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【番外】離宮へ(25) *性的な描写があります*

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 はっと見ると、苦笑を浮かべた彼が、こつん、と額を合わせてきた。

「……待てとおっしゃるならいつまででも待つ気でおりますが……あまり焦らされると、いざことに及んだ際に歯止めが効かなくなってしまいますよ?」

 そして吹き込まれる情欲を含んだ低い声音に、ぞくりと背筋が慄く。
 一旦はおさまった気がしていた熱が——身体の奥に潜んでいた熱が、一気に煽られた。
 いつもは誰よりも従順で、シィンを主人として尊ぶダンジァが、ふとした時に自分にだけ見せる騏驥としての激しさ。——恋人としての貌。
 鼓動の音が聞こえてしまいそうだ。誤魔化すように、僅かに身じろいだ。
 
「……焦らしている……つもりでは……」

「そうですか?」

「わ、わたしだって時間が惜しい。だから午後までのわずかな間に、こうして、お前と——」

「はい。二人きりの時間を作っていただけて嬉しく思っています」

「…………」

「ではもう——我慢せずこの数日の思いの丈をお伝えしても?」

「ん……ぅ、んんっ……!」

 声がしたかと思うと、息まで奪おうとするかのような激しさで口付けられた。
 全身をまさぐるようにして撫で回される音に混じって、ダンジァの切なげな声が届く。

「時間が惜しいのは自分も同じです。しかもこんなに滑らかな——美しい身体を晒しておかれながら、いつまでも話をやめて下さらないとは」

「だっ……ん、ん、んんっ——」

「シィンさまのお声が素晴らしいことは、今更申し上げるまでもないこととはいえ……できるなら、それはルゥイさまにまつわる話ではなく違う形でお聞きしたく存じます。少なくとも——今は」

「ァ……あ、ぁ、あッ——」

 ついつい逃げるように仰け反ってしまった首筋に、噛み付くように口づけられる。
 いや——もしかしたら本当に歯を立てられたかもしれない。触れられたところがジンジンと熱い。
 跡になっているかもしれない。
 跡をつけられたかもしれない。
 彼に——。
 ただ一人の彼に。

「ァ——!」

 想像しただけでますます昂った身体の、次第に芯を持ちつつあるその中心をきゅっと握られ、高い声が溢れる。
 と同時に大きく腰が跳ねた。
 普段なら、ダンジァはこんな性急な真似はしない。もっとゆっくりとゆっくりと——それこそシィンが焦れて耐えられなくなって羞恥も忘れて懇願するまでたっぷりと時間をかけて愛してくれる。身体の隅々まで。髪から爪先まで余すところなく。
 まるで焦らすかのように全身に触れ、口づけ、そしてようやく性器に触れてくるのだ。待ち焦がれて堪らなくなって身悶えするシィンを、蕩けるような瞳で見つめてきながら。

 それなのに、今は彼らしくなく忙しない。
 いつもと同じように愛しむように触れてくるけれど、それは変わらないけれど、余裕がないのが見てとれる。
 息遣いが荒い。触れる肌が熱い。
 彼もすでに猛っているのだと気づくのに、さほど時間はかからなかった。

「ダ……ン……っ……」

「シィンさま……」

「ダン……ぁ……っ——」

「シィンさま……シィンさま——申し訳ありません……。なんだか自分で思っていたよりも、ずっと——」

 貴方を、求めていたようです。

 熱い息と共に耳元でそう告げられ、ますますシィンの頬が火照る。
 のしかかってきていた重みがふっと軽くなり、肌が離れる感覚に寂しさを覚えたのは一瞬。くるりと身体を返されたかと思うと、寝台に突っ伏す格好にさせられた。
 直後、双丘の間に冷たい液体が垂らされる。覚えのある香りだ。行為の際に好んで使う香油。その甘い香りは「この後」の快感を否応なく思い起こさせる。

「……少し腰を上げてください」

 期待に酔ったようにぼうっとし始めたシィンの耳に、ダンジァの掠れた声が吹き込まれる。魔法にかけられたように、言われるままゆるゆると腰を上げると、香油に濡れた尻を優しく幾度か撫でられた後、そのあわいにそっと指が挿し入ってきた。

「ぁ……」

 くちゅっ……と濡れた音に混じってシィンの声が部屋に溢れた。
 急いていても、ダンジァは相変わらず優しい。シィンの柔らかな部分が傷つくことのないように、細心の注意を払って触れてくる。
 それでも、背後から覆い被さるように抱きしめてくる腕や、聞こえる息音、背中に触れる肌から——伝わってくる心音から彼の欲望が伝わってくる。

「ぁ……ぁ、ァ……ぅん、っ——」

 長い指で身体の中を探られるたび、快感と興奮にあられもない声が漏れる。
 気持ちの良さを感じるたび、自分がどれほど彼を求めていたのかを思い知る。
 シィンは夜具に突っ伏したまま赤面した。
 いったいいつの間に、自分はこんなに貪欲になったのだろう……?

「は……っぁ、あ、あァ……ッ」

「シィンさま——お苦しくはございませんか」

 首筋に口付けが降る。その合間に尋ねられ、シィンは首を振る。髪を乱して首を振りながら、

「……苦しぃ……」

 と、息を求めて喘ぐように言った。
 途端、腰に絡むダンジァの腕が、びく、と震える。
 シィンは引き止めるようにそれを掴むと、再び、いやいやをするように頭を振った。

「ずっ、と……苦しい……。お前といると……お前に口付けられると……触れられると……ずっと、胸が苦しぃ……っ」

「シィンさま……」

「頭がくらくらして苦しい……身体がずっと熱くて苦しい……気持ちが良くて……どうすればいいのかわからなくて……」

 苦しい——と重ねようとした声はダンジァの唇に攫われた。

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