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許されない二人

3(拓也視点)

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あの日以降、何度も親父に交渉をしてみたが聞く耳を持ってくれなかった。

奏は、親父の言う通りに部屋をでて一人暮らしを始めたがその部屋を教えてくれない。

連絡も返信してはくれないし、目も合わせてくれなくなってしまった。

二人きりになるタイミングを常に伺う日々が続く。

結婚を認められなくても心だけは通わせていたい。

もう、奏以外の女なんて考えられないのだから。




しかし、奏は前を向いていたらしい。

親しげに話す電話の相手は、男の声だった。

俺は上司だし、ファンだったからか奏に「うるさい!しつこい!」などと罵倒されたことはないのだ。

(羨ましいんだけど・・・)

俺は嫉妬深いし、推し(奏・かのん)のためならばお金も惜しまないし、なんだってできる。

奏のどんな表情も俺が知っていたい。

なのに、俺がまだ知らない奏がいるのが我慢ならなくて強引にホテルに誘導する。

奏は勢いに流されていたと思うけれど、本当に俺のことが嫌ならば逃げたと思う。

(よかった・・・)

一緒に暮らせなくても、『恋人』のままでいればいい。

婚約していたって、同棲していないカップルなんてごまんといる。

本心は今すぐにでも結婚したいけれど、こんな風にホテルで抱き合ったり、待ち合わせをしてデートしてみたり、旅行に行ったり。

恋人の時間を満喫すればいい。

そう思っていたけれど、一緒に暮らしていた頃の奏と今の奏は別人だ。

泣きそうな顔で俺に求める。

まるで『今日が最後の日』であるかのように。

俺は一切そんな風に思ってなどいないのに、奏は俺から離れようとしている。
それでいて、避妊しようとすれば、「もう、付けなくていい・・・」という。

俺が明日戦地に乗り込んで、生きて帰って来られるか分からないから俺の遺伝子を残そうとでも考えているのだろうか。

いつの時代だよ。

奏を安心させる言葉と、渡せなかった指輪で奏はいつもの奏に戻ってくれて安心していた。

あとは、俺が引き続き親父に交渉を続けるだけだ。

(待ってろよ!奏・・・)

と意気込んでいたのも束の間。


【もう、会うのやめよう。もう連絡しないで】とディスプレイに刻まれた文字。

この彼女の変化球に、うろたえることしかできなかった。

(え・・・?なんで?)

そこに、一瞬だけあの男の存在を思い出す。

(他に好きな人ができたから・・・ってやつですか?)

仕事を終えて、奏の住所を人伝いに聞いて待ち伏せをしてみたけれど住民の人たちに怪しまれるばかりで一向に帰ってこなかった。

他の男のところにいるのかと思うと気持ちが焦る。

奏から友達の話を一切聞いたことがないし、特別に親しくしている同僚もいない。

両親のところかと思い、車で向かうことを決意した時に一台のタクシーがアパートの前に停まる。

足元のおぼつかない奏と、やけに顔立ちの整った背の高い男が奏を介抱する。

もう嫌なことしか想像ができない俺は、彼らの同行を追うが、奏が頑なに住所を教えてくれないのに、俺が知っていて家の前で待ち伏せしたとなると「気持ち悪い」と思われてしまうかもしれない。

単なる会社の上司で、彼氏だけならまだしも、追っかけしていた過去があるからさらに嫌われて、あの男に取られてしまうかもしれない。

でも、ここで引き下がるわけにもいかなかった。

意を決して、奏の部屋の前に立つと、勢いよく扉が開き「ぎゃー」と男のどす黒い声がした。

「うわ、マジでびびった。刺されるかと思った。」
とその顔立ちの整った男は、胸元に手を押さえて深呼吸した。

「え?誰っすか?奏のファンにしてはイケメン・・・あ・・・もしかしてゲスい彼氏さんですか?」

その笑みがやけに爽やかで、腹立たしい。

おまけに俺を「ゲス」扱いしてくるとはなんてやつだ。しかし、彼はジャンバーの下によく料理人が着ているような白い服を纏っている。

「安心してください。
俺は指一本触れてませんから・・・
あ・・・肩とかは触ったけれど・・・
あとは料理を振る舞ったくらい。
俺は単なる幼なじみです。
口説きましたが玉砕しました。
あいつ、酔い出してからず~~~~~~とあなたの惚気話してきてうるさくて、お母さんにも忙しいからって拒否されて、仕方なく俺が部屋まで送ることになって、うんざりしたんで部屋に押し込んできました。」

(この男、爽やかイケメンのふりして結構腹黒そうだな)

「あとは、よろしくお願いします。彼氏さん・・・じゃあ、片付けとかあるんで帰ります。」

「ありがとうございます。」

「とっとと振ってもらっていいですか?いつまでも奏に思わせぶりなことしないで下さい。
俺は本気で結婚するつもりなんで、あなたと違ってうちの家族は大歓迎なので」

とにこりと笑って、待たせていたタクシーに乗り込んでいった。

一方的に、言われたままになってしまったが、あの男とは何もなかったようで安心した。

『ゲス』というのが聞き捨てならないが、奏の酔いが覚めたら聞いてみるとしよう。

恐る恐る部屋に入ると、8畳の1Kの部屋の奥にシングルの布団の上で奏は顔を真っ赤にして横たわっていた。

「大丈夫か?」
と声をかければ、「大丈夫じゃない・・・寂しい・・・」
と声を荒げながら言う。

「拓也に会いたい・・・」と一方的に言っているが俺がいることに気がついていない。

おそらく俺のことを、さっきの男だと思っているのだろう。

「ここにいるよ」と言うと、「嘘つき~~~」と思いっきり突き飛ばされた。

(この子、酔わせたら面倒臭いタイプか・・・まあ可愛いけど)

「もう、着替えたいから出てってよ~変態!!いつまでいんの?」

と俺を玄関に追いやり、服を脱ぎ始めたと思えば突然泣き始めて、しばらくして静かになったかと思えば、また布団の中に潜り込み眠りだした。

男と暮らしている形跡はなさそうで、奏のいい匂いで充満したこの部屋で可愛い寝顔を見つめていると俺にも睡魔が襲う。


勝手にシャワーを借りて、奏の隣で眠りについた。
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