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121 彼はわたしの永遠の一番で、二番目は永久に現れない *性的な描写があります*

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 シィンは小さく頷くと、もぞもぞと服を探り、見つけた符を一つ、二つと弾いて周囲に飛ばしておく。簡易だがこれで結界がわりになるはずだ。
 シィンがほっと息をつくと、ダンジァが微笑んだ。

「ありがとうございます。本来なら、貴い御方をこのような場所で……と思うのですが……」

 幸せで、我慢ができません。

 いくらか気まずそうに言うダンジァに、シィンはクスリと笑った。
 普段の、落ち着いていて生真面目な彼とは違う一面。それが嬉しい。

「お前もわがままということだな」

 そう言い返すと、ダンジァはさっきのことを思い出したのだろう。大きく苦笑する。
 そんな彼に、「構わぬ」とシィンは言った。

「構わぬ……他でもないお前だ。それに……考えてみればわたしとお前が睦み合うには似合いの場所であろう。天の星と地の星と草の香りと……わたしの愛するものばかりだ」

「シィン様……」

「わたしを、心地よくしてくれるのであろう、ダンジァ」

 するすると頬を撫で、見つめて言う。と、ダンジァは「はい」と視線で深く頷いた。

「シィン様にはいつも十分に慈しんでいただいております。ですので……閨では自分が」

「ん」

 シィンが微笑むと、その唇に唇が触れる。
 最初はそっと——しかし次第にその接吻は深さを増し、熱を増し、濃さを増していく。

「は……ぁ……」

 ちゅ……ちゅ……と濡れた音が漏れる合間、シィンは込み上げてくる幸福感に甘く喘ぐ。しっとりと柔らかな唇が、舌に絡む舌の弾力と熱さが心地いい。ダンジァの重みが、香りが、触れてくる肌の感触が。

「シィン様……」

 纏っていた衣を解かれ、滑り込んできた大きな手に素肌を幾度も撫でられる。
 気づけば、彼も半裸だ。シィンの肌のあちこちに、ダンジァの肌が直接触れる。
 耳を掠めるダンジァの声は熱っぽく、シィンの欲はそのたび音もなく煽られていく。

「ダンジァ……ダン……ん……」

 そしてまた、深く口付けられる。淫らな水音がした。
 挿し入れられた舌に舌を舐られ、甘く歯を立てられ、その度、ゾクゾクとした震えが背筋を駆け上っていく。上顎の凹んだ箇所をなぞられると、その擽ったいようなむずむずするような言葉にならない快感に、大きく腰が跳ねた。

「ぁ……ふぁ……」

「シィン様……なんと可愛らしい……」

「ダンジ……ァ……」

 口付けだけで、快感に目が潤む。滲む視界に映る男の名を呼ぶと、シィンの口の端から溢れた涎を舐め取った彼が、目を細めて見つめ返してきた。

「愛しています……シィン様」

 その目は、その声は、溢れんばかりの情熱と愛情を湛えている。心そのものが露わになったような双眸、そして声音。彼の全部。
 ——伝わってくる。

 シィンは目の奥が熱くなるのを感じていた。

 それは、シィンが求めて止まないものだった。

 与えられて、初めて気づく。
 自分は誰かに、こんな風に愛されたかったのだ、と。
 
 王子だからではなく、ただこの身体一つを、ただこのわたしを、そのまままるごと——認められ、受け入れられ、愛されたかったのだ、と。

「ダンジァ……ダンジァ……わたしも……お前を……」

 ——愛している。

 シィンはぎゅっとダンジァを抱きしめる。
 細めのシィンとは違う、逞しい身体。人であり馬である騏驥。愛しい男。

 一番好きな、愛しい男。
 
 一番——。
 けれどその一番は永遠で、二番目など永久に現れない。
 ——特別なたった一人。

「ダンジァ——」

 自分の——彼の肩や腕に絡む衣がもどかしい。二人を隔てるものが憎らしい。
 シィンはダンジァに「脱げ」と命じ、自身もまた性急な手つきで脱ぎ捨てる。
 生まれたままの姿で抱きつくと、ダンジァは苦笑しつつも笑顔で抱きしめてくれる。触れた肌同士が吸い付くようだ。

「……気持ちがいい」

 うっとりと息を溢してシィンが言うと、ダンジァも同じように熱い息を零す。

 あなたのものはわたしのものでわたしのものはあなたのもの——。

 言葉にしなくとも、身体がそう告げ合っているかのようだ。

「ぁ……」

 吐息を交わし合っていた唇が、シィンの唇から頬に移り、顎に触れ、耳殻から首筋に流れ落ちていく。
 羽でなぞられているかのような優しい口づけ。けれど時折、戯れのように薄い皮膚にそっと歯を立てられ、その刺激にびくりと身体が震える。

「ん……ぅ……ん……」

 鎖骨——胸元——脇腹——臍——。

 ダンジァの指と唇は、シィンの身体を余すところなくなぞり、辿り、触れ、撫でては擽り、その度、シィンに新たな快感を教え込んでいく。

「ぁ……ぁ、あぁ……っ——」

「お綺麗です……シィン様のお身体は……どこもみな——全部——」

 囁きと共に肌に触れる吐息にまで感じてしまう。
 彼に全て見られているのだと思うと、今更ながらに恥ずかしくなるのに、そんな羞恥まで快楽の呼び水になってしまうのだから、もうどうしようもない。

「ダンジァ……ダン……ダ……あァッ——」

 彼の唇が、忙しなく上下しているシィンの胸の、その小さな突起に触れる。途端、シィンの唇から一際高い声が迸った。
 痺れるような快感が、身体の奥まで突き抜けていく。
 唇で、舌でそこを弄られ捏ねられるたび、身体の中心に熱が集まっていく。

「ダン……ぁ……そこ、は……ァ……」

「ここは——お好きですか?」

「っ……わ、から、な……知らな、ァ……っ」

 上擦る声でなんとか応じていた途中、反対側の乳首も指先で捩るようにして弄られ、もうまともに喋れなくなってしまう。
 好きかなんて、わからない。ただただ気持ちがいい。ただただ気持ちがいいだけだ。彼に触れられるところが全部。彼に口付けられているところが全部。

「ァ……あァ……ッ——」

 舌先で転がされていた乳首をチュゥ……ッと強く吸い上げられ、嬌声と共に大きく背が撓る。そこがどうしてこんなに気持ちがいいのかわからない。わからないけど気持ちが良くて、身体はぐんぐん熱くなる。
 
 腰が、我知らず揺れてしまう。
 既に形を変えてしまっている性器を、ダンジァの身体に擦り付けるように腰が揺れてしまう。自分の欲望を彼に知られることは恥ずかしくて堪らないのに、そう思っていても止められない。

「は……ん、ゃ……っぁ……ダンジァ……っ……」

 堪えきれず、ねだるような声をあげると、ダンジァの手がシィンの昂りに触れる。
 胸元を舌と唇で弄られたまま、あやすように性器をゆるゆると扱かれ、感じやすい箇所への同時の刺激に頭の中がぐちゃぐちゃになる。

「ぁ……ひぁ……ァ、や、あ、あァッ——」

 舌足らずな、言葉にならない声が止まらない。淫らで恥ずかしい声が止まらない。
 堪えたくても堪えられず、思わず手の甲で口元を抑える。が、それはすぐさまダンジァの手に取り去られてしまった。

「ぁんっ——」

「いけません、シィン様。御手に傷がつきましょう」

「っで……で、も……声……っ声、が……っ」

「聞かせてください。可愛らしくて——魅力的な御声です」

「そ……んぅ……」

「聞かせていただかねば、シィン様のご様子が分かりません。……どうか」

 丁寧な声。丁寧な言葉。けれどシィンの手を掴む手は熱っぽく強い。
 有無を言わさぬ力。騏驥の、圧倒的な。
 普段の彼は抑えに抑えているその獣の本性が、今は抑えられずその気配を覗かせていると思うと、落差にゾクゾクする。
 自分がいつもと違ってしまっているように、彼もまた……と思うと、求めあう気持ちの強さを改めて感じられるようだ。

 とはいえ……やはり声は恥ずかしい。
 どうしていいのかわからず、シィンがいやいやをするように頭を振ると、掴まれていた手がゆっくりとダンジァの首筋に回される。次いで、もう一方の腕も。

「では、抱きついていて下さい」

 耳元で囁かれた。情欲に掠れた声の、甘い命令。


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