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08 担任がしつこく当ててくる
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3時間目の授業は我らが担任、松丸先生の英語コミュニケーションの授業だ。
松丸先生はイギリスに留学した経験があるらしく、そのおかげか他の英語教師よりずっと英語の発音がいい。
それに、彼女の英語はイギリス訛りだ。
「秋空くん、問3の答え、教えてくれるかしら」
授業では毎回教科書の内容に従ったワークシートが配られ、問題を解くことで読解力を身に付ける。
その際、松丸先生はランダムに生徒を指名して答えさせるのだが、なんだか今日はやけに俺の指名確率が高い気がする。
「また僕ですか?」
「いいじゃない。使い捨てより、ずっと真心込めて使ってくれた方が嬉しいでしょ?」
指名発表にそれを適用しないでくれ。
面倒くさい表情をしながらも、俺は正しい答えを発表する。
英語は得意科目のひとつで、発音には独自のこだわりと自信があった。ちなみに、俺もイギリス英語信仰者だ。
松丸先生とはその点で一致している。
「それにこれは秋空君のためでもあるの。今は精神的に辛い時期だと思うから、いつでも先生に頼ってねっていう暗黙のメッセージ」
「暗黙でも何でもないと思うんですが」
「いいのいいの、そんな細かいことは。だから絶対放課後第3会議室に来てね」
どれだけ俺を会議室に連れ込みたいんだ。
しかも謎に第3会議室て。
第1や第2は会議で使われてるから、とかそういう切実な理由?
「アッキーやるじゃーん。いつの間に松丸先生とイチャつく仲に?」
これはもちろんアホの日本代表、壮一の余計な一言。
「壮一君、私と秋空君は教師と生徒よ。教師が生徒に手を出しません」
「アッキーが卒業して大人になったらどうですか?」
「それは……少し考えて、1回映画に行ってから、ちゃんとお断りします」
あ、俺振られるんだ。
映画に行って1回その気にさせるとか、最低だな。
ちゃんと使い捨てされる自分を哀れむ。
「どんな映画ですか~? てか、先生好きな映画とかあるんすか?」
もう完全に話があっち方向に行っている。
そして、これは日常茶飯だ。
壮一が余計な言葉で先生を余計な道に導く。
これを楽しんでいる生徒がほとんどだが、ハーバード大学を目指す龍治はこれが面白くないようだ。
「松丸先生、今は英語の授業です。映画の話は関係ありません」
「もう、厳しいじゃない。今のは壮一君が悪いのよ」
「あーすみませ~ん。ごめん龍治、許してくれ~い」
絶対反省してない。
このやりとりがあって翌日も繰り返される。
そろそろ龍治がブチ切れてくれることに期待しよう。
「はい。少し話はズレたけど、問題に戻りますね。今度、問5はあき──」
すかさず松丸先生を睨む。
「──じゃなくて……長谷部さん」
まさかの──いや、絶対に意図的な千冬の指名に、クラスメイト全員が注目する。
松丸先生は生徒たちの恋愛事情に詳しい。
自分の学級はもちろんのこと、他クラス、2年生3年生、教師間の恋愛事情といった、学校のあらゆる恋愛に精通している。
この前の授業では、3年生の誰と誰が付き合ってる、なんていう、どうでもいいしほとんどの生徒が興味ないであろう情報を暴露してきた。
そんな松丸先生が、俺の次に千冬を指名した。
もうこれは挑発だ。
「え……あたし……?」
混乱する千冬。
注目はもう彼女だけに集まっている。
ついでに俺にも少しだけ。
「長谷部さん、いいのよ、別に。秋空君は私が放課後に第3会議室で慰めるから、あなたは心配しないでちょうだい」
こいつ、言いやがった。
千冬もだが、この状況での俺の居心地の悪さも想像してほしい。それに、俺は「振られた男」という悲しい認識なのだから、千冬よりも気まずいのだ。
「秋空くんに何する気ですか?」
「それはもう、秋空君が喜ぶこと。何か不都合でもあるの?」
やらしい言い方をするな。
千冬もこの状況で強気なことを……。
「そんなこと、絶対にさせません! あたしが許しません!」
元カノがそんなこと言っても、説得力ないよ。
「あなたは秋空君を振ったんでしょう? だったら、もう秋空君は私のものということになるの。いいかしら?」
ちょっと思想が過激ではなかろうか。
それに、もう千冬が俺を振ったことについて言及してるし。
「ここはアッキーが何とか言ってこの場を沈めた方がいい」
後ろから小声でアドバイスしてくれる真一。
彼も彼で、かなり無責任なことを言ってくる。
でも大丈夫。
俺には龍治という超絶真面目な友人がいるのだ。
「松丸先生、個人的な話は授業の外でしていただけませんか? その際に第3会議室を使われるのはどうでしょう?」
いらん提案はやめろ!
