26 / 27
26 脱衣所はロックをしてから入ろう
しおりを挟む
着替えのジャージを持って脱衣所まで来ると、急に紫雨君がそわそわし始めた。
「あの……どっちから先に……脱ぐ?」
「あ、恥ずかしいの?」
「いやその……うん」
可愛い奴だ。
中性的な見た目でそんな可愛いことを言われれば、たとえ相手が男子だったとしてもキュンとしてしまう。
俺は紫雨君が緊張している隣で、ゆっくりとTシャツを脱ぎ始めた。
帰宅部とはいえ、筋トレは欠かさず行っているし、朝から必ずプロテインを摂取している。俺の肉体はイケメン君に見せても恥ずかしいものではない。
一方、紫雨君はなかなか服に手をかけなかった。
「やっぱり別々に入る?」
気を遣って提案してみる。
だが、紫雨君の反応はない。
俺の鍛え抜かれた上半身を凝視すると、顔を赤くして反対方向に視線を送る。やっぱり彼はゲイなのかもしれない。
とはいえ、俺と一緒に風呂に入ることに怖気づいたのなら、黙って脱衣所から逃亡すればいい。
そうしないということは、そんなに気にしなくてもいいってことだろう。
俺は短パンに手をかけ、いよいよパンツ一丁になる。
一方で隣のイケメンは完全装備。戦ったら圧倒的に俺の方が不利だな。
そしてついに、パンツに手をかけた。
***
「はぁ? 白水くんが実は女!?」
女子部屋にひとりのブラコンの声が響き渡った。
最初は驚愕の表情だったが、それも次第に暗殺者の冷徹な表情に変わっていく。今まですっかり騙されていたことへの怒りだ。
「紫雨は特殊な性癖を持ってて、男子って思われるのが嬉しいらしくて──」
千冬が詳細を話していく。
当然ながら、教師である松丸天は紫雨の性別が女であることを知っている。
しかし、紫雨があえて自分を男子として接するように頼んだのだ。
紫雨は男子と思われることに達成感を感じるという性癖の持ち主であるだけだったが、天はそれを面白がった。
そしてわざと、紫雨を男子部屋にしたのだ。
「あの教師……殺す」
そう唸ったのはもちろん、ブラザーコンプレックスの夏凛だ。
天と紫雨への猛烈な殺意が彼女の中で蠢いている。
夏凛もすっかり紫雨=男だと勘違いしていた。弟の秋空からは男子部員であると紹介されていたことや、見た目が中性的であることもその理由のひとつになるだろう。
「やっぱり」
日菜美は紫雨の勝ち誇ったような笑みを見て気づいた。
秋空と同じく、紫雨を千冬の彼氏だと思って男扱いしていたわけだが、秋空を見つめる瞳が明らかに女子のものであることに気がついてしまったのだ。
「今すぐ部屋に突撃しよう」
夏凛の狂気に満ちた声で、考える暇もなく男子部屋へと足が動く。
何も知らない哀れでアホな秋空は、今頃紫雨を男だと思って楽しく会話でもしているんだろうか。
夏凛はそう考えるたび、紫雨への殺意が増していくことに気づいた。
「いない……秋くん?」
「夏凛様、もしかして、お風呂?」
「お風呂!? 秋くんとお風呂に入れるのはお姉ちゃんだけだからね!」
「夏凛様って、ショジョですか?」
「当たり前でしょ! 私の貞操は秋くんのものだからっ!」
秩序のない会話をして、3人で仲良く風呂場に走る。
女子の浴場ではなく、男子の浴場へ、だ。
***
「秋空くん」
俺が全部服を脱ぎ終わり、全裸になった頃。
上も下も、まだ1枚も脱いでない紫雨君がやっと口を開いた。
「キミは鈍感なの?」
「え、いきなりどうした?」
「この状況でも、本気で気づかないの? それとも、気づかないふりをしてるだけ?」
──気づく?
紫雨君の指摘を聞いて、俺はハッと気づいた。
やっぱり紫雨君はゲイだったのだ。
「実は……もしかしたらそうかもしれないと思ってた」
「……流石に気づ──」
「──紫雨君って、ゲイなんだね」
「え!?」
俺の一言に、肩を大きく跳ねさせて驚く紫雨君。
やっぱり少しダイレクトな言い方になってしまった。こういう繊細な話は、もう少し丁寧な前置きをしてするべきなのだ。
「ごめん、俺は別にそういうの認めてるっていうか、別に多様性のひとつとしてアリだと思ってる。あ、でも俺はゲイじゃなくてストレートなんだけど」
「んー」
紫雨君は涙目で俺を見ていた。
俺の下半身には一切視線を送らず、顔を直視してきている。
まあ、もう下半身を覆うものはないわけだし、そりゃそうか。
「やっぱり鈍感なんだ、秋空くんは。千冬にはヤンデレ気質があるけど、キミには鈍感気質があるんだね」
俺は自分が鈍感だと思ったことはないし、言われたこともない。
ちなみに、俺はラノベの鈍感系主人公が苦手だ。
だからヒロインからの好意にちゃんと気づいている『勇者学園の異端児は強者ムーブをかましたい』の主人公、西園寺オスカーがお気に入りである。
やっぱり作者のエース皇命は最高だ。
「秋空くん、これを見たら気づいてくれるかな」
紫雨君はどこか諦めたような表情をして、Tシャツに手をかけた。
ようやく脱ぎ始めるらしい。
俺はもうすでに全裸だからなんだか気まずい。
紫雨君のお腹が見える。
細くて、艶のあるお腹だ。
同じ男子のものとは思えない。
「秋くぅぅぅぅぅううううん!!」
その時、脱衣所の扉が勢いよく開放された。
聞き覚えのある叫び声が耳を襲う。
紫雨君が脱衣を中断して振り返った。姉さんの声でだいたいの状況は察しているだろうけど。
姉さんの隣には千冬と日菜美もいた。
急いで駆けつけたのか、少し息を切らしている。日菜美まで息を切らすなんて、相当な運動量だな。
姉さんはなんだか恐ろしい形相だったが、千冬と日菜美に関しては、先ほどの紫雨君に負けないほどに顔を赤くしていた。
──あ……。
そういえば、俺、全裸だ。
二人が紅潮した理由は明らかだった。
《次回27話 やっぱり俺はチョロくない》
「あの……どっちから先に……脱ぐ?」
「あ、恥ずかしいの?」
「いやその……うん」
可愛い奴だ。
中性的な見た目でそんな可愛いことを言われれば、たとえ相手が男子だったとしてもキュンとしてしまう。
俺は紫雨君が緊張している隣で、ゆっくりとTシャツを脱ぎ始めた。
帰宅部とはいえ、筋トレは欠かさず行っているし、朝から必ずプロテインを摂取している。俺の肉体はイケメン君に見せても恥ずかしいものではない。
一方、紫雨君はなかなか服に手をかけなかった。
「やっぱり別々に入る?」
気を遣って提案してみる。
だが、紫雨君の反応はない。
俺の鍛え抜かれた上半身を凝視すると、顔を赤くして反対方向に視線を送る。やっぱり彼はゲイなのかもしれない。
とはいえ、俺と一緒に風呂に入ることに怖気づいたのなら、黙って脱衣所から逃亡すればいい。
そうしないということは、そんなに気にしなくてもいいってことだろう。
俺は短パンに手をかけ、いよいよパンツ一丁になる。
一方で隣のイケメンは完全装備。戦ったら圧倒的に俺の方が不利だな。
そしてついに、パンツに手をかけた。
***
「はぁ? 白水くんが実は女!?」
女子部屋にひとりのブラコンの声が響き渡った。
最初は驚愕の表情だったが、それも次第に暗殺者の冷徹な表情に変わっていく。今まですっかり騙されていたことへの怒りだ。
「紫雨は特殊な性癖を持ってて、男子って思われるのが嬉しいらしくて──」
千冬が詳細を話していく。
当然ながら、教師である松丸天は紫雨の性別が女であることを知っている。
しかし、紫雨があえて自分を男子として接するように頼んだのだ。
紫雨は男子と思われることに達成感を感じるという性癖の持ち主であるだけだったが、天はそれを面白がった。
そしてわざと、紫雨を男子部屋にしたのだ。
「あの教師……殺す」
そう唸ったのはもちろん、ブラザーコンプレックスの夏凛だ。
天と紫雨への猛烈な殺意が彼女の中で蠢いている。
夏凛もすっかり紫雨=男だと勘違いしていた。弟の秋空からは男子部員であると紹介されていたことや、見た目が中性的であることもその理由のひとつになるだろう。
「やっぱり」
日菜美は紫雨の勝ち誇ったような笑みを見て気づいた。
秋空と同じく、紫雨を千冬の彼氏だと思って男扱いしていたわけだが、秋空を見つめる瞳が明らかに女子のものであることに気がついてしまったのだ。
「今すぐ部屋に突撃しよう」
夏凛の狂気に満ちた声で、考える暇もなく男子部屋へと足が動く。
何も知らない哀れでアホな秋空は、今頃紫雨を男だと思って楽しく会話でもしているんだろうか。
夏凛はそう考えるたび、紫雨への殺意が増していくことに気づいた。
「いない……秋くん?」
「夏凛様、もしかして、お風呂?」
「お風呂!? 秋くんとお風呂に入れるのはお姉ちゃんだけだからね!」
「夏凛様って、ショジョですか?」
「当たり前でしょ! 私の貞操は秋くんのものだからっ!」
秩序のない会話をして、3人で仲良く風呂場に走る。
女子の浴場ではなく、男子の浴場へ、だ。
***
「秋空くん」
俺が全部服を脱ぎ終わり、全裸になった頃。
上も下も、まだ1枚も脱いでない紫雨君がやっと口を開いた。
「キミは鈍感なの?」
「え、いきなりどうした?」
「この状況でも、本気で気づかないの? それとも、気づかないふりをしてるだけ?」
──気づく?
