44 / 48
許されない二人
3(拓也視点)
しおりを挟む
*
あの日以降、何度も親父に交渉をしてみたが聞く耳を持ってくれなかった。
奏は、親父の言う通りに部屋をでて一人暮らしを始めたがその部屋を教えてくれない。
連絡も返信してはくれないし、目も合わせてくれなくなってしまった。
二人きりになるタイミングを常に伺う日々が続く。
結婚を認められなくても心だけは通わせていたい。
もう、奏以外の女なんて考えられないのだから。
しかし、奏は前を向いていたらしい。
親しげに話す電話の相手は、男の声だった。
俺は上司だし、ファンだったからか奏に「うるさい!しつこい!」などと罵倒されたことはないのだ。
(羨ましいんだけど・・・)
俺は嫉妬深いし、推し(奏・かのん)のためならばお金も惜しまないし、なんだってできる。
奏のどんな表情も俺が知っていたい。
なのに、俺がまだ知らない奏がいるのが我慢ならなくて強引にホテルに誘導する。
奏は勢いに流されていたと思うけれど、本当に俺のことが嫌ならば逃げたと思う。
(よかった・・・)
一緒に暮らせなくても、『恋人』のままでいればいい。
婚約していたって、同棲していないカップルなんてごまんといる。
本心は今すぐにでも結婚したいけれど、こんな風にホテルで抱き合ったり、待ち合わせをしてデートしてみたり、旅行に行ったり。
恋人の時間を満喫すればいい。
そう思っていたけれど、一緒に暮らしていた頃の奏と今の奏は別人だ。
泣きそうな顔で俺に求める。
まるで『今日が最後の日』であるかのように。
俺は一切そんな風に思ってなどいないのに、奏は俺から離れようとしている。
それでいて、避妊しようとすれば、「もう、付けなくていい・・・」という。
俺が明日戦地に乗り込んで、生きて帰って来られるか分からないから俺の遺伝子を残そうとでも考えているのだろうか。
いつの時代だよ。
奏を安心させる言葉と、渡せなかった指輪で奏はいつもの奏に戻ってくれて安心していた。
あとは、俺が引き続き親父に交渉を続けるだけだ。
(待ってろよ!奏・・・)
と意気込んでいたのも束の間。
【もう、会うのやめよう。もう連絡しないで】とディスプレイに刻まれた文字。
この彼女の変化球に、うろたえることしかできなかった。
(え・・・?なんで?)
そこに、一瞬だけあの男の存在を思い出す。
(他に好きな人ができたから・・・ってやつですか?)
仕事を終えて、奏の住所を人伝いに聞いて待ち伏せをしてみたけれど住民の人たちに怪しまれるばかりで一向に帰ってこなかった。
他の男のところにいるのかと思うと気持ちが焦る。
奏から友達の話を一切聞いたことがないし、特別に親しくしている同僚もいない。
両親のところかと思い、車で向かうことを決意した時に一台のタクシーがアパートの前に停まる。
足元のおぼつかない奏と、やけに顔立ちの整った背の高い男が奏を介抱する。
もう嫌なことしか想像ができない俺は、彼らの同行を追うが、奏が頑なに住所を教えてくれないのに、俺が知っていて家の前で待ち伏せしたとなると「気持ち悪い」と思われてしまうかもしれない。
単なる会社の上司で、彼氏だけならまだしも、追っかけしていた過去があるからさらに嫌われて、あの男に取られてしまうかもしれない。
でも、ここで引き下がるわけにもいかなかった。
意を決して、奏の部屋の前に立つと、勢いよく扉が開き「ぎゃー」と男のどす黒い声がした。
「うわ、マジでびびった。刺されるかと思った。」
とその顔立ちの整った男は、胸元に手を押さえて深呼吸した。
「え?誰っすか?奏のファンにしてはイケメン・・・あ・・・もしかしてゲスい彼氏さんですか?」
その笑みがやけに爽やかで、腹立たしい。
おまけに俺を「ゲス」扱いしてくるとはなんてやつだ。しかし、彼はジャンバーの下によく料理人が着ているような白い服を纏っている。
「安心してください。
俺は指一本触れてませんから・・・
あ・・・肩とかは触ったけれど・・・
あとは料理を振る舞ったくらい。
俺は単なる幼なじみです。
口説きましたが玉砕しました。
