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私はアイドル
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季節は巡り、バイトも続けた。
そこで思いがけない出来事が起きる。
「バイトの勤務時間を伸ばしたい・・・ね・・・・」
人事の山田さんは、この社内で唯一私が地下アイドルをしていることを教えている56歳のダンディーなおじ様で、陰ながら応援をしてくれてた人だった。
25歳の誕生日で、アイドルを辞めてバイトの時間を増やしたいと要求すると、彼は自分の顎を触りながら
「それなら、契約からやってみて、正社員試験受ければ?君、真面目だし、仕事も早いって社員も褒めてたし、福利厚生にボーナス・・・まだ、若いし・・・どう?」
「若い」という言葉に涙が出そうになる。
アイドルの世界では「賞味期限切れ」と呼ばれているのに…
そして、「ボーナス」という言葉に頬が緩む。
「ぜひ、よろしくお願いします。」
大きな声で深々と頭を下げると、山田さんはニッコリと笑った。
「相談してみるわ。」と指でグーサインを出す。
(やっぱりいい会社は人もいい・・・)
希望の光が見えた気がする。
部屋を出て軽快なステップを刻む。
安定した収入、保証された未来、大手企業の正社員(まだだけど・・・)
厳しいダンスレッスンも、ボイトレも必要ない。
恋愛も自由・・・
そう全てが自由になる。
今までは、別次元だと思っていたこの会社の社員たちに少し手が届いた気がしてしまう。
これでお腹いっぱいご飯を食べて、好きなもの買えるかも・・・
浮かれながら乗り込んだエレベーターにはすでに男性社員が二人乗っており、「お疲れ様です」と挨拶をして目的地の階のボタンを押した。
その男性社員はにこりともせず、返答してくれたもののすぐに仕事内容の会話を続けている。
二人とも高身長で、迫力があり清潔感のあるネイビーのスーツがよく似合っている。
スーツのカタログのモデルと言っても過言がない整った顔立ちと足の長さであった。
エレベーターの中は、清潔感のある洗剤の匂いがこの二人から発生している。
私は、居心地が悪くて、エレベーターの入り口付近に立ってボタンを凝視する。
とてもではないが彼らのことを見ることはできないし、思わず息を止めてしまうのは、呼吸音を聞かれるだけでも恥ずかしい気がするからだ。
逃げるようにエレベーターを飛び出して、振り返ることもできなかった。
乗っていきた階数から予測をすると、「営業課」であることが分かった。
選ばれし優秀な人が集まると噂されている部署に少し興味が湧く。
仕事もできて、頭もよくて、顔もよくて・・・
きっといい大学を出て、いい暮らしをしている人ばかりなのだろうと少し卑屈になってしまう。
生まれながらに、生きてきた環境も関わってきた人も違う。
私が地下ならこの人たちは、きっと雲の上だ。
それでも、この空間に居続ける時間が長くなれば私もせめても地上に出るくらいにはなれるだろうか。
業務終了後、変わらずにレッスンを続ける。
卒業の日までのカウントダウンが迫っていく。
影では悪口を言っていると分かっているけれど、これから先の約束された未来があるだけで私は平気な顔をしていられるのだ。
そこで思いがけない出来事が起きる。
「バイトの勤務時間を伸ばしたい・・・ね・・・・」
人事の山田さんは、この社内で唯一私が地下アイドルをしていることを教えている56歳のダンディーなおじ様で、陰ながら応援をしてくれてた人だった。
25歳の誕生日で、アイドルを辞めてバイトの時間を増やしたいと要求すると、彼は自分の顎を触りながら
「それなら、契約からやってみて、正社員試験受ければ?君、真面目だし、仕事も早いって社員も褒めてたし、福利厚生にボーナス・・・まだ、若いし・・・どう?」
「若い」という言葉に涙が出そうになる。
アイドルの世界では「賞味期限切れ」と呼ばれているのに…
そして、「ボーナス」という言葉に頬が緩む。
「ぜひ、よろしくお願いします。」
大きな声で深々と頭を下げると、山田さんはニッコリと笑った。
「相談してみるわ。」と指でグーサインを出す。
(やっぱりいい会社は人もいい・・・)
希望の光が見えた気がする。
部屋を出て軽快なステップを刻む。
安定した収入、保証された未来、大手企業の正社員(まだだけど・・・)
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そう全てが自由になる。
今までは、別次元だと思っていたこの会社の社員たちに少し手が届いた気がしてしまう。
これでお腹いっぱいご飯を食べて、好きなもの買えるかも・・・
浮かれながら乗り込んだエレベーターにはすでに男性社員が二人乗っており、「お疲れ様です」と挨拶をして目的地の階のボタンを押した。
その男性社員はにこりともせず、返答してくれたもののすぐに仕事内容の会話を続けている。
二人とも高身長で、迫力があり清潔感のあるネイビーのスーツがよく似合っている。
スーツのカタログのモデルと言っても過言がない整った顔立ちと足の長さであった。
エレベーターの中は、清潔感のある洗剤の匂いがこの二人から発生している。
私は、居心地が悪くて、エレベーターの入り口付近に立ってボタンを凝視する。
とてもではないが彼らのことを見ることはできないし、思わず息を止めてしまうのは、呼吸音を聞かれるだけでも恥ずかしい気がするからだ。
逃げるようにエレベーターを飛び出して、振り返ることもできなかった。
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それでも、この空間に居続ける時間が長くなれば私もせめても地上に出るくらいにはなれるだろうか。
業務終了後、変わらずにレッスンを続ける。
卒業の日までのカウントダウンが迫っていく。
影では悪口を言っていると分かっているけれど、これから先の約束された未来があるだけで私は平気な顔をしていられるのだ。
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