「あら、いいじゃない。長谷部さん、放課後第3会議室に来なさい。ごめんね、秋空君は話が終わるまで部屋の前で待っててくれる?」
俺と千冬は別で呼び出されるんだ。
それが余計に生々しい。
「放課後は用事あること思い出したので、ちょっと今日は無理そうです」
「それなら明日、絶対来てね」
「明日は帰宅部の大会があって。一生第3会議室には行けそうにないです」
俺は勝ち誇った笑みを浮かべて松丸先生を見る。
それが逆効果だったことに気づくのは、そう遅くない。
「そうね、英語のことで話があるの。個人的な話じゃなくて、公的な教師としてのお話が、生徒としての秋空君にあるということです。ということで、明日、絶対に第3会議室に来てね」
「はい……」
これでは帰宅部の大会に出られないではないか。
そう反論するのは控えておいた。
《次回9話 第3会議室に閉じ込められて》
松丸先生はイギリスに留学した経験があるらしく、そのおかげか他の英語教師よりずっと英語の発音がいい。
それに、彼女の英語はイギリス訛りだ。
「秋空くん、問3の答え、教えてくれるかしら」
授業では毎回教科書の内容に従ったワークシートが配られ、問題を解くことで読解力を身に付ける。
その際、松丸先生はランダムに生徒を指名して答えさせるのだが、なんだか今日はやけに俺の指名確率が高い気がする。
「また僕ですか?」
「いいじゃない。使い捨てより、ずっと真心込めて使ってくれた方が嬉しいでしょ?」
指名発表にそれを適用しないでくれ。
面倒くさい表情をしながらも、俺は正しい答えを発表する。
英語は得意科目のひとつで、発音には独自のこだわりと自信があった。ちなみに、俺もイギリス英語信仰者だ。
松丸先生とはその点で一致している。
「それにこれは秋空君のためでもあるの。今は精神的に辛い時期だと思うから、いつでも先生に頼ってねっていう暗黙のメッセージ」
「暗黙でも何でもないと思うんですが」
「いいのいいの、そんな細かいことは。だから絶対放課後第3会議室に来てね」
どれだけ俺を会議室に連れ込みたいんだ。
しかも謎に第3会議室て。
第1や第2は会議で使われてるから、とかそういう切実な理由?
「アッキーやるじゃーん。いつの間に松丸先生とイチャつく仲に?」
これはもちろんアホの日本代表、壮一の余計な一言。
「壮一君、私と秋空君は教師と生徒よ。教師が生徒に手を出しません」
「アッキーが卒業して大人になったらどうですか?」
「それは……少し考えて、1回映画に行ってから、ちゃんとお断りします」
あ、俺振られるんだ。
映画に行って1回その気にさせるとか、最低だな。
ちゃんと使い捨てされる自分を哀れむ。
「どんな映画ですか~? てか、先生好きな映画とかあるんすか?」
もう完全に話があっち方向に行っている。
そして、これは日常茶飯だ。
壮一が余計な言葉で先生を余計な道に導く。
これを楽しんでいる生徒がほとんどだが、ハーバード大学を目指す龍治はこれが面白くないようだ。
「松丸先生、今は英語の授業です。映画の話は関係ありません」
「もう、厳しいじゃない。今のは壮一君が悪いのよ」
「あーすみませ~ん。ごめん龍治、許してくれ~い」
絶対反省してない。
このやりとりがあって翌日も繰り返される。
そろそろ龍治がブチ切れてくれることに期待しよう。
「はい。少し話はズレたけど、問題に戻りますね。今度、問5はあき──」
すかさず松丸先生を睨む。
「──じゃなくて……長谷部さん」
まさかの──いや、絶対に意図的な千冬の指名に、クラスメイト全員が注目する。
松丸先生は生徒たちの恋愛事情に詳しい。
自分の学級はもちろんのこと、他クラス、2年生3年生、教師間の恋愛事情といった、学校のあらゆる恋愛に精通している。
この前の授業では、3年生の誰と誰が付き合ってる、なんていう、どうでもいいしほとんどの生徒が興味ないであろう情報を暴露してきた。
そんな松丸先生が、俺の次に千冬を指名した。
もうこれは挑発だ。
「え……あたし……?」
混乱する千冬。
注目はもう彼女だけに集まっている。
ついでに俺にも少しだけ。
「長谷部さん、いいのよ、別に。秋空君は私が放課後に第3会議室で慰めるから、あなたは心配しないでちょうだい」
こいつ、言いやがった。
千冬もだが、この状況での俺の居心地の悪さも想像してほしい。それに、俺は「振られた男」という悲しい認識なのだから、千冬よりも気まずいのだ。
「秋空くんに何する気ですか?」
「それはもう、秋空君が喜ぶこと。何か不都合でもあるの?」
やらしい言い方をするな。
千冬もこの状況で強気なことを……。
「そんなこと、絶対にさせません! あたしが許しません!」
元カノがそんなこと言っても、説得力ないよ。
「あなたは秋空君を振ったんでしょう? だったら、もう秋空君は私のものということになるの。いいかしら?」
ちょっと思想が過激ではなかろうか。
それに、もう千冬が俺を振ったことについて言及してるし。
「ここはアッキーが何とか言ってこの場を沈めた方がいい」
後ろから小声でアドバイスしてくれる真一。
彼も彼で、かなり無責任なことを言ってくる。
でも大丈夫。
俺には龍治という超絶真面目な友人がいるのだ。
「松丸先生、個人的な話は授業の外でしていただけませんか? その際に第3会議室を使われるのはどうでしょう?」
いらん提案はやめろ!
「あら、いいじゃない。長谷部さん、放課後第3会議室に来なさい。ごめんね、秋空君は話が終わるまで部屋の前で待っててくれる?」
俺と千冬は別で呼び出されるんだ。
それが余計に生々しい。
「放課後は用事あること思い出したので、ちょっと今日は無理そうです」
「それなら明日、絶対来てね」
「明日は帰宅部の大会があって。一生第3会議室には行けそうにないです」
俺は勝ち誇った笑みを浮かべて松丸先生を見る。
それが逆効果だったことに気づくのは、そう遅くない。
「そうね、英語のことで話があるの。個人的な話じゃなくて、公的な教師としてのお話が、生徒としての秋空君にあるということです。ということで、明日、絶対に第3会議室に来てね」
「はい……」
これでは帰宅部の大会に出られないではないか。
そう反論するのは控えておいた。
《次回9話 第3会議室に閉じ込められて》
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