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読書パーティー編
その48 幻想的な夜☆
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細い三日月が薄く光をもたらす八月二日の夜。
セレナはそわそわと落ち着かない様子で、部屋の中を行ったり来たりしていた。
(オスカー、来てくれるかな……)
オスカーが来なかったら終わりだ。
以前よりもますます、セレナはオスカーに執着している。日常生活の中で、オスカーのことを考える時間が確実に増えた。自分が抱いていた彼への好意に気づきさえすれば、もう彼女を抑えつけるものはどこにもない。
男子寮のオスカーの部屋に侵入し、手紙を置くこと。
それは大して難しいことではなかった。教師にはオスカーの部屋に用事があると伝えてある。
教師陣の間で、西園寺オスカーと二階堂セレナが付き合っている、などという根も葉もない噂があったおかげで、すんなり許可してもらうことができた。
オスカーの部屋に入った時のセレナの感想は、綺麗、だった。
自室の掃除は基本生徒が自分ですることになっている。そのため、生徒によって部屋の整理具合に大きな差が出るわけだが、オスカーの部屋には埃ひとつなく、物が少なくて質素だった。
何かと理解できない西園寺オスカーだが、この整頓された部屋を見ると、オスカーらしい、と思ってしまうセレナ。
彼の部屋は彼女の中でのオスカーへのイメージを裏切らないものだった。
『待ったか?』
不意に背後から声が投じられる。低く、芯のある声だ。
誰かが部屋に入ってくる音も、気配もなかった。窓は閉じたまま。
一体、オスカーはどこから侵入したのか。セレナの頭の中にさらなる謎が刻まれる。
「ここ私の部屋なんだから、待つのは当然でしょ」
来てくれたことに安堵しながら、セレナはベッドに腰を下ろした。顔には僅かな笑みが浮かんでいた。
「今宵も君は美しい」
オスカーが言う。
ズルい奴だと思いながらも、セレナは顔を赤く染めた。
こんな幻想的な夜に、好きな男子が自分の部屋まで来たのだ。気軽に話せるような関係だったはずが、今では声を聞いただけで心が大きく揺れ動いてしまう。
「オスカーも……かっこいい、よ」
ぎこちなく褒めてみるセレナ。
しかし、自分の性格と合わないような気がして、急に恥ずかしくなった。
「無理はするな。自分が言いたいと思ったことを、自分のペースで伝えればいい」
「……ありがと」
オスカーはセレナが話し始めるまで待った。
頭の中では何を話すのか決めていて、何度も確認したはずなのに、急に思考が停止してしまったかのようだ。セレナの頭の中は真っ白どころか、オスカーに支配されている。
オスカーも寝台に腰掛けた。
お互いの肩が接触しそうなほどの距離だ。微かに荒くなるセレナの呼吸。
「あのさ……」
簡単に言えるはずなのに、口は素直に動いてくれない。
オスカーはいつまでも待ってくれるだろう。ずっと隣にいると約束したのだから。
セレナは自らを奮い立たせ、覚悟を決める。
「私、オスカーが好きなの」
穏やかな月の光が、部屋に差し込んだ。
セレナの表情に曇りはない。すぐ隣に座っているオスカーは、表情を一切変えなかった。
静寂が続く。
セレナにとっては、この静寂が永遠のように感じられた。
愛の告白――オスカーは前に生徒会長の八乙女アリアから受けている。そして、それを簡単に断った。
その話を聞いた時、セレナは、もし告白していたのが自分だったら、と考えた。オスカーは生徒会長にしたように、さらっとセレナのことも振るだろうか。
今回、もう完全に吹っ切れている。
彼から何を言われても、それを冷静に受け止めるつもりだ。
溢れ出そうなこの気持ちを抑えておく方が難しい。すぐ隣にオスカーの息があることの幸せを噛み締める。
「俺のことを好き、か」
「うん……オスカーは、こんな私を救ってくれたから。独りぼっちな私を」
ここで、表情に変化のなかったオスカーが、急に動きを見せる。
ベッドから立ち上がり、窓の方へと近づいた。そのまま飛び降りるのではないか、とセレナは一瞬考えるも、そんなわけないと首を振る。
「今宵も月が美しい」
月光に吸収されるような囁きが、部屋の沈黙を破った。
「お前は本当の俺を知らない。もし俺の罪深き過去を知れば、気が変わるかもしれない」
「そんなこと、ないから」
「本気か?」
「うん……本気」
セレナは自分が少しでも迷ってしまったことを悔やんだ。
オスカーのことは絶対に信じると決めたのだ。たとえ彼がどんな過去を背負っていようと、受け入れることができる。
「わかった。俺の過去を話そう」
夜空を彩る月が雲に隠れ、月光が途絶えた。
セレナはそわそわと落ち着かない様子で、部屋の中を行ったり来たりしていた。
(オスカー、来てくれるかな……)
オスカーが来なかったら終わりだ。
以前よりもますます、セレナはオスカーに執着している。日常生活の中で、オスカーのことを考える時間が確実に増えた。自分が抱いていた彼への好意に気づきさえすれば、もう彼女を抑えつけるものはどこにもない。
男子寮のオスカーの部屋に侵入し、手紙を置くこと。
それは大して難しいことではなかった。教師にはオスカーの部屋に用事があると伝えてある。
教師陣の間で、西園寺オスカーと二階堂セレナが付き合っている、などという根も葉もない噂があったおかげで、すんなり許可してもらうことができた。
オスカーの部屋に入った時のセレナの感想は、綺麗、だった。
自室の掃除は基本生徒が自分ですることになっている。そのため、生徒によって部屋の整理具合に大きな差が出るわけだが、オスカーの部屋には埃ひとつなく、物が少なくて質素だった。
何かと理解できない西園寺オスカーだが、この整頓された部屋を見ると、オスカーらしい、と思ってしまうセレナ。
彼の部屋は彼女の中でのオスカーへのイメージを裏切らないものだった。
『待ったか?』
不意に背後から声が投じられる。低く、芯のある声だ。
誰かが部屋に入ってくる音も、気配もなかった。窓は閉じたまま。
一体、オスカーはどこから侵入したのか。セレナの頭の中にさらなる謎が刻まれる。
「ここ私の部屋なんだから、待つのは当然でしょ」
来てくれたことに安堵しながら、セレナはベッドに腰を下ろした。顔には僅かな笑みが浮かんでいた。
「今宵も君は美しい」
オスカーが言う。
ズルい奴だと思いながらも、セレナは顔を赤く染めた。
こんな幻想的な夜に、好きな男子が自分の部屋まで来たのだ。気軽に話せるような関係だったはずが、今では声を聞いただけで心が大きく揺れ動いてしまう。
「オスカーも……かっこいい、よ」
ぎこちなく褒めてみるセレナ。
しかし、自分の性格と合わないような気がして、急に恥ずかしくなった。
「無理はするな。自分が言いたいと思ったことを、自分のペースで伝えればいい」
「……ありがと」
オスカーはセレナが話し始めるまで待った。
頭の中では何を話すのか決めていて、何度も確認したはずなのに、急に思考が停止してしまったかのようだ。セレナの頭の中は真っ白どころか、オスカーに支配されている。
オスカーも寝台に腰掛けた。
お互いの肩が接触しそうなほどの距離だ。微かに荒くなるセレナの呼吸。
「あのさ……」
簡単に言えるはずなのに、口は素直に動いてくれない。
オスカーはいつまでも待ってくれるだろう。ずっと隣にいると約束したのだから。
セレナは自らを奮い立たせ、覚悟を決める。
「私、オスカーが好きなの」
穏やかな月の光が、部屋に差し込んだ。
セレナの表情に曇りはない。すぐ隣に座っているオスカーは、表情を一切変えなかった。
静寂が続く。
セレナにとっては、この静寂が永遠のように感じられた。
愛の告白――オスカーは前に生徒会長の八乙女アリアから受けている。そして、それを簡単に断った。
その話を聞いた時、セレナは、もし告白していたのが自分だったら、と考えた。オスカーは生徒会長にしたように、さらっとセレナのことも振るだろうか。
今回、もう完全に吹っ切れている。
彼から何を言われても、それを冷静に受け止めるつもりだ。
溢れ出そうなこの気持ちを抑えておく方が難しい。すぐ隣にオスカーの息があることの幸せを噛み締める。
「俺のことを好き、か」
「うん……オスカーは、こんな私を救ってくれたから。独りぼっちな私を」
ここで、表情に変化のなかったオスカーが、急に動きを見せる。
ベッドから立ち上がり、窓の方へと近づいた。そのまま飛び降りるのではないか、とセレナは一瞬考えるも、そんなわけないと首を振る。
「今宵も月が美しい」
月光に吸収されるような囁きが、部屋の沈黙を破った。
「お前は本当の俺を知らない。もし俺の罪深き過去を知れば、気が変わるかもしれない」
「そんなこと、ないから」
「本気か?」
「うん……本気」
セレナは自分が少しでも迷ってしまったことを悔やんだ。
オスカーのことは絶対に信じると決めたのだ。たとえ彼がどんな過去を背負っていようと、受け入れることができる。
「わかった。俺の過去を話そう」
夜空を彩る月が雲に隠れ、月光が途絶えた。
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