あいつ、酔い出してからず~~~~~~とあなたの惚気話してきてうるさくて、お母さんにも忙しいからって拒否されて、仕方なく俺が部屋まで送ることになって、うんざりしたんで部屋に押し込んできました。」
(この男、爽やかイケメンのふりして結構腹黒そうだな)
「あとは、よろしくお願いします。彼氏さん・・・じゃあ、片付けとかあるんで帰ります。」
「ありがとうございます。」
「とっとと振ってもらっていいですか?いつまでも奏に思わせぶりなことしないで下さい。
俺は本気で結婚するつもりなんで、あなたと違ってうちの家族は大歓迎なので」
とにこりと笑って、待たせていたタクシーに乗り込んでいった。
一方的に、言われたままになってしまったが、あの男とは何もなかったようで安心した。
『ゲス』というのが聞き捨てならないが、奏の酔いが覚めたら聞いてみるとしよう。
恐る恐る部屋に入ると、8畳の1Kの部屋の奥にシングルの布団の上で奏は顔を真っ赤にして横たわっていた。
「大丈夫か?」
と声をかければ、「大丈夫じゃない・・・寂しい・・・」
と声を荒げながら言う。
「拓也に会いたい・・・」と一方的に言っているが俺がいることに気がついていない。
おそらく俺のことを、さっきの男だと思っているのだろう。
「ここにいるよ」と言うと、「嘘つき~~~」と思いっきり突き飛ばされた。
(この子、酔わせたら面倒臭いタイプか・・・まあ可愛いけど)
「もう、着替えたいから出てってよ~変態!!いつまでいんの?」
と俺を玄関に追いやり、服を脱ぎ始めたと思えば突然泣き始めて、しばらくして静かになったかと思えば、また布団の中に潜り込み眠りだした。
男と暮らしている形跡はなさそうで、奏のいい匂いで充満したこの部屋で可愛い寝顔を見つめていると俺にも睡魔が襲う。
勝手にシャワーを借りて、奏の隣で眠りについた。
あの日以降、何度も親父に交渉をしてみたが聞く耳を持ってくれなかった。
奏は、親父の言う通りに部屋をでて一人暮らしを始めたがその部屋を教えてくれない。
連絡も返信してはくれないし、目も合わせてくれなくなってしまった。
二人きりになるタイミングを常に伺う日々が続く。
結婚を認められなくても心だけは通わせていたい。
もう、奏以外の女なんて考えられないのだから。
しかし、奏は前を向いていたらしい。
親しげに話す電話の相手は、男の声だった。
俺は上司だし、ファンだったからか奏に「うるさい!しつこい!」などと罵倒されたことはないのだ。
(羨ましいんだけど・・・)
俺は嫉妬深いし、推し(奏・かのん)のためならばお金も惜しまないし、なんだってできる。
奏のどんな表情も俺が知っていたい。
なのに、俺がまだ知らない奏がいるのが我慢ならなくて強引にホテルに誘導する。
奏は勢いに流されていたと思うけれど、本当に俺のことが嫌ならば逃げたと思う。
(よかった・・・)
一緒に暮らせなくても、『恋人』のままでいればいい。
婚約していたって、同棲していないカップルなんてごまんといる。
本心は今すぐにでも結婚したいけれど、こんな風にホテルで抱き合ったり、待ち合わせをしてデートしてみたり、旅行に行ったり。
恋人の時間を満喫すればいい。
そう思っていたけれど、一緒に暮らしていた頃の奏と今の奏は別人だ。
泣きそうな顔で俺に求める。
まるで『今日が最後の日』であるかのように。
俺は一切そんな風に思ってなどいないのに、奏は俺から離れようとしている。
それでいて、避妊しようとすれば、「もう、付けなくていい・・・」という。
俺が明日戦地に乗り込んで、生きて帰って来られるか分からないから俺の遺伝子を残そうとでも考えているのだろうか。
いつの時代だよ。
奏を安心させる言葉と、渡せなかった指輪で奏はいつもの奏に戻ってくれて安心していた。
あとは、俺が引き続き親父に交渉を続けるだけだ。
(待ってろよ!奏・・・)
と意気込んでいたのも束の間。
【もう、会うのやめよう。もう連絡しないで】とディスプレイに刻まれた文字。
この彼女の変化球に、うろたえることしかできなかった。
(え・・・?なんで?)
そこに、一瞬だけあの男の存在を思い出す。
(他に好きな人ができたから・・・ってやつですか?)
