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第19話 ツンデレなのかよ炎ボーイ

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「オーマイガー、まさかのジャックにはデレデレかよ、フロスト」

 夜。
 寮の部屋にて。

 ゲイルに学園図書館での出来事を話していた。
 ブリザードとの会話だ。

「デレデレってわけじゃない。ただ、ブリザードは冷たいわけじゃなかった。俺よりずっと努力して、高みを目指してる」

 罪悪感を感じていた。

 ブレイズもブリザードも、自分の力で、努力で、今の実力を身につけた。
 スキルは限られている。
 そんな中で俺に勝とうと全力だった。

 それなのに俺は、もらったスキルをただ使って1位。

 正々堂々と戦ったのかはわからない。

「なんか悔しいぜ、まったく。おれより先にフロストと仲よくなるってな」

「仲よくなった、とまではいかない」

「でも、普通に会話できたんだろ? おいおい、おれのコミュニケーション能力が打ち砕かれる瞬間かい、ガーン」

「面白がってるだろ」

「まーね」

 そうして、ゲイルは一瞬で寝落ちした。
 相変わらず、寝るのが早いやつだ。それでいて眠りも深い。夜中に騒ぎが起ころうと、ゲイルは朝までぐっすり寝てるだろうな。

 羨ましい。
 昨日こそブレイズとの会話で目が覚醒していて全然眠れなかったが、今日はさすがに眠れると思っていた。

 ブリザードの知らなかった顔。

 ギャップが可愛かった。
 見たらわかる。あの笑顔にキュンとせずにはいられない。

 で、俺を尊敬してくれている。

 ああ、こんなんで寝れるかよ。


 ***


 不眠。
 
 やっぱり寝れなかった。
 頭が正常に働かず、顔の筋肉にはハリがない。目もよく開かない。

 光と影の区別くらいしかできず、最初はベッドから立ち上がることすらできなかった。

「オーマイガー、ジャック! 死んでるぞ! 先生に言って休んだ方がいいんじゃね?」

 ゲイルの声はかなり本気だった。
 いつものジョークっぽい感じが薄れ、少しばかり動揺がみられる。

「いや……大丈夫だ」

「やば」

 ゲイルにはそのあとも、これでもかと心配された。

 鏡で顔を確認したが、確かに寝不足って顔だ。ゲイルのはさすがにオーバーリアクションだったものの、見ただけで睡眠不足だとわかるだけの顔ではあった。

 はぁ。
 はぁ。

 頭の中でも出てくるのはため息だけか。

「部屋にいろって。おれが先生に伝えるから。な? ふらふらだぞ、お前」

「いや……だいじょーぶ」

「やっば」

 心配されるのは好きじゃない。
 俺は無理やり部屋を出て、朝食を取りに食堂まで行った。

 朝食はどんな生徒も基本は友達と一緒だ。
 クラスごとにテーブルは指定されているが、クラス内だったら誰と食べてもいい。

「ジャック、大丈夫か?」

 普段はひとりで静かに食べているブリザード。
 俺の今回の睡眠不足の原因でもある男。

 まさか、俺の隣に座ってくるとは。

 これには他のクラスメイトも口をポカンと開けて驚いていた。
 ちなみに右側の方の隣に座っているゲイルはクスクス笑っている。心配してくれているんじゃないのか?

 面白がってるだろ、ゲイル!

「ああ……俺は大丈夫」

 ぼんやりとしかブリザードの顔がわからなかった。
 眠すぎて、疲れすぎて、もう何がなんだか。

「もしや……きみは夜遅くまで勉強に励んでいるというのか……やはりぼくの努力はまだまだか」

 ん?
 また勘違いされてる。

 それを訂正する元気はなかった。

「おい、実力者ども」

 ……。

 もっと驚くことが起きた。
 ブレイズが俺の前の席に座ってきたんだ。

 今日はどんな日だ!?

 いや、なんて日だ!

「何じろじろ見てんだ! あ? おいジャック! おめぇ顔死んでるぞ」

 あれ?
 ブレイズが俺を「ジャック」って呼んだか? いつも「無能」とか「クズ」とかしか呼ばれないからまた驚いた。

 睡眠不足のときに混乱するようなことを言われると、思考は完全停止してしまう。

「彼は寝不足だ。夜遅くまで努力を重ねていた。それに対しぼくは、のんきに寝ていたとは……」

「んだ寝不足だと? おい──おめぇもだ。おめぇもオレのライバルだからな! ライバルどうしで仲よく飯食ってるんじゃねー!」

「オーマイガー、炎ボーイ、お前も今まさに仲よく飯を食おうとしてる的な!?」

「うるせぇ」

 ブレイズはそう言いながらも、俺の目の前の席で焦げた肉をかじっている。
 きっと自分で焦がしたんだろうな。

 ちなみに、いつもブレイズと一緒にご飯を食べている人はいない。

 まあ、彼が好んで「お友達」と一緒に「行動する」ことはない。
 が、今日はどうしてここまで来た?

 プラス、ブリザードも。

「意外とツンデレか、炎ボーイ。素直になってくれていいんだぜ! 『ぼくと一緒にご飯食べない? お願いします』って言ってくれてもいいんだぜ!」

 ゲイルの残りの朝食は、焦げて灰となった。
 目に涙を浮かべ、消えた朝食を懐かしんでいる。あのときは楽しかったね、とでも言い始めそうだ。

 ぐっすり寝ないとこの眠気は取れそうにないが、このゲイルの様子は笑うしかなかった。

 ブリザードの目元だって、少し笑っている。

 テスト前、こんな状況を誰が予想しただろう?
 仲よくなった、とは言えないかもしれない。だが朝食を一緒に食べているとは、思ってもみなかった。


 ***


「テストではよい結果を出せた者、出せなかった者──このクラスにその両極の存在が同居している。よいか、今回はまだ始まりだ。スタートダッシュを切れなかった者にも挽回のチャンスはいくらでもある」

 朝のホームルームが始まった。
 担任のブレイン・イーグルアイ先生はいつも以上に気合いが入っている。

 クラス全体としても、今回のテストの成績は期待以上だったらしい。

 相変わらず眠たいが、少し脳も動いてきた気がする。

吾輩わがはいの目で見ても、テストが終わったからといって気を緩めている愚か者はいないようだ。それには感心した。よって、本日より早速、ベストウォーリアートーナメントの準備を始めてもらおう」
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