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反撃開始

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 用済みカニスを気絶させた後、再び作戦立案タイムになった。

 本当だったら殺してやりたかったんだが、シャイタに説得されて渋々生かしてやることにした。

 感謝しろよな、マジで。

「場所は分かったけど、問題はどうやってカチコミかけるかだよな」

 場所が王都ってのがネックだ。

 恐らくあっちじゃ、俺はお尋ね者orブラックリスト。

 街に入る前に引っ捕らえられてジエンドだ。

 いや、もう信乃には本物だって分かってもらえてるんだから、あいつに証人になってくれれば……って、それじゃあ意味が無い。

 これから潜入する所の人間に証人になって貰うアホがどこにいる。

「ミシルを受け渡す振りをして戦うと言うのはどうだ? それなら堂々と行って怪しまれないだろう」

「そうですねえ。確かにそっちの方が可能性がありそうです」

 ふーむ……少しシミュレーションをしてみよう。

 相対するレオパルドと俺達。

 ミシルを差し出す振りして戦闘開始。

 シャイタの相手はラヴェット。

 俺とミシルは信乃……

「……ダメだ。勝てるビジョンが明確に思い浮かばねえ」

 今の俺じゃ勝算はほぼゼロ。

 今日戦って嫌ってほど理解させられた。

「あの二人以外にも、隊員はいるだろうしな……やはり、厳しいか」

「……つーか、なんでそんなヤバい奴らがいたってのに俺とか信乃は召喚されなきゃいけなかったんだ? 今更腹が立ってきたぜ」

「勇者は民にとって希望の象徴だからな。戦力以上の存在なのだろう」

「希望の象徴ねえ……」

 希望を摘み取った覚えしかないが、そんなことはどうでもいいか。

「千草さん千草さん。もしエテルノが戻ってきたら信乃さんとの勝率はどれくらいまでになりますか?」

「50パーだな」

「いえ、願望では無く本当の確率を教えてくださいよ」

「願望ねえよ! 絶対的な真実だ!」

「真実の確率って矛盾してません?」

 やかましいわ。

「やはり鍵はエテルノが握ってますか……エテルノを取り返せるかどうかで、状況は大きく変わりますね」

 幸いにも、牢屋がどこにあるのかもカニスが率先してゲロったため分かっている。

「アレは、できますか?」

「アレ?」

「はい、ハーゼさんと戦ったとき、心臓貫かれた後すっごい強くなりましたよね? 髪色も全部黒になって、精霊術も乱発してたアレですよ」

「あー、アレな」

 確かに、葬送勇者アロンダイトの力を使えば、勝算は十二分にある。

 だが、

「悪いが、アレはもう使えない。つーか使ったら、こっちが死にかねないんだよ。前に使った時だって、結構ギリギリだったしな」

 アロンダイト本人(本剣?)は元より、アロンダイトの使者とか言うスカした野郎も、あの一件以来とんと音沙汰が無い。

 まあ、恐らくあいつらもあれっきりのつもりだったのかもな。

 もしくは、超絶ピンチになってなきゃ干渉してこないタイプのどちらかだ。

 後者である確率はかなり低い。

 なにせこちとらいつも超絶ピンチだからな、主に家計が。

「ならば、私とミシルの二人で取引に参加するというのはどうだ? その隙に千草がエテルノを救出できれば、目的は達成できるだろう?」

「多分、信乃に見破られるな。俺がいないって時点で怪しさマックスだろうし」

 俺は信乃のどんなことを考えているのか大体理解できる。

 逆もまたしかりだ。

「いっそのこと、エテルノの牢屋の中に転移できねーか? そうすりゃ戦うことなく目標達成だろ」

「そんな都合良く出来るわけないじゃないですか。人を動かす転移魔法は相当魔力を食いますから、一瞬で往復することなんて不可能ですとも。それに、レオパルド程の組織ならジャミングの術式を張っている可能性があります」

「他にも、転移する場所を予め登録しておく必要があるな。そのためには、一度牢屋に出向いく必要がある」

「ぐがが本末転倒かよ……」

 考えれば考えるほど、身動き取れなくなっていく。

 ああ神よ、この俺に知恵を与えたまえ。

 与えてくれたら月イチで思い出したらお祈りするからさ。

「毎度のことながら、千草の宗教観は独特だな」

「ダメですよ千草さん。神ってのは、肝心なときに全然助けてくれませんからね。縋るだけ損ってもんですとも!」

 宗教観と言えば、この二人ってかなり違うよな。

 シャイタはがっつり信じているけど、シャイタはどっちかっつーと無神論者……いや、この世界じゃ神様は実在するんだっけか。

 存在を信じてはいるが、御利益云々は信じてないってところか?

