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色街の聖女×少年吸血鬼
03
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『降り立った』ねえ……。
明らかに正式な入国をしていない言い方が非常に気になるが、それよりも、彼が倒れた原因を知るのが先だ。
「ということは……君が倒れていたのって、空腹で行き倒れてた、ってことでいいの?」
「は、はっきり言うな! ま、まあ、その……否定はしない、が……」
周りに、攻撃性の高い人外がいなかった、ということが知れれば十分だ。重ねて「じゃあ別に攻撃された、とか、そういうわけじゃないんだ?」と聞けば、「だからはっきり言うな!」と、顔を赤くして怒鳴られた。
まあ、この分じゃ、人外はいないんだろうな。
早急に対処しなくても良さそうで、一安心だ。
顔を赤くして、照れたり怒ったり忙しかった少年だが、唐突に、落ち込んだような様子を見せる。
「ボク、ここで飢え死ぬのか……」
しょんぼりと、分かりやすく落ち込む少年。
まあ、まだ客を取っていない見習いや、水揚げ前の子を探せば処女だとは思うが、そういう子は、基本的に客の前に姿を表さない。しかも、下手に傷を残すと商品価値が下がるので、血を分けてやってくれ、と言ったところで、店主が良しとしないだろう。
なんだか可哀想になってきてしまった。
「……わたし、一応処女だけど。娼婦でも遊女でもないから」
そう言うと、少年がバッと顔を上げて、わたしを見る。ぎらつく目は、『少年』という年にはかなり不釣り合いなものだった。
「でも、吸血鬼って聖女の血を飲んでも平気なの? あ、わたし、一応この国の聖女なんだけどさ」
一応、なんて言って見たけれど、この国には聖女はわたしだけなので、まぎれもなく聖女、というのが正しいのだが。ただ、島国で入国審査が厳しいこともあり、人外退治をすることが少ない。
それに、建造物で島が埋まっており、【黒】が発生しやすいという森林等はほとんどない。
だから、【黒】の浄化もあまりしたことがなく、実質、人を癒すことくらいしかしないので、他の国の聖女と比べて、聖女歴に対して経験がとぼしい。
なので、胸を張って聖女、というのはちょっと抵抗があるのだ。ましてや、明らかに他国の出身である者の前では。
「聖女の血は飲んだことないが……大丈夫、なんじゃないか? 少なくとも、ボクは吸血鬼が嗜好の問題以外で飲めない――飲まない血の話は聞いたことがない」
「……君、いくつ?」
「歳か? 百を超えたあたりから数えていない」
結構長く生きている吸血鬼なんだな……。そんな彼が聞いたことない、というのなら、まあ、飲んでもいい……のかな?
「指先を切って血を出すから、ちょっとぺろっと舐めてみる? 駄目そうなら、残念だけど諦める、ってことで」
わたし自身は人外の退治に特化した聖女じゃない。ということは、仮に吸血鬼に聖女の血が駄目だったとしても、少し飲んで即死、ということにはならないだろう。……多分。
聖女の血がそこまでの劇物なら、流石に吸血鬼の間でも話題になるだろう。
わたしは机の引き出しからハサミを取り出し、ちょっとだけ切る。
「ほら、どうそ。……ちょっとだけ、試しにちょっとだけ、だからね」
死なれても困る、と思いながら、わたしは少年に指を差し出した。
明らかに正式な入国をしていない言い方が非常に気になるが、それよりも、彼が倒れた原因を知るのが先だ。
「ということは……君が倒れていたのって、空腹で行き倒れてた、ってことでいいの?」
「は、はっきり言うな! ま、まあ、その……否定はしない、が……」
周りに、攻撃性の高い人外がいなかった、ということが知れれば十分だ。重ねて「じゃあ別に攻撃された、とか、そういうわけじゃないんだ?」と聞けば、「だからはっきり言うな!」と、顔を赤くして怒鳴られた。
まあ、この分じゃ、人外はいないんだろうな。
早急に対処しなくても良さそうで、一安心だ。
顔を赤くして、照れたり怒ったり忙しかった少年だが、唐突に、落ち込んだような様子を見せる。
「ボク、ここで飢え死ぬのか……」
しょんぼりと、分かりやすく落ち込む少年。
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なんだか可哀想になってきてしまった。
「……わたし、一応処女だけど。娼婦でも遊女でもないから」
そう言うと、少年がバッと顔を上げて、わたしを見る。ぎらつく目は、『少年』という年にはかなり不釣り合いなものだった。
「でも、吸血鬼って聖女の血を飲んでも平気なの? あ、わたし、一応この国の聖女なんだけどさ」
一応、なんて言って見たけれど、この国には聖女はわたしだけなので、まぎれもなく聖女、というのが正しいのだが。ただ、島国で入国審査が厳しいこともあり、人外退治をすることが少ない。
それに、建造物で島が埋まっており、【黒】が発生しやすいという森林等はほとんどない。
だから、【黒】の浄化もあまりしたことがなく、実質、人を癒すことくらいしかしないので、他の国の聖女と比べて、聖女歴に対して経験がとぼしい。
なので、胸を張って聖女、というのはちょっと抵抗があるのだ。ましてや、明らかに他国の出身である者の前では。
「聖女の血は飲んだことないが……大丈夫、なんじゃないか? 少なくとも、ボクは吸血鬼が嗜好の問題以外で飲めない――飲まない血の話は聞いたことがない」
「……君、いくつ?」
「歳か? 百を超えたあたりから数えていない」
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「指先を切って血を出すから、ちょっとぺろっと舐めてみる? 駄目そうなら、残念だけど諦める、ってことで」
わたし自身は人外の退治に特化した聖女じゃない。ということは、仮に吸血鬼に聖女の血が駄目だったとしても、少し飲んで即死、ということにはならないだろう。……多分。
聖女の血がそこまでの劇物なら、流石に吸血鬼の間でも話題になるだろう。
わたしは机の引き出しからハサミを取り出し、ちょっとだけ切る。
「ほら、どうそ。……ちょっとだけ、試しにちょっとだけ、だからね」
死なれても困る、と思いながら、わたしは少年に指を差し出した。
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