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【番外】騎士と騏驥の旅(了) *有*
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「ぁ……ぅ……」
ゆっくりゆっくりと挿し入ってきたものの、その大きさと圧迫感はいつも通りのかなりのもので、リィは身体の中身が押し上げられるような苦しさから何とか逃れようと切れ切れに声を零す。
「大丈夫?」
「ん……っ……」
大丈夫——ではない。
苦しい。
けれどその苦しさも心地いい。
胡坐をかいて座るルーランに向かい合って座るような格好で貫かれながら、リィは快感と苦しさに震える指でルーランの腕をきつく掴む。
抱きしめられると、身体中に彼の鼓動が伝わってくる。首筋にかかる息はしっとりと湿り、彼もまた昂っているのだとわかる。それが——嬉しい。
「ぁ……っん……」
深く埋められ、ぴったりと身体が重なったように感じられるとそれだけで胸の奥がぞくぞくとさざめく。彼と繋がっていると——彼の一部が、自分の中にあると思うだけで。
「……場所が場所だから、俺が乗っかると背中痛いかと思ってあんたに乗っかってもらったけど……膝、痛くない……?」
ゆるゆるとリィの身体を揺らしながら、ルーランが尋ねてくる。
「ん……平気……だ……」
「ホント? いつもみたいな快適な寝台じゃないけど」
「いい……そんなの……お前がいる、から……」
どんなに素晴らしい寝床でも彼がいないのならそこは冷たく寂しい場所だし、山の中でも彼がいるならそこは素晴らしい場所なのだ。愛しい相手と寄り添う以上に心地よい場所などないのだから。
リィが応えると、その体奥のルーランの熱の塊が一層大きくなった気がする。
張り詰めたそれはリィの身体が異物に馴染むのを待つと、徐々にその動きを活発にしていく。
「っん……っ……」
「気持ちいい?」
「ん……」
「俺もすごく気持ちいいよ。あんたの身体、温かくてすべすべしててつるつるしてて……ホント気持ちいい」
「ぁ……っ」
言いながら首筋に軽く歯を立てられ、その疼くような刺激にリィは背を撓らせる。
ルーランの動きがまだ激しくないためか、快感はじれったいほどゆるゆると充填されていく。中途半端に乱された衣が手足に纏いつくのがもどかしい。けれどそんなもどかしさにすら劣情を煽られる。
「髪も良い匂い。あんたの髪、つやつやで大好きなんだよね……」
胸元に回された手で乳首を弄られながらそんなことを言われ、リィは真っ赤になりながら抵抗するように頭を振る。
繋がっている部分と、先刻からずっと弄られている乳首と、時折ルーランの吐息を感じる首筋と。無防備に彼に明け渡しているところを執拗に——丹念に愛撫され、頭の中がぼうっとしてくる。
気付けば、より深い快感を求めて腰を揺らしてしまう。
そんな自分の淫らさにますます赤面していると、
「かーわいい」
笑い交じりのルーランの声がした。うなじに、ちゅっと口づけられた。
「もっと動いてよ。それとも——俺が動く方がいい? 待ちきれない?」
「っ……」
「中が熱くなって、俺の締め付けてきてるもんね」
「っそ……んなことしてなぃ……っ……」
「いいのいいの。わかってるって。あんたは恥ずかしがり屋だけど身体は正直だもんな」
「……!」
リィは一瞬で耳まで真っ赤になる。
そんな顔までじっと見つめられて、リィは羞恥に目元を染めながらルーランを睨んだ。
「あ、んまり、見るな」
「ん? なんで?」
「恥ずかしい、から」
「そう? あんたのどこもに恥ずかしがるようなところなんてないけどな」
「それでもだ……っ」
「でも見たいし」
「っ……見るな……!」
「それは難しいなぁ」
「ぁ……っ、ル……ラン……っ……!」
声とともにグン、と突き上げられ、その衝撃に大きく背中が撓る。
そのまま立て続けに激しく抜き挿しされ、リィは必死にルーランにしがみついた。そうしていないと、次々と打ち寄せてくる快感に一気に攫われてしまいそうになる。
散々焦らされていた身体は与えられる刺激に容易く応え、それどころかもっともっととねだるように蠢いてしまう。ルーランが抽送を繰り返すたび、リィもまた体奥の肉の感触を味わうように腰を揺らしてしまうのを止められない。
「あ……っゃ……っ」
「彼は、あんたの顔、見ながらするの……好きだけどな……」
「っあ……っ」
「俺として、気持ちよさそうな顔になってんの、見るの、凄い嬉しいし……っ——」
「ぁぁあッ——」
腰を抱き寄せられ、一際深く埋められ、高い声が零れた。
慌てて口元を押さえたけれど、手遅れだ。
頭がくらくらする。熱くて——気持ちが良くて——彼のことが好きで堪らなくて——。
「あんたも、俺の顔見るの、好きだろ」
「っ……」
「好きだろ?」
「そん……っ……」
「正直に言えって。どうせ俺しか聞いてないんだし」
「ア——あっ——」
揺さぶられながら繰り返し尋ねられ、リィは首まで赤くなりながらとうとう幾度も頷いた。
好きだ。こうしてくっついて彼を身近に感じられることが。彼と混じりあっていると感じられることが。
彼といることが。
彼がいることが。
——彼が。
彼がもし——もし何か隠し事をしているとしても、きっとずっと好きでいる。
彼がもし——もし何かを誤魔化そうとしてるとしても、きっと好きなままでいる。
彼がもし——自分の知らない”なにか”だとしても、きっと——。
きっと、また好きになる。
「き……好き……っ」
「ん……」
「好き、だ……ルーラン……っ」
「うん……俺も——俺も大好き。好きだよ——リィ——」
「ル……ぁ……あ、ゃ……あァっ——」
「愛してる——リィ——俺の——」
「ゃ……ル……奥、ぁ……だめ——ぇ……」
「ダメじゃないよ。あんたのここ——もっと欲しがってる」
「や……ひぁ……っ」
「言ってよ……もっと欲しい、って——」
「ぁア——っ」
背が軋むほどに強く抱きしめられ、猛った熱を叩きこまれる。
それまでのゆるやかな交歓は嘘のように激しく求められ、突き上げられるたびに、頭の芯まで痺れるようだ。目の奥がチカチカして、喘ぐばかりで呼吸もままならない。
なのに——まだ欲しい。
「ル……ラン……っ」
「ん」
「ル……ぁ……欲し、ぃ……っ……」
「うん——」
「もっと——もっ……奥まで……っ——」
言い終えるより早く唇を塞がれ息ごと声を奪われる。
口づけが深くなるごとに繋がりも深さを増し、絡み合う舌がより互いを求めるほどに抱擁も強さを増していく。
「ん、んんっ……ッぁンっ」
「声——恥ずかしいんだろ。だからずっと口づけてようぜ」
「ん……っん、ん、んぅ……ぁふ……っ……」
粘膜が擦れ合うあられもない水音が耳を掠めるたび、その淫らさに身体の内外から犯されているような感覚になる。張り詰めた性器をルーランの腹に擦り付けるのが止められない。苦しいのに口づけをやめたくない。恥ずかしいと思っていても、より深くより濃密な快感をねだるのを止められない。
奥まで何度暴かれても、もっと奥へ——もっと奥へと欲しがるのを止められない。
「ぁ、あ、アあッ——」
リィが求めればルーランは応じ、彼が動くたび肉壁が悦びにさざめき、身体の奥で熱がうねるのがわかる。
欲望が、解放を求めて暴れているのがわかる。
リィはルーランにしがみつくと、いやいやをするように頭を振った。
もっともっと気持ちよくなりたい。もっともっと。
もっと彼が欲しい。彼が自分になってしまうまで。自分が彼になってしまうまで。
——溶けあいたい。
終わりたくない。
離れたくない。
どうして。
どうして離れなければならないんだろう。
こんなに好きなのに。
こんなに好き合っているのに。
「ル……ラン……っ……」
「ん……っ」
「ルーラン……っ、好きだ……」
好き——。
まるで口に出さなければ胸がいっぱいになって破裂してしまうかのように、リィは繰り返しその言葉を紡ぐ。なぜか零れた涙を、ルーランの唇が優しく掬ってくれる。
強く——そして包むように抱きしめられ、愛してる、と吐息のような囁きを聞きながら、リィは快感の波の中に素直に身を投げ出していった。
◇
疲れたのか、達した後もぐったりとしたままのリィの身体を拭いたり舐めたりして綺麗にしてやると、ルーランはリィが気にしていた火へと視線を向ける。目配せすると、消えかけていた炎が再び燃え上がり、徐々に程よい加減に収まる。
それを確認して、ふん、と鼻を鳴らすと、ルーランは馬の姿に変わった。
そしてゆっくりとリィの側に近づき、脚をたたんで座り身を寄せると、予想通り、リィはむにゃむにゃと寝ぼけたような声を上げながらくっついてきた。
「……ルーラン……?」
<……気にしないで寝ろよ。こっちの姿なら、もし何かあったときでもあんたのことを護ってやれるからな>
「……?? ルーラ……きもちいい……」
会話になっていない。
ルーランは馬の姿のまま思わず頬を綻ばせる。
(子供みたいだな)
しかも、脱げかけた衣なんていつもの彼なら絶対に嫌がるだろうに、今のリィはルーランの毛並みが気持ちいいのか、むしろ露わになっている肌を摺り寄せてくる。
(人の姿の時と全然違うんだよなァ……)
ルーランは喜んでいいのか悪いのか判断しかねたものの、リィの好きなようにさせておく。いずれにせよ、彼に抱きつかれて悪い気はしないからだ。
するとほどなく、リィは、ごろりと横たわったルーランを抱きしめるような格好で、お腹に頬を寄せるようにして眠り始める。
「おまえ……暖か、ぃ……ふわふわして……毛が……暖かで……お前の心臓の、音……んん……」
言葉になっていない寝言。無防備だ。
だが無防備さでいえばルーランも同様だった。寝転んで腹を見せるなんて——他のヤツには絶対にしない。もっとも、それを言えば別の誰かの騏驥になること自体が”ありえない”のだけれど。
だから。
<余計なことは思い出さなくていいんだよ、リィ>
考えなくていい。
それは、俺の役目。
俺が考えて、今度こそなんとかする。
そう胸に誓いながらじっとリィの寝顔を見つめていると、その瞼がぴくりと震え、微かに上がる。
「…………ルーラン……お前は……寝ないのか……?」
<言ったろ。俺は寝なくても大丈夫なんだよ>
「ん……」
<だから安心して寝ろよ。火も大丈夫だか……>
「……ルーラン……」
<ん?>
「守って、やるからな……」
<!?>
その声に、ルーランは瞠目した。
寝言だ。きっと意味なんかない。けれどその言葉は胸の奥まで届き、そこを震わせる。
<リ……>
戸惑いつつ声をかけようとして——ルーランは止める。リィは再び小さく寝息を立てていたからだ。
(…………心臓に悪いなあ……)
ルーランは苦笑すると、心臓近くに感じるリィの温もりに浸る。
明日——王都に戻れば旅は終わる。次にまた二人で出かけられるのはいつになることか……。
父親を探しに出かけては、がっかりするリィの顔を見るのは正直辛いけれど、二人だけになれる時間は嬉しく貴重だ。
緩やかで規則正しいリィの寝息を気持ちよく聞きながら、ルーランは思う。
このまま。
このままずっと一緒にいられればいい。
ずっと。
何も変わらず。
何も考えず。
何も思い出さず。
一緒にいられれば、それでいい。
<俺は、それでいい……>
ずっと一緒にいて。
そしてときに二人で旅して。
またこうして山の中で寝るのもいいし今度は水辺だっていい。もちろんどこかの宿屋だって。二人なら、なんだって。
そうしてまた王都に戻って、ずっと一緒に過ごすのだ。
騎士と騏驥として。ずっと。
笑い合って、時に喧嘩をしても仲直りしてまた笑って——。
今度こそ——ずっと。
<……おやすみ、リィ。いい夢を>
囁くと、心地よさそうに寄りかかって眠るリィを見つめる。
彼にとっての特別を。
彼にとっての唯一を。
ルーランは朝までずっと、見つめ続けた。
END
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