御曹司と地下アイドル〜一線を越えた夜〜

許されない二人

３

でも、今は契約社員、一人暮らし、彼氏なし。

また馬鹿にされそうだ。

皮肉なもので彼も同じタイミングで店を出た。
当然のように私の隣を歩く。

（あの頃に比べると随分背も大きくなったな。）

過去も知らずに出会ったならば、普通にかっこいいと思ったのに。
そんな甘い考えも束の間。

「まだ、売れないアイドルやってんの？」
と皮肉な笑顔で彼は問う。

（こいつ全然変わってね～～～）

私は、腹が立って無視をして早歩きをするが、信雪くんの歩幅の方が圧倒的に広く、すぐに追いつかれてしまい、馴れ馴れしく腕を掴まれてさらに不快な気持ちになった。

「ごめん、ごめん・・・」

（この人は、息をするように傷つけることを平気で言えるんだな・・・）

涙を流すつもりなどなかった。

でも、この数日間で私のメンタルはボロボロでこんな些細なことでも涙腺が崩壊してしまう。
その涙を見られたくなかったのに、信雪くんは私の手をつかんで離さない。

「ごめん、本当にごめん・・・子供の時もそうやって奏のこと傷つけたよね・・・
俺、ずっと後悔してて謝ろう謝ろうって思ってたのに謝れなくてそれがずっと心残りだった。
本当にごめんなさい・・・」

彼は、深く頭を下げた。


「もう、気にしてないよ。何年前の話？」
無理に笑顔を作ってみる。


「奏のことがずっと好きだったから・・・アイドルやっていることが嫌だった。
からかえばやめてくれると思ってそうした・・・」

（今更何をいうのだろう・・・）


「奏がアイドルをやめたら、告白するつもりでいた。だからそれまで東京離れて一人前になるために修行してたんだ。でも、もう遅かったかな・・・」


信雪くんのことは大嫌いだった。
でも、こんな理由があったのなら少し許せてしまう自分がいる。


適当に答えを濁して、逃げるように帰宅した。
スマホを確認すると、信雪くんからのメッセージが届いている。
彼の番号は知るはずがないのだから、母が教えたのだろう。

（個人情報・・・一応元アイドルなんですけど・・・）

【今日は、一方的にごめんね。今週末時間ある？】

拓也と別れてからというものの、週末は暇だった。
時間は有り余っているのに、信雪くんと会う気にはなれなかった。