仕事を終えて、奏の住所を人伝いに聞いて待ち伏せをしてみたけれど住民の人たちに怪しまれるばかりで一向に帰ってこなかった。
他の男のところにいるのかと思うと気持ちが焦る。
奏から友達の話を一切聞いたことがないし、特別に親しくしている同僚もいない。
両親のところかと思い、車で向かうことを決意した時に一台のタクシーがアパートの前に停まる。
足元のおぼつかない奏と、やけに顔立ちの整った背の高い男が奏を介抱する。
もう嫌なことしか想像ができない俺は、彼らの同行を追うが、奏が頑なに住所を教えてくれないのに、俺が知っていて家の前で待ち伏せしたとなると「気持ち悪い」と思われてしまうかもしれない。
単なる会社の上司で、彼氏だけならまだしも、追っかけしていた過去があるからさらに嫌われて、あの男に取られてしまうかもしれない。
でも、ここで引き下がるわけにもいかなかった。
意を決して、奏の部屋の前に立つと、勢いよく扉が開き「ぎゃー」と男のどす黒い声がした。
「うわ、マジでびびった。刺されるかと思った。」
とその顔立ちの整った男は、胸元に手を押さえて深呼吸した。
「え?誰っすか?奏のファンにしてはイケメン・・・あ・・・もしかしてゲスい彼氏さんですか?」
その笑みがやけに爽やかで、腹立たしい。
おまけに俺を「ゲス」扱いしてくるとはなんてやつだ。しかし、彼はジャンバーの下によく料理人が着ているような白い服を纏っている。
「安心してください。
俺は指一本触れてませんから・・・
あ・・・肩とかは触ったけれど・・・
あとは料理を振る舞ったくらい。
俺は単なる幼なじみです。
口説きましたが玉砕しました。
あいつ、酔い出してからず~~~~~~とあなたの惚気話してきてうるさくて、お母さんにも忙しいからって拒否されて、仕方なく俺が部屋まで送ることになって、うんざりしたんで部屋に押し込んできました。」
(この男、爽やかイケメンのふりして結構腹黒そうだな)
「あとは、よろしくお願いします。彼氏さん・・・じゃあ、片付けとかあるんで帰ります。」
「ありがとうございます。」
「とっとと振ってもらっていいですか?いつまでも奏に思わせぶりなことしないで下さい。
俺は本気で結婚するつもりなんで、あなたと違ってうちの家族は大歓迎なので」
とにこりと笑って、待たせていたタクシーに乗り込んでいった。
一方的に、言われたままになってしまったが、あの男とは何もなかったようで安心した。
『ゲス』というのが聞き捨てならないが、奏の酔いが覚めたら聞いてみるとしよう。
恐る恐る部屋に入ると、8畳の1Kの部屋の奥にシングルの布団の上で奏は顔を真っ赤にして横たわっていた。
「大丈夫か?」
と声をかければ、「大丈夫じゃない・・・寂しい・・・」
と声を荒げながら言う。
「拓也に会いたい・・・」と一方的に言っているが俺がいることに気がついていない。
おそらく俺のことを、さっきの男だと思っているのだろう。
「ここにいるよ」と言うと、「嘘つき~~~」と思いっきり突き飛ばされた。
(この子、酔わせたら面倒臭いタイプか・・・まあ可愛いけど)
「もう、着替えたいから出てってよ~変態!!いつまでいんの?」
と俺を玄関に追いやり、服を脱ぎ始めたと思えば突然泣き始めて、しばらくして静かになったかと思えば、また布団の中に潜り込み眠りだした。
男と暮らしている形跡はなさそうで、奏のいい匂いで充満したこの部屋で可愛い寝顔を見つめていると俺にも睡魔が襲う。
勝手にシャワーを借りて、奏の隣で眠りについた。
0
お気に入りに追加
266
あなたにおすすめの小説
最後の恋って、なに?~Happy wedding?~
氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた―――
ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。
それは同棲の話が出ていた矢先だった。
凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。
ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。
実は彼、厄介な事に大の女嫌いで――
元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――
10 sweet wedding
国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。
雨音。―私を避けていた義弟が突然、部屋にやってきました―
入海月子
恋愛
雨で引きこもっていた瑞希の部屋に、突然、義弟の伶がやってきた。
伶のことが好きだった瑞希だが、高校のときから彼に避けられるようになって、それがつらくて家を出たのに、今になって、なぜ?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる