19 / 27
19 放課後の呼び出しはこりごりだ
しおりを挟む
心がもやもやするのを感じた。
いざ爽やか系イケメンの存在を確認すると、あの時の浮気現場の記憶が鮮明によみがえったのだ。
手を繋いでいたわけじゃない。
肩を寄せ合い、恋人のような距離感で歩いていた。
その時は当然千冬の彼氏は俺だったため、かなり衝撃的で落ち込んだのを覚えている。その夜は睡眠の質がグンと落ち、翌日の目覚めも悪かった。
「あれ? どっか行った」
壮一は相変わらず呑気な奴だ。
「もうすぐ読書タイムだし、教室に帰ったんだろ」
「だったら何の用があってここに来たと思うよ? もしかして、おれに告白するため、とか?」
「ほざけ。貴様の存在など知られてたまるか」
真一の当たりが凄く悪い。
とはいえ言われる方の壮一は世界上位クラスのアホなので、何を言われても脳に響かない。言葉を理解する、という工程を忘れてしまっている。
突然の来客に注目する俺たちに対して、龍治は帝王学の啓発本を読んで新たな知識を会得していた。
この差は何か。
そんなことを考えていたら、チャイムが鳴った。
これからいつも通り10分間の読書タイムがあり、必ず遅刻する松丸先生によるホームルームがその後に始まる。
木曜日という憂鬱さに侵されながら席に着く生徒たちの姿はなかなか悲しいものだ。
そこに、本当にギリギリで千冬が入ってきた。
いつもより1分20秒くらいは早い到着だ。
今日朝から何か……。
爽やか系イケメンとの、密会……。
「あら、この時間に来たらみんな読書してるのね。龍治君は何の本読んでるのかしら?」
今度は担任が来た。
松丸先生が読書タイム中に現れることは初めてだ。
案の定、生徒の読書の邪魔をしている。
その対象が龍治だったのは幸か不幸か。いや、不幸だな。
「松丸先生、読書タイム中は私語禁止だと入学のしおりに書いてあります。無論、教師が生徒に語りかけるのも私語とみなされます」
「入学のしおり? そんなのあった?」
「はい、この学校で生き抜いていく上で、最も重要なことが書かれたサバイバル書です」
龍治の中での入学のしおりへの信頼感が凄い。
聖書主義ならぬ、入学のしおり主義。
「あー……そんなのがあったような気もするけど……それがどうかした?」
「しおりの13ページに書いてある内容です。この学校の教師なら、朝礼の際に必ず暗唱されられているはずではないですか?」
それはもはや洗脳だ。
「それなら、これはどう? 教師が読書タイム中に生徒に話しかけたら、必ず3秒以内に答えるっていうのは」
「入学のしおりには書いていません。この世界は入学のしおりに書いてあることが全てです」
そうなのか。
初めて知った。
「入学のしおりに書いてないこともあるんじゃない? たとえば、男女交際についてだけど──」
「15ページに具体例付きで掲載されています。男女は清き交際を心がけるべし、と」
「でも、それだと清きの基準がわからないと思うの。そうでしょ? だからそれはクラスの担任である私が決めます」
「いえ、失礼ですが、松丸先生は自由に世界のルールを変えられるような地位をお持ちですか?」
相当失礼です。
しかも、何言ってるのかわかりません。
それに加え、たかが佐世保という小さな地域にある、小さな公立高校のルールが全世界に勢力を拡大したとも思えない。
「世界はちょっと言い過ぎよ、龍治君。でも、あなたの凝り固まった心は変えてあげられるかも。私がとろとろにしてあ・げ・る」
ちょっとキモいのでやめてほしい。
またチャイムが鳴った。
今度は読書タイムの終焉を知らせる音だ。
龍治はさっきのことなんてなかったかのように、本を閉じて号令をかける。
「起立!」
松丸先生VS龍治の熱い討論に耳を傾けていたクラスメイトたちが一斉に立ち上がる。
龍治は切り替えが早い。
世界レベルで早いので、世界大会があったら出てもらいたいところだ。世界切り替え選手権──うん、悪くない。
ホームルームは上機嫌の松丸先生の挨拶と共に始まった。
あの異常者が上機嫌ということは、放課後になるまでの間に俺が何かしら不幸なことを体験するということでもある。
「秋空君、放課後職員室に来てちょうだい」
始まった。
いや、終わった。
ホームルームを無難に終え、油断していたところで声をかけられた。
他の生徒は1時間目の数学の準備をしている。
今日は定期テスト前の単元テストがあるため、必死にノートを見ている生徒が多かった。
「何かあるんですか?」
「部活のことで、少しお話があります」
「昨日はちゃんと部活しましたよ」
「別に疑ってるわけじゃないのよ。休日について、少し確認したいことがあって」
「休日は休日なので、帰宅部は活動しなくてもいいんじゃないですか?」
ここで、松丸先生が大きな溜め息をついた。
溜め息をつきたいのはこっちの方だ。
自分の帰宅部の価値観を押し付けてこないでほしい。
「私が目指してるのはお遊びの帰宅部じゃないのよ、秋空君。本気で帰宅を頑張りたいっていう人が入る部活なの、ここは」
確かに俺は帰宅に対して本気だ。
「帰宅が上手になるためには練習が必要なのよ? ラクをして帰宅の技術を高めよう、なんて甘い考えは許しません。いいかしら?」
俺は自分に甘えていた。
松丸先生の言葉は、帰宅に対して少しでも不誠実な考えを持った俺の気持ちを奮い立たせる。
「あなたのお姉さんとも話したのだけど、インターハイを本気で目指してるそうよ。だったら部長のあなたも、もっと頑張らないと」
部長として恥ずかしい。
副部長の姉さんには、インターハイという高い目標があるのに……。
「だから私が顧問の帰宅部では、休日も1日中練習するから覚悟していてちょうだい。その件で、放課後に真剣な話があるの」
「先生……」
松丸先生の熱い想いに、心打たれ──るはずがない。
帰宅部にインターハイなんてない。
帰宅の練習って何だ? 帰宅は家に帰ることであって、それ以上でもそれ以下でもない。
よって、そこに技術なんてない。
「先生、今の話で気持ちが変わりました。放課後は職員室に寄ることさえ惜しいです。だからすぐに帰宅して、帰宅の技術を高めていきたいと思います」
《次回20話 姉とのデートで恋人ムーブ》
いざ爽やか系イケメンの存在を確認すると、あの時の浮気現場の記憶が鮮明によみがえったのだ。
手を繋いでいたわけじゃない。
肩を寄せ合い、恋人のような距離感で歩いていた。
その時は当然千冬の彼氏は俺だったため、かなり衝撃的で落ち込んだのを覚えている。その夜は睡眠の質がグンと落ち、翌日の目覚めも悪かった。
「あれ? どっか行った」
壮一は相変わらず呑気な奴だ。
「もうすぐ読書タイムだし、教室に帰ったんだろ」
「だったら何の用があってここに来たと思うよ? もしかして、おれに告白するため、とか?」
「ほざけ。貴様の存在など知られてたまるか」
真一の当たりが凄く悪い。
とはいえ言われる方の壮一は世界上位クラスのアホなので、何を言われても脳に響かない。言葉を理解する、という工程を忘れてしまっている。
突然の来客に注目する俺たちに対して、龍治は帝王学の啓発本を読んで新たな知識を会得していた。
この差は何か。
そんなことを考えていたら、チャイムが鳴った。
これからいつも通り10分間の読書タイムがあり、必ず遅刻する松丸先生によるホームルームがその後に始まる。
木曜日という憂鬱さに侵されながら席に着く生徒たちの姿はなかなか悲しいものだ。
そこに、本当にギリギリで千冬が入ってきた。
いつもより1分20秒くらいは早い到着だ。
今日朝から何か……。
爽やか系イケメンとの、密会……。
「あら、この時間に来たらみんな読書してるのね。龍治君は何の本読んでるのかしら?」
今度は担任が来た。
松丸先生が読書タイム中に現れることは初めてだ。
案の定、生徒の読書の邪魔をしている。
その対象が龍治だったのは幸か不幸か。いや、不幸だな。
「松丸先生、読書タイム中は私語禁止だと入学のしおりに書いてあります。無論、教師が生徒に語りかけるのも私語とみなされます」
「入学のしおり? そんなのあった?」
「はい、この学校で生き抜いていく上で、最も重要なことが書かれたサバイバル書です」
龍治の中での入学のしおりへの信頼感が凄い。
聖書主義ならぬ、入学のしおり主義。
「あー……そんなのがあったような気もするけど……それがどうかした?」
「しおりの13ページに書いてある内容です。この学校の教師なら、朝礼の際に必ず暗唱されられているはずではないですか?」
それはもはや洗脳だ。
「それなら、これはどう? 教師が読書タイム中に生徒に話しかけたら、必ず3秒以内に答えるっていうのは」
「入学のしおりには書いていません。この世界は入学のしおりに書いてあることが全てです」
そうなのか。
初めて知った。
「入学のしおりに書いてないこともあるんじゃない? たとえば、男女交際についてだけど──」
「15ページに具体例付きで掲載されています。男女は清き交際を心がけるべし、と」
「でも、それだと清きの基準がわからないと思うの。そうでしょ? だからそれはクラスの担任である私が決めます」
「いえ、失礼ですが、松丸先生は自由に世界のルールを変えられるような地位をお持ちですか?」
相当失礼です。
しかも、何言ってるのかわかりません。
それに加え、たかが佐世保という小さな地域にある、小さな公立高校のルールが全世界に勢力を拡大したとも思えない。
「世界はちょっと言い過ぎよ、龍治君。でも、あなたの凝り固まった心は変えてあげられるかも。私がとろとろにしてあ・げ・る」
ちょっとキモいのでやめてほしい。
またチャイムが鳴った。
今度は読書タイムの終焉を知らせる音だ。
龍治はさっきのことなんてなかったかのように、本を閉じて号令をかける。
「起立!」
松丸先生VS龍治の熱い討論に耳を傾けていたクラスメイトたちが一斉に立ち上がる。
龍治は切り替えが早い。
世界レベルで早いので、世界大会があったら出てもらいたいところだ。世界切り替え選手権──うん、悪くない。
ホームルームは上機嫌の松丸先生の挨拶と共に始まった。
あの異常者が上機嫌ということは、放課後になるまでの間に俺が何かしら不幸なことを体験するということでもある。
「秋空君、放課後職員室に来てちょうだい」
始まった。
いや、終わった。
ホームルームを無難に終え、油断していたところで声をかけられた。
他の生徒は1時間目の数学の準備をしている。
今日は定期テスト前の単元テストがあるため、必死にノートを見ている生徒が多かった。
「何かあるんですか?」
「部活のことで、少しお話があります」
「昨日はちゃんと部活しましたよ」
「別に疑ってるわけじゃないのよ。休日について、少し確認したいことがあって」
「休日は休日なので、帰宅部は活動しなくてもいいんじゃないですか?」
ここで、松丸先生が大きな溜め息をついた。
溜め息をつきたいのはこっちの方だ。
自分の帰宅部の価値観を押し付けてこないでほしい。
「私が目指してるのはお遊びの帰宅部じゃないのよ、秋空君。本気で帰宅を頑張りたいっていう人が入る部活なの、ここは」
確かに俺は帰宅に対して本気だ。
「帰宅が上手になるためには練習が必要なのよ? ラクをして帰宅の技術を高めよう、なんて甘い考えは許しません。いいかしら?」
俺は自分に甘えていた。
松丸先生の言葉は、帰宅に対して少しでも不誠実な考えを持った俺の気持ちを奮い立たせる。
「あなたのお姉さんとも話したのだけど、インターハイを本気で目指してるそうよ。だったら部長のあなたも、もっと頑張らないと」
部長として恥ずかしい。
副部長の姉さんには、インターハイという高い目標があるのに……。
「だから私が顧問の帰宅部では、休日も1日中練習するから覚悟していてちょうだい。その件で、放課後に真剣な話があるの」
「先生……」
松丸先生の熱い想いに、心打たれ──るはずがない。
帰宅部にインターハイなんてない。
帰宅の練習って何だ? 帰宅は家に帰ることであって、それ以上でもそれ以下でもない。
よって、そこに技術なんてない。
「先生、今の話で気持ちが変わりました。放課後は職員室に寄ることさえ惜しいです。だからすぐに帰宅して、帰宅の技術を高めていきたいと思います」
《次回20話 姉とのデートで恋人ムーブ》
20
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話
水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。
そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。
凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。
「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」
「気にしない気にしない」
「いや、気にするに決まってるだろ」
ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様)
表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。
小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

モブが公園で泣いていた少女にハンカチを渡したら、なぜか友達になりました~彼女の可愛いところを知っている男子はこの世で俺だけ~
くまたに
青春
冷姫と呼ばれる美少女と友達になった。
初めての異性の友達と、新しいことに沢山挑戦してみることに。
そんな中彼女が見せる幸せそうに笑う表情を知っている男子は、恐らくモブ一人。
冷姫とモブによる砂糖のように甘い日々は誰にもバレることなく隠し通すことができるのか!
カクヨム・小説家になろうでも記載しています!
乙男女じぇねれーしょん
ムラハチ
青春
見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。
小説家になろうは現在休止中。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる