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社員旅行
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「絶対に社員旅行には行かないことで有名な市ヶ谷係長が今年参加するってよ。」
「嘘、楽しみ~~~。エステ行っとこ。」
そんな女性社員の会話を聞いてしまうと一気に不安が襲い掛かる。
毎年ある社員旅行。
今年は、熱海の温泉旅館に一泊というプランだった。
アルバイトの際は一度も声をかけられなかったが、今回は拓也が拒否権なしに私を参加にしたのであった。
まず、私はまだ会社にしっかり溶け込めていないと言うことと、アイドルの遠征で県外へ行くこともあったが、大体ビジネスホテルに宿泊をしただけであり、「旅行」という経験が皆無という不安。
そして、一番恐るべきことは、拓也のことを数多くの女性社員が狙っているということ。
当日、宴会好きの上司が多い為、会社から直接旅館へバスで向かい各々温泉などを楽しんだ後に宴会が予定されていた。
男性社員は、大体一風呂済ませて浴衣姿で会場へ来たが、女性社員の多くは風呂へ行かず、私服のバッチリメイクのままだった。
拓也も、一度温泉に入ったようで、浴衣を着ておりそれがとてつもなく似合っていた。
宴会が開始されて、お酌に回ると拓也の周りは案の定女性社員が取り囲む。
予想はしていた。
今日は、同じ営業課だけではなく全体なので、普段話す機会のない社員たちもここぞとばかりに拓也と話す機会を伺っていたのだ。
(本当に拓也はモテるな・・・)
その集団に入ることをできないと見込んだので、顔と名前を覚えてもらうべくお酌に回ることに徹した。
宴会も中盤へ行くと、唐突にカラオケ大会が始まった。
トップバッターの社長は、中々いい声で最近の歌を歌うと、それに続いて他の社員たちが交代で歌い出した。
部長に、お酒を注いでいると
「桐山ちゃんはいくつなの?」
「25歳です。」
「若いね~~~。可愛いし。アイドルみたいだね。うちの娘とは大違いだよ。」
アイドルという言葉に、ピクリと反応してしまう。
「そうだ、次桐山ちゃん歌ってよ!お~~い、カラオケのリモコン持ってきて~~」
(うわ・・・マジか・・・こういう展開になったか・・・)
私は、拓也の方に視線を向けるが、拓也は相当飲まされているらしく顔を赤くして、未だに女性社員たちと話をしている。
拓也は、お酒が入ると饒舌になるので、普段の拓也とは違う一面を見られた女性社員たちは満足そうな顔をしている。
それでも、部長の頼みとあれば断ることはできない。
部長の好きな90年代のアイドルの中で好きな曲を選んでもらうことにした。
私が恐る恐るステージに立つと、「あの子誰?」という声がヒソヒソと聞こえて、酔っていた拓也と目があった。
もう、曲が始まってしまえばステージから降りることはできない。
歌い出せば、「下手くそ」に歌うことはできないし、自然に体も動いてしまう。
(だって13年もアイドルをやってきたんだもの・・・)
意外にもその場にいた人たちが聞き入ってくれて、会いの手を入れてくれたため、盛り上がった。
「本物がいるかと思った」と部長が絶賛してくれたことが嬉しかった。
歌い終えて、いつもは素っ気なかった女性社員たちが「この曲踊りたいんだけど歌ってもらってもいい?」と問う。
不安でいっぱいだったが、ようやく私も溶け込めただろうか。
宴会を終えて、二次会・温泉・エステと希望するところへ別れることになった。
拓也とは、宴会を終えた後に合流をすることになっていたが、相変わらず女性社員に囲まれており相当酔っている。
そのままの流れで二次会会場へ連れ込まれていく。
私も、柳澤さんに手を引かれて二次会会場へ行くことになった。
旅館内のバーのところには、またしてもカラオケがあり度々私へのリクエストが入った。
拓也は、女性社員に囲まれながら変わらずにお酒を飲み続けている。
「あそこだけキャバクラ見てーだな。美人に囲まれて、顔がいい男は羨ましいな」と上司が拓也に言った。
「あ、それなら俺指名しようかな~~奏ちゃん~~~隣においで~~~」
完全に、無口でクールな市ヶ谷拓也はそこにいない。
時折、私に見せる「デレ」の部分を公の場で公開している。
これは恥ずかしいことになる前に、彼の目を覚まさなくては・・・
「市ヶ谷係長・・・もうこれ以上キャラ崩壊しないで下さい。さ、部屋戻りましょう」
痺れを切らした柳澤さんが、拓也にそう言って担いだ。
「え~~帰っちゃうの?つまんない~~私も部屋までついてく~~~」
と言った女性社員たちを柳澤さんが軽くあしらった。
「桐山ちゃん。指名だってちょっと手伝って」
と柳澤さんは拓也の左側にたちその反対側に私が立った。
「ごめんね~~柳澤~~」と陽気な声で言った拓也に、「二人って付き合ってるんですよね」と柳澤さんは言った。
即答できない私とは裏腹に、拓也は「うん」と答える。
「ちょっと・・・柳澤さん・・・まだ誰にも言わないで下さい。」
「やっぱりね・・・もうすぐにわかりましたよ。なんだ。奏ちゃんは市ヶ谷係長の女か・・・この旅行で告ろうと思ってたのにな~~」
まだ、足元のおぼつかない拓也をようやく部屋まで担ぎ込むと、柳澤さんは笑みを浮かべながらこう言う。
「俺の部屋となりなんであんまり大きい声出させないようにして下さいね。あ、聞かせてくれてもいいんですよ。良かったですね角部屋で・・・幸い聞こえるのは俺だけだから。」
「聞かせるわけねーだろ。」
と拓也は冷たい声で言った。
「まあまあ、俺はまだ二次会、三次会と行くんで・・・ごゆっくり」
「絶対に社員旅行には行かないことで有名な市ヶ谷係長が今年参加するってよ。」
「嘘、楽しみ~~~。エステ行っとこ。」
そんな女性社員の会話を聞いてしまうと一気に不安が襲い掛かる。
毎年ある社員旅行。
今年は、熱海の温泉旅館に一泊というプランだった。
アルバイトの際は一度も声をかけられなかったが、今回は拓也が拒否権なしに私を参加にしたのであった。
まず、私はまだ会社にしっかり溶け込めていないと言うことと、アイドルの遠征で県外へ行くこともあったが、大体ビジネスホテルに宿泊をしただけであり、「旅行」という経験が皆無という不安。
そして、一番恐るべきことは、拓也のことを数多くの女性社員が狙っているということ。
当日、宴会好きの上司が多い為、会社から直接旅館へバスで向かい各々温泉などを楽しんだ後に宴会が予定されていた。
男性社員は、大体一風呂済ませて浴衣姿で会場へ来たが、女性社員の多くは風呂へ行かず、私服のバッチリメイクのままだった。
拓也も、一度温泉に入ったようで、浴衣を着ておりそれがとてつもなく似合っていた。
宴会が開始されて、お酌に回ると拓也の周りは案の定女性社員が取り囲む。
予想はしていた。
今日は、同じ営業課だけではなく全体なので、普段話す機会のない社員たちもここぞとばかりに拓也と話す機会を伺っていたのだ。
(本当に拓也はモテるな・・・)
その集団に入ることをできないと見込んだので、顔と名前を覚えてもらうべくお酌に回ることに徹した。
宴会も中盤へ行くと、唐突にカラオケ大会が始まった。
トップバッターの社長は、中々いい声で最近の歌を歌うと、それに続いて他の社員たちが交代で歌い出した。
部長に、お酒を注いでいると
「桐山ちゃんはいくつなの?」
「25歳です。」