 そこら辺、シャイタはどう思ってるんだろーかと本題とは関係ないことを考えちまうあたり、袋小路に入っちまった感がハンパない。

「千草、信乃はいつもあんな感じだったのか? 会ったのは今日が初めてだったが、少しイメージが違うと思ってな……」

 あー、ナルホド。

 信乃のことは俺がよく話してたからな。

 シャイタはそのギャップが気になってたらしい。

「いや、あんな感じじゃなかったな。俺が知っている信乃はもっと正々堂々っつーか、一撃必殺っつーか。俺にやってたみたいなオーバーキル戦法は殆ど使わなかったよ。余程ブチ切れて無い限りはな」

「そー言えば、千草さんの姿を見てから、いきなり戦闘スタイルが変わってましたとも!」

 やっぱりか。

 ったく、これだから付け焼き刃だってんだ。

「多分信乃は、俺の真似をしてるんだろうな」

 見せつけるようなオーバーキル。

 まるで自分が悪役ですと言わんばかりに。

「問題の本質をずらすために、わざと過激な手段を使うってヤツですか。うわー、いかにも千草さんがやりそうなことですね。キモいですとも!」

「やかましいわ。仕方ねーだろ、大体その方法くらいしか思い浮かばなかったんだ」

 そのことを信乃に咎められたことは何度もあった。

 その度に、さっきの言葉で返していた。

 仕方ないだろ?

 本当にそれしかできない。

 アホみたいな再生能力を持っていても、それで他人をどうこうできるって訳じゃ無い。

 そもそも、その力だって俺のものじゃない。

 仲間には昔から恵まれていると自分でも思う。

 けど、そいつらを守るには、そんな選択をするくらいの力しか持っていなかった。

「つまりアレですか? ようやくやられる側になって、自分の考えがどれだけ歪だってことが理解できた、と?」

「は? ちげーよ」

「あれぇ?」

「でもまあ、痛々しかったってのは事実だな。あんな真似、信乃は出来ない。そこを無理矢理ねじ伏せてやったところで、いずれ限界が来るんだよ」

 この一年でどんな心境の変化があったまでは知らんが、無理をしているのが見え見えだ。

 エテルノを転送したときなんか、顔面蒼白になってたしな。

 らしくない真似するからこーなるんだよボケ。 

「ふむ。つまり千草は、自分が痛めつけられたことはそこまで怒っていないと?」

「いや、アレはアレでムカつく」

  俺に手を上げていいのはシャイタだけだ。

 それだってのに、あそこまでボコボコにしやがって。

 その意図は理解できるが、いくら何でもやりすぎだってーの。

 正々堂々入ってきて、闘いを挑んでくる方がよっぽどしっくりくる……ん?

 俺達にとっての理想のゴールは、ミシルを失わずにエテルノを取り返し、レオパルドに追われることがなくなること。

 そのためのすべを探すことは極めて困難

 どんなに裏をかこうとしても、あちらには俺の思考パターンを理解している信乃がいる。

 だが逆に、裏のかきようのない正々堂々とした策があればどうだ?

 それこそ、アイツがやりそうな奴を。

 今までバラバラだったパズルのピースが次々と埋まっていく感覚があった。

 いけるぞ、これなら……!

「とても楽しそうだな顔をしているな、千草」

「……まあな」

 楽しみと言えば楽しみだ。

 俺の思惑を知った信乃がどんな顔をするか、とかな。

 やってるよ。

 おまえが俺のやり方をするってのなら、

 俺は、おまえのやり方で反撃してやるまでだぜ。
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