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第10話 冷たいライバルとクラスの光

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 第3位のヴィーナス・エレガントは推薦入学者のひとり。
 その名の通り優雅で美人な生徒だ。

 剣術に優れていて、今回の剣術の試験も上位に入るだろうと思っていた。

 予想通り。
 確かに彼女の戦いはエレガントだった。

「嬉しゅうございますわ、タイフーン先生」

 数名の男子生徒が興奮して叫んでいる。
 そう、エレガントには熱狂的なファンがいた。俺はファンじゃないが、彼女の美しさには他を圧倒する何かがある。リリーが女神だとすれば、エレガントは美しさそのもの。
 そんな感じだ。

「美しい! 優雅だよ! 華やかだよ! ぼくちゃん感激だよ!」

 クラス屈指の変態であるエロス・ランドが叫ぶ。
 エロスはエレガントだけじゃなく、他のどんな女子生徒にも手を出そうとしている。呆れるやつだ。

 他にもエレガントに骨を抜かしているやつがいるが、それはしかたない。

 俺でもよろけるほどの魅力だ。

「確かに美人だけどなー、おれには心に決めた人がいるもんで」

 ゲイルが呟く。

「誰だ?」

「オーマイガー、マーリーンだって。お前知らなかったのかよ、おい」

 意外だった。
 ゲイルは女子に興味がないと思っていた。
 
「さあ、次は第2位の発表だ! 心の準備はできてるかい?」

 タイフーン先生が楽しそうに言う。
 3位の称賛をする時間はなかった。

「第2位はフロスト・ブリザード! クールな戦い方が効いたねぇ、ボクには!」

 これもまた推薦入学者だ。

 ブレイズの戦いを冷たい目で見ていた人物。
 氷の男──フロスト・ブリザード。

 今まで話したことはない。

 というか、ブリザードは誰とも関わろうとしないし、友達が欲しいなんて少しも思っていなさそうだ。
 教室では、自分の席で静かに読書している。
 ちらっと確認できた紫色の表紙には、「沈黙の書」と書いてあった。

 ブリザードは表情を変えない。
 だが明らかに満足していなさそうだ。

「ブリザードって、クールでかっこいいけど何考えてるかわかんないよね」

「そうそう、顔はいいんだけどさ」

「あいつ、苦手」

 ひそひそとした囁き声が聞こえてくる。
 俺にも聞こえているということは、本人にも聞こえているっていうことだ。

 エロスはそれに便乗しながら「ぼくちゃんはどうだよ? 最高の男だよ!」と女子に言い回っている。

 ちなみに、これもまたゲイルはすごい。

 基本は軽蔑した冷たい目でクラスメイトを見るブリザード。話しかけても無視されるのが当然だ。
 だが、ゲイルだけは反応が返ってくる。

 まあ、それもひとことだけにはなるが。

 ブリザードとの目が合った。
 初めてだ。

 その冷たさ、その威厳。

 他の生徒とは違う。

 ブレイズのように燃える目じゃない。
 そういうライバル視じゃない。

 冷たいライバル視だ。
 目の奥まで貫かれる鋭い視線。そこに熱なんてない。自分の熱をも奪っていくかのよう。

「盛り上がってきた! さーて、ここから第1位の発表だ! これはみんなもわかってるだろ! 第1位はジャック・ストロングくんさ!」

 クラスメイトから歓声が上がった。
 これには納得してくれているらしい。

 確かに俺の戦いは圧倒的だったからな。

 実際、俺の他にタイフーン先生を負かした生徒はいなかった。いや……ブリザードもだ。
 俺とブリザードだけが、先生に勝った。

「くぅー。おれ、知ってたぜ! ジャックは今まで実力を隠して──うっ」

 何か言ってはいけないことまで言ってしまいそうな勢いだったので、肘でゲイルの腹を殴った。
 もちろん、軽く。

 しばらくゲイルは何も言わなくなった。

「圧倒的だったよ、ジャックくん。ボクがいきなりスキルを使っても、動揺せずにすぐ攻撃を繰り出してきたからね。やられた」

「ジャックの実力はこんなもんじゃないんだぜ!」

 またクラスメイトたちからの拍手。
 俺の立場が真逆に変わった瞬間だった。

「素晴らしい戦いだったよ、ジャック。僕は先生の急な攻撃に対応できなかったからね」

 笑顔で話しかけてきたのは宿敵ルミナスだ。
 本性を隠している、俺に火をつけた男。

 何が「素晴らしい戦いだったよ」だ? 俺だけが見ているその目の奥は、まったく笑っていない。

 俺は頷いただけで返答はしなかった。

「ジャックくん、すごかった! 今度あたしに剣術教えてくれない?」

 次に話しかけてきたのはクラスの明るい光でもある、ハローちゃんだ。
 フルネームはハロー・スパークルなんだが、本人は「ハローちゃん」と言われたいらしく、クラス公式呼び名がハローちゃんになっている。

 金髪ショートヘアで、目も金。
 
 積極的で誰にでもがつがつ話しかける。
 俺もそんな感じで話しかけられることはあったが、尊敬されるような眼差しで見つめられ、剣術を教えてくれないかと頼まれたことはない。

 他の生徒にも何かを教えてくれと頼む生徒ではなかった。
 そもそも、彼女は優等生だからだ。

 ふと右にふわふわしたものを感じた。

「ジャックくん、リリーにも剣術教えてくれる?」

「……わかった」

 断る理由はない。
 だが、問題は別にある。

 たとえば──。

「なんだよ! ちょっと強かったからって、女子にモテてるんじゃないよ! ぼくちゃんも剣術教えるよ!」

 女好きエロス。
 背は赤ちゃんかというくらいに低く、豊かな体型。デブとまではいかないが、ぽっちゃりという感じか。ベビーフェイスで髪の毛もちゅるちゅるパーマ。

 まさにギリシャ神話に出てくる愛の神エロスだ。

「いや、俺はただ──」

「言い争いはそこまで! まだ試験はあるんだ、みんな! 次の魔術基礎の実技はボクじゃないから、もっと気を引き締めることを勧めよう!」

 タイフーン先生のおかげで、エロスとの会話は終わった。
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