「若いね~~~。可愛いし。アイドルみたいだね。うちの娘とは大違いだよ。」
アイドルという言葉に、ピクリと反応してしまう。
「そうだ、次桐山ちゃん歌ってよ!お~~い、カラオケのリモコン持ってきて~~」
(うわ・・・マジか・・・こういう展開になったか・・・)
私は、拓也の方に視線を向けるが、拓也は相当飲まされているらしく顔を赤くして、未だに女性社員たちと話をしている。
拓也は、お酒が入ると饒舌になるので、普段の拓也とは違う一面を見られた女性社員たちは満足そうな顔をしている。
それでも、部長の頼みとあれば断ることはできない。
部長の好きな90年代のアイドルの中で好きな曲を選んでもらうことにした。
私が恐る恐るステージに立つと、「あの子誰?」という声がヒソヒソと聞こえて、酔っていた拓也と目があった。
もう、曲が始まってしまえばステージから降りることはできない。
歌い出せば、「下手くそ」に歌うことはできないし、自然に体も動いてしまう。
(だって13年もアイドルをやってきたんだもの・・・)
意外にもその場にいた人たちが聞き入ってくれて、会いの手を入れてくれたため、盛り上がった。
「本物がいるかと思った」と部長が絶賛してくれたことが嬉しかった。
歌い終えて、いつもは素っ気なかった女性社員たちが「この曲踊りたいんだけど歌ってもらってもいい?」と問う。
不安でいっぱいだったが、ようやく私も溶け込めただろうか。
宴会を終えて、二次会・温泉・エステと希望するところへ別れることになった。
拓也とは、宴会を終えた後に合流をすることになっていたが、相変わらず女性社員に囲まれており相当酔っている。
そのままの流れで二次会会場へ連れ込まれていく。
私も、柳澤さんに手を引かれて二次会会場へ行くことになった。
旅館内のバーのところには、またしてもカラオケがあり度々私へのリクエストが入った。
拓也は、女性社員に囲まれながら変わらずにお酒を飲み続けている。
「あそこだけキャバクラ見てーだな。美人に囲まれて、顔がいい男は羨ましいな」と上司が拓也に言った。
「あ、それなら俺指名しようかな~~奏ちゃん~~~隣においで~~~」
完全に、無口でクールな市ヶ谷拓也はそこにいない。
時折、私に見せる「デレ」の部分を公の場で公開している。
これは恥ずかしいことになる前に、彼の目を覚まさなくては・・・
「市ヶ谷係長・・・もうこれ以上キャラ崩壊しないで下さい。さ、部屋戻りましょう」
痺れを切らした柳澤さんが、拓也にそう言って担いだ。
「え~~帰っちゃうの?つまんない~~私も部屋までついてく~~~」
と言った女性社員たちを柳澤さんが軽くあしらった。
「桐山ちゃん。指名だってちょっと手伝って」
と柳澤さんは拓也の左側にたちその反対側に私が立った。
「ごめんね~~柳澤~~」と陽気な声で言った拓也に、「二人って付き合ってるんですよね」と柳澤さんは言った。
即答できない私とは裏腹に、拓也は「うん」と答える。
「ちょっと・・・柳澤さん・・・まだ誰にも言わないで下さい。」
「やっぱりね・・・もうすぐにわかりましたよ。なんだ。奏ちゃんは市ヶ谷係長の女か・・・この旅行で告ろうと思ってたのにな~~」
まだ、足元のおぼつかない拓也をようやく部屋まで担ぎ込むと、柳澤さんは笑みを浮かべながらこう言う。
「俺の部屋となりなんであんまり大きい声出させないようにして下さいね。あ、聞かせてくれてもいいんですよ。良かったですね角部屋で・・・幸い聞こえるのは俺だけだから。」
「聞かせるわけねーだろ。」
と拓也は冷たい声で言った。
「まあまあ、俺はまだ二次会、三次会と行くんで・・・ごゆっくり」
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