紫雨君の指摘を聞いて、俺はハッと気づいた。
やっぱり紫雨君はゲイだったのだ。
「実は……もしかしたらそうかもしれないと思ってた」
「……流石に気づ──」
「──紫雨君って、ゲイなんだね」
「え!?」
俺の一言に、肩を大きく跳ねさせて驚く紫雨君。
やっぱり少しダイレクトな言い方になってしまった。こういう繊細な話は、もう少し丁寧な前置きをしてするべきなのだ。
「ごめん、俺は別にそういうの認めてるっていうか、別に多様性のひとつとしてアリだと思ってる。あ、でも俺はゲイじゃなくてストレートなんだけど」
「んー」
紫雨君は涙目で俺を見ていた。
俺の下半身には一切視線を送らず、顔を直視してきている。
まあ、もう下半身を覆うものはないわけだし、そりゃそうか。
「やっぱり鈍感なんだ、秋空くんは。千冬にはヤンデレ気質があるけど、キミには鈍感気質があるんだね」
俺は自分が鈍感だと思ったことはないし、言われたこともない。
ちなみに、俺はラノベの鈍感系主人公が苦手だ。
だからヒロインからの好意にちゃんと気づいている『勇者学園の異端児は強者ムーブをかましたい』の主人公、西園寺オスカーがお気に入りである。
やっぱり作者のエース皇命は最高だ。
「秋空くん、これを見たら気づいてくれるかな」
紫雨君はどこか諦めたような表情をして、Tシャツに手をかけた。
ようやく脱ぎ始めるらしい。
俺はもうすでに全裸だからなんだか気まずい。
紫雨君のお腹が見える。
細くて、艶のあるお腹だ。
同じ男子のものとは思えない。
「秋くぅぅぅぅぅううううん!!」
その時、脱衣所の扉が勢いよく開放された。
聞き覚えのある叫び声が耳を襲う。
紫雨君が脱衣を中断して振り返った。姉さんの声でだいたいの状況は察しているだろうけど。
姉さんの隣には千冬と日菜美もいた。
急いで駆けつけたのか、少し息を切らしている。日菜美まで息を切らすなんて、相当な運動量だな。
姉さんはなんだか恐ろしい形相だったが、千冬と日菜美に関しては、先ほどの紫雨君に負けないほどに顔を赤くしていた。
──あ……。
そういえば、俺、全裸だ。
二人が紅潮した理由は明らかだった。
《次回27話 やっぱり俺はチョロくない》
30
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
どうしてもモテない俺に天使が降りてきた件について
塀流 通留
青春
ラブコメな青春に憧れる高校生――茂手太陽(もて たいよう)。
好きな女の子と過ごす楽しい青春を送るため、彼はひたすら努力を繰り返したのだが――モテなかった。
それはもうモテなかった。
何をどうやってもモテなかった。
呪われてるんじゃないかというくらいモテなかった。
そんな青春負け組説濃厚な彼の元に、ボクッ娘美少女天使が現れて――
モテない高校生とボクッ娘天使が送る青春ラブコメ……に見せかけた何か!?
最後の最後のどんでん返しであなたは知るだろう。
これはラブコメじゃない!――と
<追記>
本作品は私がデビュー前に書いた新人賞投稿策を改訂したものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる