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【番外】二人で紡ぐ未来 *有*
しおりを挟む「年の変わり目って、あんたは何かするの」
すぐ側から優しく尋ねてくる声が聞こえ、リィは閉じていた瞼をふっと上げた。
眠っていたわけじゃない。ただ、愛しい相手と甘い時間を過ごした気だるさは心地よく、ついついそれに浸り切っていた。
こんな風に肌を触れ合わせ、他人の腕を枕にして胸の中に包まれるようにして眠ることが、こんなに心地いいものだったとは……。
リィは、彼と過ごすようになるまで知らなかった。
視線の先のルーランは、目を細めてリィを見ている。
さっきまでは燃えるような情熱と欲を宿していた瞳が、今は穏やかなそれに変わっている。どちらの彼も、とても魅力的なのだけれど。
ずっとリィの髪を撫でている手もそうだ。少し前までは散々にリィを翻弄して泣かせてくれた。
そして息もできなくなるぐらい、きつく抱き締められて……。
思い出すと、頰がじわりと熱くなるようだ。
リィが頼んだために部屋は極力暗くされている。
いつもの朝の調教を終えてから、そのままここに——目下のルーラン私室である「館」の一室に入り浸ってしまっていることが恥ずかしかったからだ。
まだ明るい時間から、淫らなことをするなんて……と。
それでも、
「明日からしばらく会えないんだし、いいじゃん」
そう彼にねだられると、断れなかった。
(いや……)
本当は違う。ねだられたから、じゃない。
リィはルーランを見つめたまま、小さく熱い息を零す。
離れ難かったのは自分も同じだ。
年の変わり目前後の数日間は、国全体がほぼ休みになる。普段、馬や騏驥の世話をしている厩務員たちも長期の休暇を取る時期だ。厩舎地区も休みになり、騎士が調教に乗ることもなくなる。
騎士学校内の「館」に住んでいるルーランは、今は厩舎地区ではなく騎士学校の調教施設を使っているが、そこも一時閉鎖されるため、やはりリィはルーランと接する機会が薄れるというわけだ。
会おうと思えば会えないこともない。
とはいえ、そんなことをすれば悪目立ちしてしまうから、結局、会うのは控えることになる。
リィはルーランに髪を撫でられたまま、「そうだな……」と少し考えてから言った。
「『何か』というほどのことではないが、部屋の片付けや持ち物の手入れをして、あとは屋敷の皆とお祝いをするかな。毎年のことだ。もう休みをとって帰省している者もいるが、屋敷に残ってくれている者たちには少し豪華な食事と酒を振る舞って、一年の労を労うことにしている」
「へえ……」
「特に世話になっているばあやや、執事をしてくれている爺やとは一緒に食事をする。毎年していることといえば、それぐらいか……」
母の見舞いに行くことは、敢えて言わずにおく。
せっかく二人でいるのだ。話すときに顔を曇らせてしまう話題を口にすることはない。
と、ルーランは「ふうん」というように頷いた。
「結構地味っていうか……落ち着いた年変わりなんだな。もっと人を集めて飲んだり食べたり騒いだりするかと思ってたのに」
「そういう家もある。わたしの家も、昔は……それなりに人も来ていた」
まだ父も母もあの家にいた頃は。
あの頃は、それが当たり前だと思っていた。
騎士の父を慕う親しい人たちが挨拶に訪ねてきては、リィにも優しい言葉をかけてくれた。
お菓子をくれて遊んでくれた。父と母とその友人たちとの暖かく楽しい年変わりの時間だった。
幸せはずっと続くと思っていた。疑いもしなかった。なのに……。
思い出し、気付かぬままぎゅっと身を強張らせてしまった次の瞬間。
ずっと髪を撫でてくれていた手に、そっと抱き寄せられた。
柔らかだけれど強い力。リィは息を呑んでルーランを見つめる。
二人の身体の隙間がより狭くなる。ピッタリくっついていると体温が混じるようだ。手の強さと触れ合う身体の温もり、そして何より気遣ってくれるルーランの心にリィの胸はじんわりと熱くなる。
そんなリィの耳に、間近からルーランの声が届く。
「ま、昔は昔、今は今、だ。来る人もなくて誰かと会う必要もない、ってことは、考えようによってはのんびりできるってことだろ」
「ん……」
「ゆっくりすればいい。……それとも、どうしてもじっとしていたくないなら、俺が何か騒ぎ起こしてやろうか? あんたが出てこないと収まりがつかないような……」
「なっ……」
馬鹿を言うな、と思わずリィが声を上げかけると、ルーランがおかしそうに笑った。
「冗談だよ。そんなに慌てた顔するなって」
「お——お前の場合は冗談が冗談じゃなくなるから怖いんだ」
リィが睨むと、ルーランは小さく肩を竦めるような仕草をする。
その反省していない様子に、リィは「まったく」と唇を尖らせた。
今は少しばかりしおらしくしているこの騏驥だが、決して気性が良いわけではない。それはリィが一番よく知っている。
というか、彼は騏驥らしくない。従順であろうという意思が全くないのだ。
むしろ自分の境遇に抵抗することばかりを考えている。
移り住んできたこの「館」は、それまでいた厩舎地区と違い、他の部屋の住人たちは皆魔術師という特異な場所だ。流石の彼も大人しくしていると思いたいが……。
(どうだかな)
美しい淡い色合いの、幾重もの薄布の帳で囲まれた天蓋付きの大きな寝台の上。
ルーランの腕に抱かれたまま、リィが考えていた時。
「!?」
その唇に、不意に唇が重ねられる。
咄嗟に藻搔いたその身体は、ゆっくりとのしかかってきた身体にすぐに動きを封じられた。
「んっ……」
啄むように重ねられる口付け。
その、焦らすような遊ぶような刺激に、リィはキュッと眉根を寄せる。
「だ……め、だ……」
「ん?」
「今日、は……もぅ……帰らない、と……」
口付けの合間、リィはそれでもじわじわと抵抗しながら声を零す。
だがのしかかってきている身体は退く気配もなく、そして口付けも止む気配がない。
「ルーラン……っ……」
「あと少しだけ。な? あとちょっと——」
「お、前の『少し』や『ちょっと』は、いつも違うじゃないか……っ」
「今度は大丈夫だって」
「それだって、いつも嘘、ばっか……っん……お前の『大丈夫』は、大丈夫じゃな……っんっ——」
言いかけた途端。
それまでは戯れのようだった口付けが、一気に熱を帯びる。
挿し入ってきた舌に口内を舐られ、覚えのある快感にゾクゾクと背が震える。
おさまっていたはずの欲が、じわじわと煽られていく。
今日は何度も身体を重ねて、彼の熱を受け入れて、幾度となく達した。
それなのに——。
自分の中に、まだ彼を求める欲があるのかと思うと、リィは赤面する思いだ。
こうしたことに対しての興味は薄い方だと思っていたのに、どうやらそれは間違いだったようだ。いや、相手によるのだろう。相手がルーランだから、こんなにも煽られて……。
けれど。
「ル……だめ、だ……」
「いいじゃん、少しだけだって」
「ん……んんっ……」
「最後にさ。もう一回だけ」
散々にリィの口内を味わい尽くすと、ルーランはそんなことを言って間近から見つめてくる。
額に額がこつんと触れる。
心地よい重み。温もり。彼の香り。
甘えるような瞳。その一つはリィに捧げられた。今は眼帯に覆われているそこをどうするのか、彼はもう決めたのだろうか。
『あんたのためにはどうするのが一番いいのかな』
自分の身体を治療し、補おうとするときにすら、彼はリィを気にしている。
そんな彼だから、リィが嫌だと言い張れば強引なことはしないだろう。
リィがこのまま帰ると言い張れば、残念な顔をしながらも見送ってくれるに違いない。会えない期間を惜しむ逢瀬の時間としては、もう十分すぎるほど十分に過ごしたはずなのだ。
だから……。
でも……。
「……す……こし、なんて……いや、だ……」
リィはルーランの視線から逃れるようにできる限り俯くと、込み上げてくる羞恥をなんとか堪え、勇気を振り絞るようにして小さな小さな声で言う。ルーランが息を呑んだ気配があった。
「こ、とし……会うのは最後になる、のに……。少し……なんて……」
その瞬間。
「リィ————」
ああもぅ、と、呻くような、困っているような、それでいて堪らなく嬉しそうな声をあげると、ルーランは頬を綻ばせてきつくきつく抱き締めてくる。
恥ずかしさに火照る頬に口付けられ、またぎゅっと抱きしめられる。
息が止まりそうだ。でもとても心地よくて、ずっとこのままがいいとさえ思ってしまう。
だからリィがされるままになっていると、
「大丈夫」
そんなリィの眼前でルーランが目を細めて笑った。
「わかってる。大丈夫。あんたの一番いいようにする。『少し』じゃないけどあんたに無理はさせない。……それでいい?」
「…………」
いい? と尋ねられても、答えなんか返せない。
もちろん嫌なわけはないのだ。けれどさっきの意思表明で、もう勇気は底をついてしまっている。
リィが赤くなったまま俯いていると、
「抵抗しない、ってことは嫌じゃないと思っていいよな」
密やかな甘い囁きが耳殻を撫でる。
リィがぎゅっとルーランにしがみつくと、彼が微笑んだ気配があった。
「お望みのままにいたしましょう」
彼は笑んだまま言うと、優しい手つきでリィの髪を梳き、頬を撫で、額に口付けてくる。まるで、羽根か花弁が舞い落ちるような口付けだ。優しく柔らかい。けれど愛されている想いは確かに胸の奥にまで染み込んでくる。
リィがおずおずと彼の背に腕を回すと、微笑みの形の唇が唇に触れる。
今度の口付けは、さっきのものよりもより「この先」を意識させる口付けだ。濃くて深い。
その違いにゾクゾクさせられる。
上顎の窪みを舌で辿られ、むず痒いような快感に背が震える。舌を舌でなぞられたかと思えば味わうようにして舌先を吸われ、耳の奥で響く淫らな水音にますます情欲を煽られる。
早くも反応の兆しを見せ始めた自身の身体にリィが狼狽していると、そこに、同じように猛り始めているルーランの中心がグイと押し付けられる。
「!」
その熱さに、びくりと腰が跳ねた。はっと見ると「同じ」とルーランが笑う。
「俺と同じようにあんたも興奮してると思うと凄く嬉しい」
そして言いながら、その熱いものをぐいぐいと押し付けてくる。
自身の性器に触れるその肉の生々しさに、リィは耳まで赤くなる。
今日もその前もその前も。何度となくリィを悦ばせ、翻弄した彼の欲望。激しいけれど乱暴ではなく、より深くより深く繋がろうとする様はたまらなく愛しく、どこか可愛らしくもあって……。
リィは、自身の身体に身体を押し付け、ピッタリと合わさるようにきつく抱き締めてくるルーランの頬にそっと触れる。そして、今度は自分から口付けた。
ほとんど触れるだけの、拙い口付け。
それでも、リィの目に映るルーランの顔はとろけるように甘くなる。
美形ながら、普段は人を食ったような表情を浮かべることの多い彼のそんな顔を見せられると、嬉しいような気恥ずかしいような気持ちで、もじもじしてしまう。
彼がこんな風に無防備な様子を見せるなんて、そうそうないだろう。
自分だけが……そう思うと、胸の中が熱くなる。
お返しの口付けが、抱き締めてくる腕が、「嬉しい」と伝えてくる。
溢れるほどの愛情が伝わってくる。
それは愛撫が身体中に移ってからも、そして身体を繋げてからも同じで、ルーランは彼の言葉通りリィに無理をさせることなく、けれど確実に、ゆっくりゆっくりと性感を高めていく。
「っん……ぅ、ん……っ」
身体の、奥深くまで彼がいる。
座っているルーランに向かい合うようにして繋がりながら、リィは身体の中で脈打つものを感じるたび切なく眉を寄せる。
深々と穿たれた肉の楔。
揺さぶられ、軽く突き上げられるたびに腰の奥に熱が溜まっていく。
いろんな風に愛しあったけれど、リィはこうして抱き合うようにしてくっつくのが一番好きだ。顔を見られるのは恥ずかしいけれど、それでもルーランの顔を見ていたい気持ちの方が勝るから。
それに、口付けも何度でもできる。
ルーランの首筋に腕を絡ませ、頬に頬を擦り寄せるようにしてしがみついていると、
「気持ちいい?」
ルーランの掠れた声の囁きが耳朶を撫でる。
リィがこくこく頷くと、その唇にまた唇が触れた。ルーランはいつしかリィの「好き」や「気持ちのいいこと」を知り尽くし、行為のたびにそれを惜しみなく与えてくれる。
溺れそうになるほどの愛情と快感。
口付けながら揺さぶられていると、気持ちよさに頭がぼうっとしてくるようだ。
きつく抱きしめると、ルーランがふっと笑った気配があった。
「俺も、すごく気持ちいい。いつもいいけど……するたび気持ちがいいよ」
「ん……っ」
「今日はいっぱいしたからかな。あんたの中、柔らかくなってる。柔らかいのに締め付けてきて……堪らない」
「ァっ——」
言いながらグンと突き上げられ、大きく背中がしなる。
夢中でルーランの首筋に縋ると、髪の香りと彼の汗の香りが鼻を掠める。それにすら感じてしまって、また身体がびくびく震える。
「ぁ……あ……ぁ、な、か……」
注がれ続ける快感に、理性が侵食されていく。喘ぐようにして息を継ぐと、そのまま言葉が溢れていく。
「なか……気持ち、いぃ……っ」
「ん?」
「わ、たし、の……なか、が……お前の、形、になって……っ……ァッ——!」
その途端、一際激しく突き上げられ、高い嬌声が口をつく。目の奥がチカチカする。立て続けに突き上げられ、なす術なく身悶えていると、
「——っ……まったく……っ……」
食いしばった歯の隙間から漏れるような、ルーランの微かな声がした。
「まったく……あんたはどうしてそう、いきなり……」
「っひ……ァ、ゃ、っ……ぁ……なん、で……」
「『なんで』があるかよ。あんたが煽るようなこと言うからだろ」
「ぁ……や、ん……っ……んっ、おっき、ぃ……っ」
さらには、リィの中で暴れ続けている楔が、どうしてかまた大きさを増す。
その突然の刺激と快感に声を上げると、律動はますます熱を帯びる。
「ゃ……っあ、ゃ……だめ……っゃ……ァ」
「ダメじゃないだろ。気持ちよさそうな顔してる」
「あ、ぁ、ゃ、ん……っ……ぁ……め、らめ、っ、も……」
「我慢しなくていい。気持ちいいなら、そのまま達すればいい。ほら——」
「やっ、ぁ、ぁだめ、だめ、ぁ……あ、ひぁ、ぁっ、あ、あァっ——」
一人だけ先に達するなんて、とリィはいやいやをするように頭を振るが、立て続けの刺激に、身体はすぐに耐えられなくなる。
「ァ……あ、ァ、あ、ゃ……だめ……だめ……ぇ……っぁ、あッ……あぁぁっ——」
次の瞬間、絶頂感が体奥から背筋を突き抜け、リィはルーランにしがみついたまま大きく身体を震わせる。
頭の中が真っ白になるような快感——。
けれどその絶頂に吐精はなく、ただただ、いつまでも続くような長い快感が全身を回り続けている。
「ぁ……あ……」
「出さずに達しちゃった?」
尋ねる声が聞こえる。けれど答えられない。
何が起こったのかわからないまま、ただ気持ちが良くてまだ身体が震えている。
訳もわからず、恥ずかしさに俯くと、その身体をぎゅっと抱き締められた。
「可愛かったよ。恥ずかしがることなんかないのに」
「…………」
「あんたが感じてくれて気持ちよくなってくれるのは、俺はすごく嬉しいんだから」
「…………」
それはわかる。その気持ちもわかるけれど……けれどやはり恥ずかしくてどうすればいいのかわからなくなってしまう。
顔が上げられず、ルーランの首筋にしがみつき俯いたままでいると、宥めるようにその背を幾度も撫でられる。
大きな手でそうされると、性的な快感以上の心地よさにうっとりしてしまう。
「んん……っ……」
リィの唇を探すようにして口付けてきた唇に優しく啄まれ、まだ乱れた息がルーランの湿ったそれに溶けていく。彼の舌も熱い。息も。未だ埋められているものも。
「大丈夫……?」
口付けの合間、気遣うように囁かれ、リィは小さく頷いた。
本当は、大丈夫かどうかわからない。こんなのは初めてだから。けれど大丈夫。構わない。
それでもルーランは不安そうに見つめてくる。だからリィは、ルーランを見つめ返して微笑んだ。
今も身体の中で脈打つものが愛しい。二人を繋ぐものが愛しい。彼の欲望が愛しい。彼が愛しい——。
「だいじょうぶ……続け、て……。お前に、なら……何をされても、構わない、から……」
その途端。
ルーランの膝の上に抱えられていたリィの身体は、繋がったまま寝台の上に押し倒されていた。
「あァっ——!」
そのまま、ほとんど真上から突き刺されるかのように激しく穿たれ、リィの口から嬌声が迸る。
「ぁ……ゃ……ンンッ——」
「あんた……ほんと俺のことめちゃくちゃにしてくれるよな……」
「あ、あ、いァ……ッ、ああァッ——」
「我慢が台無しだ」
「ぁ……ぁん、んぅ、んっ——」
揺さぶられ、抜き挿しされてはまた抉られ、苦しい体勢と受け止められないほどの快感に涙が滲む。その涙さえ、ルーランの唇に奪われた。
涙も汗も声も息も——リィの全ては自分のものだと言わんばかりに、ルーランはリィの全てに触れ、口付け、奪っていく。
与えられて奪われて彼のものが自分になって自分のものが彼になって。混じり合うように溶けて溶け合っていつしか二人の境目さえよく解らなくなる。
「ぁ……ぁ、ふぁ……ァ、あァ……ッ——」
ルーランの首筋に絡めたリィの腕に、「輪」が触れる。騏驥の証。二人を隔てるもの。けれど彼は「騏驥でよかった」と言った。そしてリィもまた似たことを思うのだ。
騏驥でも構わない、と。
こんなに自分を求め、愛してくれるお前なら、たとえ何であっても構わない、と。こんなに愛しく思い、離れ難いと思う相手なら、何であっても構わない、と。
「は……ぁ、あ、ァ……あん、あ、ひァ……っ」
突き込まれるたび快感が全身に散って、抑えが効かなくなる。恥ずかしいと思うのに声が止まらず、それどころかもっと彼を求めるかのように、知らず知らずのうちに彼の腰に足を絡めてしまう。
気づいてリィが慌てて足を降ろそうとすると、
「そのまま」
くす、と笑いながらルーランが囁いた。
「そのまま、もっとくっついて。もっともっと——あんたと一つになりたい」
耳元で囁かれ、そのまま耳朶を舐られ、リィは更なる快感に身悶える。
慄く脚でルーランの腰を挟みそのまま脚を絡めると、それを喜ぶように律動は一層激しくなった。
「ぁ……あ……ァ……ルーラン……っ……ルーラン——」
「リィ……気持ちいい?」
「ン……ッ……ん、ゃ……また……ぅ、ん……ッ」
尋ねられて夢中で頷いた唇が唇で塞がれる。
繋がって、身体の全部で触れ合って。奥に奥に熱を感じさせられ深い結合を思い知らされるたび、込み上げてくる悦びに身体中の肌が粟立つ。
「リィ……っ」
「ぁ……ゃ……また、また……変に、なっちゃ……ぁ……やぁ……っ」
「なってよ、リィ——変に——」
「っ……ルーラ……っぁ……ぁん、ぁ……すき……好き……っ——」
「リィ……好きだ——俺の——」
「ァ……ん、ン、んぅ……ん、んんんッ——」
噛み付くように口付けられ、その激しさに恍惚感さえ覚えながら夢中で応じると、繋がっている部分が歓喜に蠢き、埋められているものをぎゅうと締め付けたのがわかる。
次の瞬間、リィは口付けたまま再び達していた。
きつくルーランを抱きしめ、吐精に身を震わせていると、その体奥に熱い飛沫を感じる。
どちらからともなく離れる唇。けれどそれはまたすぐに重なり、余韻を楽しむように何度も啄み合い味わい合って、ようやく惜しむようにして別れていく。
絶頂の名残の潤んだ目で見つめるリィの眼前で、ルーランが申し訳なさそうに眉を下げた。
「ごめん……少しやりすぎた……かも。大丈夫?」
言いながら、彼は不安そうにリィの髪を梳き上げる。そして汗の浮いた額に口付けると、二度、三度とまた髪を梳き上げ、口付けてくる。
それは謝っているようでもあり、離れることを惜しんでいるようでもあり、何かもっと……神聖な行為のようでもある。
リィはそんなルーランの頭を抱くと、「大丈夫」と微笑んだ。
「大丈夫だ。これでも騎士なのだから。そうそうやわじゃない」
「……本当?」
「ああ」
「じゃあ、年が明けて最初に会う時も、今日みたいにずっとくっついていられるな」
「…………」
上目遣いに期待するような目で見つめられ、リィは無言のままルーランを睨む。
だがルーランは、そんなリィの視線に気付いているのかいないのか(きっと気づいている)、嬉しそうに頬を綻ばせてニヤニヤしている。
彼の頭の中は、早くも数日後に飛んでいるのだろう。
次に会った時にどう過ごすのか何をするのか……。そんなことを考えているに違いない。
リィを悦ばせるようなことを——つまりは口に出せないようなことを。
(まったく)
気が早い上にリィの都合などまるで無視している勝手な騏驥に、リィは胸の中でため息をつく。だがそんな胸の中は温かだ。
リィはルーランの髪に指を挿し入れると、そのしなやかな感触を確かめるようにかき混ぜる。彼はそうされるのが好きなのだ。馬の姿の時も人の姿の時も。
案の定、ルーランは心地良さそうに目を閉じると、ふうっと息をついた。
「気持ちいい。リィは俺を気持ちよくするのが上手い」
そしてしみじみ言うその声に、リィは「お前の方こそ」と胸の中で呟く。
お互いがお互いを心地よくして、思い合っている。それがわかる。だから少しぐらい離れても寂しくない。違う。寂しくても——耐えられる。
すれ違い続けていた時間のことを思えば、数日なんて。
「……年が明ければ、なるべく早く会いに来る。乗りに来る。お前のことだ。休み中も適度に身体を動かすことは怠らないだろうが、その程度では退屈して余計なことをしそうだからな」
「わかってるじゃん。そうだよ。俺に余計なことをさせたくなかったら、早く来ないと」
口の減らない騏驥に苦笑しながらも、リィは「ん」と頷く。
ルーランが顔を上げる。
「約束」
ちゅっと口付けられ、リィはその可愛らしさに目を細めた。ほんのついさっきまでは雄々しく激しくこちらを翻弄していたくせに……。
年を跨ぐ約束があるのはいいなと思いながら、リィが「約束」と口付けを返すと、ルーランは幸せそうに破顔する。
「今年も、来年も……その先もその先も……ずっとずっとあんたのことが好きだよ」
俺はずっとあんたの騏驥で、あんたはずっと俺の騎士なんだ。
微笑んだままそう言うルーランに、リィの胸の中は甘酸っぱさでいっぱいになる。何か言わなければ思うのに言葉が出ない。
「——愛してる、リィ」
年を跨ぐどころじゃない。ずっとずっと——永遠に続く約束。
喩えようもなく甘く真摯な愛の言葉に、リィは「うん」と深く頷くと、
「愛してる」
ルーランを見つめ、同じように真摯に愛を込めて伝える。
今年も、そして次の年もその次もずっと変わらない。
わたしの、唯一の特別な騏驥。
そんなリィの唇に、再びルーランの唇が触れる。
「少しだけ」が少しだけにならないルーランの傍。
繰り返される口付けがようやく本当に今年最後の口付けになったのは、それからまた、しばらく後のことだった。
END
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