッカーは絶対みちゃダメだからね。フリじゃないから。」と言って走りながら部室を後にしました。そう言われてしまうと、こちらも気になります。何が入っているのでしょう。
もし、掃除されておらず開けた瞬間に虫が沸いていたり、悪臭がしたらどうしよう・・・開けた瞬間に物が崩れてきたらどうしよう・・・と色々考えた結果、私は意を決して開けてみることにしました。
そのロッカーの中には歴代の先輩たちからのメッセージが書かれていましたが、その下には2つほど目を背けたくなるようなパッケージのDVDが置かれていました。いわゆるアダルトビデオです。一つは、この私でも名前は聞いたことのある有名な女優さんのものと、もう一つは「幼なじみと~」というタイトルから始まるものでした。私は、見なかったことにしてその扉を閉じました。掃除を終えて体育館へ戻ると、私の顔が強張っていたのでしょう。佐山くんが笑いながら近づいてきました。
「その顔は見たね。あのロッカーの中を・・・見たんだね・・・」
私の顔色を確かめるように問う佐山くんの目を見ることはできませんでした。でも、私も高校生でその手の話題には面白がって反応しなくてはなりませんが、答えられずにいた私に佐山くんが笑いながら教えてくれたのです。
「あれ、うちのバスケ部の伝統なんだよね。マネは知らなかったでしょ。引退した3年生が一押しのAVを置いていくっていう・・・もう、スマホで簡単に見られるんだから俺らの代からはやらないけね・・・・ねえ・・・ちょっと引かないで。」
佐山くんの話を聞きながら私の顔が曇っていったようです。この手の話題をうまく交わすことはできませんでした。今まで、お世話になってきた先輩たちもあんなものを見て喜んでいたのかと思うと恐ろしくなるのです。そして、3年生が選んだとなるともちろん昴も関わっているのです。しかも、数あるジャンルの中で「幼なじみ」を選択したことは偶然なのか、必然なのか・・・昴のことだから「馬鹿馬鹿しい」と言いながらその輪の中には入っていないと信じたいです。
帰宅をして恐る恐る、忘れようにも忘れられないDVDのタイトルを検索してしまいました。制服を着た黒髪ストレートの女性が潤んだ目でこちらを見ています。サンプルの画像では、男性とキスをしたり、裸があらわになっています。私は心臓がバクバクと音を立てて、変になりそうだったのですぐにその画面を閉じました。
昴は私のことを「妹としか見られない」と言いました。それでもあの日、バランスを崩して昴に倒れかかった時に、私の胸に腕が当たってしまった時に昴はどんなことを考えて、思ったのでしょう。
そして、考えてしまうのです。私のことを妹としか見られないということは、恋愛感情もないし、このDVDの内容のようなキスの先の行為を私とはしたくないないということになります。本当にそうでしょうか・・・少なからず私のことを意識している瞬間はあったはずです。そう確信していたから、私も思いを伝えたのです。私の気持ちも知らないで、このDVDを見ていたとして欲情していたならば私は悔しくて涙が出るのです。
そして、私以外の女の人とこのような行為をすると考えただけで虫唾が走ります。そして私も、昴以外の男の人に抱かれることなど考えられないのです。
彼の本当の気持ちが知りたくなりました。だから試したのです。
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(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
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2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
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○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
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