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プロローグ
逢坂蘭4
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そして、「昴が好き・・・」無意識のうちに私は昴に言ってしまいました。
昴はしばらく黙り混んで私を優しい眼差しで見つめました。その時の表情は今でも覚えています。可愛い顔をした幼なじみは、もう一人の大人の男性になっていたのですから、余計に彼のことを愛おしいと思いました。こんな眼差しを向けてくれるのならばもうこの瞬間に幼なじみを卒業して恋人にしてくれるのではないかという淡い期待に心臓がバクバクして気持ち悪くなりました。
しかし、昴はこう言いました。「ごめん・・・蘭のことは妹としか見られない・・・」と。
私の頬に触れた後に、頭をぽんと優しく撫でました。その手は大きくて温かい。
つい数秒前までの私は、恋人になればこの手さえも自分が独り占めしても良くなるのだと嬉しくて口元が緩みましたが、何度も見てきたこの手が一気に『触れてはならないもの』『人のもの』になった気がしたのです。
夕暮れ、また吹く風は冷たいけれど着実に春に近づいている3月の空の下。住宅街の路地裏で一番近くにいたはずの幼なじみが遠く感じてしまいました。
「好きな人がいるの?」精一杯そんな質問をしてみるけれど私の頬に伝った涙が春の風に当たって冷たく感じました。昴は振り返ってはくれません。
「そういうわけじゃ・・・」
「そっか・・・うん・・・わかった・・・先に帰っていて・・・」と独り言のように呟いて、昴は私を振り返ることなく自宅へと向かって行きます。
今思えば、この時に彼にもっと質問攻めをすればよかったのです。回答があまりにも曖昧だったのです。どうして、私のどこが彼女として相応しくないのか、私のどこを直せばいいのか・・・彼の前で思いっきり泣いてみればよかったのです。
もし、それが「遠距離になってしまうから」「勉強に集中したいから」ということならば私はちゃんと待っていました。10年以上も片思いをしていた相手が四年間待てと言うならば私は、他の男に目移りすることはなかったのです。昴のことが世界で一番好きだったから。約束をしてくれれば守ったのです。でも、あのように突き放されてしまえば期待を持つことはできないのです。
高校3年生は卒業まで、週に1日の登校になりましたが、私は昴と登校することを拒否しました。昴も気まずそうな空気を出すので無言のまま歩くくらいならば一人で登校した方がマシです。
元々、口数の多い人ではないし、面白い話を一方的にしてくれる人ではありませんでした。それなのに、彼は私の通学時間に合わせて家を出て、後ろにつき、機嫌をとるかのように当たり障りのない話をしてくるのです。『恋人』しては見られないけれど、『幼なじみ』でいようという私の気持ちを一切無視した綺麗事を並べるのでしょうか・・・私は、黙って作り笑顔をすることしかできませんでした。
私が告白をして振られてしまったことに関してはお互いの家族は知りません。私は今まで通りに昴のお母さんと買い物に行くし、3時のおやつの時間はおばあちゃんと、お茶を飲みながらお菓子を食べました。
そのような関係を続けるにあたっても昴は何も文句を言いませんでした。
昴はしばらく黙り混んで私を優しい眼差しで見つめました。その時の表情は今でも覚えています。可愛い顔をした幼なじみは、もう一人の大人の男性になっていたのですから、余計に彼のことを愛おしいと思いました。こんな眼差しを向けてくれるのならばもうこの瞬間に幼なじみを卒業して恋人にしてくれるのではないかという淡い期待に心臓がバクバクして気持ち悪くなりました。
しかし、昴はこう言いました。「ごめん・・・蘭のことは妹としか見られない・・・」と。
私の頬に触れた後に、頭をぽんと優しく撫でました。その手は大きくて温かい。
つい数秒前までの私は、恋人になればこの手さえも自分が独り占めしても良くなるのだと嬉しくて口元が緩みましたが、何度も見てきたこの手が一気に『触れてはならないもの』『人のもの』になった気がしたのです。
夕暮れ、また吹く風は冷たいけれど着実に春に近づいている3月の空の下。住宅街の路地裏で一番近くにいたはずの幼なじみが遠く感じてしまいました。
「好きな人がいるの?」精一杯そんな質問をしてみるけれど私の頬に伝った涙が春の風に当たって冷たく感じました。昴は振り返ってはくれません。
「そういうわけじゃ・・・」
「そっか・・・うん・・・わかった・・・先に帰っていて・・・」と独り言のように呟いて、昴は私を振り返ることなく自宅へと向かって行きます。
今思えば、この時に彼にもっと質問攻めをすればよかったのです。回答があまりにも曖昧だったのです。どうして、私のどこが彼女として相応しくないのか、私のどこを直せばいいのか・・・彼の前で思いっきり泣いてみればよかったのです。
もし、それが「遠距離になってしまうから」「勉強に集中したいから」ということならば私はちゃんと待っていました。10年以上も片思いをしていた相手が四年間待てと言うならば私は、他の男に目移りすることはなかったのです。昴のことが世界で一番好きだったから。約束をしてくれれば守ったのです。でも、あのように突き放されてしまえば期待を持つことはできないのです。
高校3年生は卒業まで、週に1日の登校になりましたが、私は昴と登校することを拒否しました。昴も気まずそうな空気を出すので無言のまま歩くくらいならば一人で登校した方がマシです。
元々、口数の多い人ではないし、面白い話を一方的にしてくれる人ではありませんでした。それなのに、彼は私の通学時間に合わせて家を出て、後ろにつき、機嫌をとるかのように当たり障りのない話をしてくるのです。『恋人』しては見られないけれど、『幼なじみ』でいようという私の気持ちを一切無視した綺麗事を並べるのでしょうか・・・私は、黙って作り笑顔をすることしかできませんでした。
私が告白をして振られてしまったことに関してはお互いの家族は知りません。私は今まで通りに昴のお母さんと買い物に行くし、3時のおやつの時間はおばあちゃんと、お茶を飲みながらお菓子を食べました。
そのような関係を続けるにあたっても昴は何も文句を言いませんでした。
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