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205 王城へ(2)

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<陛下が……何かなさるかもしれないと……?>

『わからぬ。まったくわからないのだ。俺の言動が——騎士のままでいたいことや、お前を俺の騏驥にしていたいという俺の言動が、どういう結果になってしまうのかが……まったく……。だからどうしても最悪のことを考えてしまう。特に今のお前は何かあったとしても声を出せぬ状態だ……』

 レイゾンは言うと、白羽の手をぎゅっと握った。

『だから……怖くなる。俺一人のことなら——自分のことならなにも恐れないのだがな。お前に何かあるかもと思うと……心配に心配が重なってしまうようだ』

<……大丈夫です……>

 温かな手に包まれながら、白羽は言った。

<おそらく……大丈夫です。もし陛下が酷く機嫌を損ねられたとしても……>

 あの場所にいれば、すぐに危険になることはないはずだ。
 
 普通の衛兵や官吏は霊廟に近づくこともできないし、王も来ることはないだろうから。
 可能かどうかだけでいえば、彼は現王でありティエンの血縁でもあるから、もちろん霊廟の結界を越えることはできる。けれど、そうできるほどの胆力はない。

 だから少なくとも時間を稼ぐことはできる。すぐにどうこうされるわけでなければ、レイゾンが不安になっているようなことは起こらないはずだ。

 大丈夫です——と白羽が繰り返すと、レイゾンは白羽をじっと見つめ、『わかった』と頷いた。

『城のことはお前の方が詳しいのだし、そこまで言うということは、身の安全が保障される算段があるのだろう。……一緒に城に行こう』


 ◇


 そして——今だ。

 結局、レイゾンが白羽がどこへ行くつもりなのか知っているのかどうかはわからない。その後も訊かれることはなく、こうして城へ向かっている。

(わたしの方から言うのを待っているのだろうか……)

 揺れる車の中、隣に座るレイゾンをそっと見ながら白羽は思う。
 だが「そうかもしれない」と思っていても、白羽は口にできなかった。





「では……俺は報告に行ってくる」

 車を降りる白羽に手を貸してくれると、先に降りていたレイゾンはさっぱりとした表情で言った。
 人事を尽くして……という心境なのだろうか。
 上手くいってほしい、と白羽は祈るようにレイゾンを見つめる。と、そんな白羽の視界の端に、一人の騎士の姿が映った。
 
(?)

 小柄で、かなりの年配に見える。レイゾンの到着を待っていた様子だが、気配がまるで感じられなかった。
 隙のない佇まいは騎士のようだが、一体どういう人なのだろうかと思っていると、

「マルモア卿だ」

 白羽の視線に気づいたレイゾンが言う。

「今回の任務は俺にとっても初めてのことで、だから御前での報告も初めてだ。その際に陛下に失礼があってはその後の話に影響が出そうだと思って、昨日騎士会で報告を終えた後に城への同行をお願いしたのだ」

<…………>

 なるほど……と、白羽は再び騎士を見る。失礼にならないように、そっと。
 まさかレイゾンが同行を頼んでいた騎士がいたとは思わなかったので、少し驚いたが(しかも白羽が全く知らない騎士だ)、確かに、言われてみれば卿は騎士としての経験を重ねた雰囲気がある。
 そして同時に、貴族らしい雰囲気が。

<そうだったのですね。そこまでお考えだったなんて……>

「それだけ、この勝負にかけている。……屋敷に戻る時も、共に戻ろう」

<はい……>

 深く——深く頷くと、白羽はレイゾンの手をぎゅっと握る。
 離れ難い思いをこらえて、一礼してその場を去る。
 去り際、マルモア卿にも礼をすると、その老騎士は軽く頷く。年を重ねたその貌は、微かに笑ったようにも見えた。



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