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プロローグ

逢坂蘭3

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 しかし、マネージャと部員同士の恋愛は禁止でした。異常に仲の良い昴と私の間柄をよく『恋人同士なのか』と問われたことがありましたが、「幼なじみ」だと必ず否定しました。
 中にはもう既に私たちが付き合っているという前提の噂が流れたこともありました。キスをしただとか、その先に進んでいるだとか・・・
 それでも、昴は気にすることもなく否定も肯定もせずに私と一緒に家まで帰ってくれました。朝は、必ず家の門の前で待ってくれました。

 歴代のバスケ部の先輩たちは部活を引退したら大体交際を始めます。私も少しだけそれを期待していました。
 負けてしまえばもう一緒に部活はできなくなるけれど、昴が引退すれば付き合うこうができるかもしれない。そんな考えを持っているマネージャーはマネージャーをやるべきではないと思います。でも、そう考えてしまったのです。
 しかし、引退しようが、受験が終わろうが彼は私に、何もアクションを起こしませんでした。

 朝の登校は一緒でも、部活で遅い私と、部活を引退した昴は帰宅の時間が違うので下校は一緒にできなくなりました。そして、部活を引退した途端に、彼はいろんな女の子に告白されました。彼女たちは部活をやっている間は相手にしてもらえないのだろうと考えていたのです。
 そんな話を、淡々としてくるので私も興味なさそうに聞いてあげました。その時に、ヤキモチでもやけば少しは違った返答をしてくれたのでしょうか・・・

 それでも、彼は私と登校を一緒にしている以上、彼女は作らなかったのだと思います。
 だからこそ、私は周りに煽られることになります。「まだ告白してないの?」「早く付き合いなよ。」そんな言葉をかけられる頻度が多くなっていました。昴のことが好きということはある一定の友人たちには話していたのです。

 私たちはいつも、何気ない話をしながら学校へ向かいます。冬のある日のことでした。
 たまたまバランスを崩した私を昴は転ばぬように受け止めてくれました。昴の腕は私の胸に当たります。咄嗟のことでしたのでわざとではありません。一瞬だけ私たちは抱きしめ合うような体勢になり・・・というよりも昴がそのまま私を抱き寄せたのです。あと5センチぐらいで唇が触れてしまいそうでした。しばらく見つめあいましたが昴は私を解放しました。

 私への感情が何もなければ、あの時自分の方に抱き寄せるようなことはしなかったでしょう。
だからこの時に私は変に自信を持ってしまったのです。

 昴は私のことを好きなのではないかと・・・

しかし、昴は我に返り私から離れて、何事もなかったかのように歩き始めました。

 その出来事から、より一層私は昴にとって「普通の人」ではなく「特別な人」なのだと勘違いをするようになりました。いつ告白してくれるのだろうかと期待するようになりました。私から告白をしてしまってもいいのですが、彼は子供の頃から負けず嫌いでとてもマイペースでした。きっと彼なりのペースがあるのだと彼の全てを知っているような気持ちでいたのです。

 バスケ部を引退してから、ほんの少しだけ香水をつけるようになりました。その香りがとてもいい匂いで私は大好きでした。きっと隣を歩いていた私と、隣の席になった人、すれ違った人にしか分からないでしょう。細いのに筋肉質で、温かい腕の中。私だけのものにしたいと思いました。

 母のお腹の中にいた頃から、ともに過ごしてきたと言っても過言ではありません。何を考えているのかはなんとなくわかっていたつもりでした。でも、大人に近づけば近づくほど昴のことが分からなくなるのです。
 声変わりをして低くなった声も、喉仏も、伸びた背も、大きな手も私の知っている昴ではなくなっていくのです。このまま高校を卒業して大学に行くようになれば当然今までのように登下校はできなくなります。嫌々ながら一緒に歩いてくれたのだと思いますが、もうその機会さえ失ってしまうのです。

 現在、兄は海外にいますが時折、電話をしていたり、ゲームやDVDの貸し借りをしています。それは同性で兄弟のような存在であるからです。異性の私は当然、簡単にその輪の中に入れてもらうことはできません。私がもう少し積極的だったら話は別ですが、『恋人』にならない限り、きっかけもなければ会うことはできなくなるのです。でも、恋人になれたとしたならば、登下校を条件にしなくとも、連絡もしていいし、この数年は近づくこともできなかった昴の部屋にも入れてもらえるし、一緒にデートをすることもできるのです。

 こんな風に毎日昴のことを考えてしまう胸の苦しい時間を終わりにしたと思ったのが正直なところです。急ぐ必要はなかったのだと今はとても後悔しています。いずれにしても結果は変わらないのですから・・・でも、その時はこれが一番良い方法だと考えたのです。消極的な私としてはとても大胆な行動であったと思います。


 私は昴の大きな背中に後ろから抱きついてしまったのです。
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