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エテルノ救出作戦 Ⅰ

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 目を覚ますと、そこにはシャイタの心配そうな顔があった。

「……良かった、中々目覚めないものだから心配したぞ」

「あ、ああ……」

 頭にもやがかかったみたいで、生返事しかできない。

 どうやらここは、俺の部屋で間違いないみたいだ。

「何が、どうなったんだ……?」

 確か、信乃と戦って、それで……


 エテルノが、攫われた。


「……!」

 何悠長に寝てんだ俺!

 バネ仕掛けの人形のように跳ね起きる。

「どこにいくつもりですか?」

「決まってんだろ。あのバカ助けに行くんだよ」

 頭と腕に包帯を巻いたミシルは、実に小馬鹿にした笑みを浮かべている。

「助ける、ですか? 信乃さんに手も足も出なかったあなたが?」

「……腹立つことしか言わねえな、テメェ」

「人間って自自覚していることを言われる事が一番ムカつくらしいですよ? つまりあなたは、今の自分が信乃さんに敵わないことを理解していることですとも!」

 否定できなかった。

 俺はこれまで、信乃に負けないようにと鍛練を積んでいた。

 だがそれは、一年前の信乃を想定していたものだった。

 バカか俺は。

 あの信乃だぜ?

 一年もありゃ、さらなる高みに到達することなんて考えられることじゃないか。

 俺が寝ていた一年、あいつは変わらずに鍛練を積んでいたんだろう。

 勝てる訳がなかったんだ。

「情けないですねえ……あんたが、そんな甘い思考回路だから、エテルノが攫われてたんじゃないですか?」

 反射的に、俺はミシルの胸ぐらを掴んでいた。

「本っ当によく回る口だな! 元はと言えば……!」

 ……おまえがここに来たのが原因じゃねえか。

 そう、言うつもりか?

 言って、なんになる?

 しばらく一緒に過ごして分かったことは、ミシルは自他共に認めるクズだってこと。

 けど、エテルノはこいつを仲間と言った。

 ああ、クソッ。

 出会ったばかりだったら、エテルノの言葉を聞いてなかったら、一緒に酒を飲まなかったら、コイツを喜んであいつらに差し出してたってのに、なんてザマだ。

「言い留まるくらいの分別は、付けられるみたいですね?」

「……けっ、おまえに褒められたって、嬉しくねえよ」

「褒めてますよ? まあ、ヤバそうだったらシャイタをけしかけるつもりでしたけどね!」

「結構えげつない手使うなオイ!?」

「がおー」

 か、可愛い……!

 いや、そんなこと言ってる場合か。

 非常に腹立たしいが、ミシルの言葉に頭が冷えた。

「問題は、どうやってレオパルドンからエテルノを取り返すか、だな」

「レオパルドですとも。少なくともあちらさんに、開幕ソードビッカーで瞬殺するチートロボはありませんとも。あ、ミシルは作れますけどね♪」

「……前から疑問に思ってたけど、おまえなんでこっちのアニメとか特撮詳しいんだ?」

「そりゃ、ネットが繋がってますから。ちゃんと合法サイトで見てますよ?」

 さいでっか。

 それはさておき、どうエテルノを救出するか。

 策その一、

「シャイタが駐屯所にカチコミをかけて、その隙にエテルノを攫うとかどうだ?」

「むう……それは難しいぞ。あのラヴェットという男、中々の手練れだ」

「そうか? 確かに強そうだったけど、おまえより上ってのは……」

「おそらく、あれは本気ではない。奥の手を開示していない可能性が高いな。それでもあの槍裁きは、並の使い手ではたどり着けない領域だ」

「マジでか」

 シャイタがそこまで言うなんて、あのオッサンすげえヤバい奴なんだな。

「それに、敵の本拠地を叩くと言うことは他の人間を相手取ることになる。それこそ、信乃ともな」

「ぐ……」

 いくらシャイタでも、それはあまりにも分が悪い。

 最悪シャイタも捕まる可能性がある。

 よって、この案はボツだ。

「では、駐屯所にロケランぶっ放すってのは如何でしょう?」

「エテルノもろとも吹っ飛ばす気か!?」

「信乃の心配はしないのか?」

「多分大丈夫だろ、信乃だし」

「なんなんですか、その信乃さんに対する半端ない信頼は」

 伊達に生まれたときから幼馴染みやってねーんだよ。

 そのせいで、余計なことにも色々気付いたりするから、本当に面倒なんだけどな。

「もしエテルノを取り返せたとしても、問題はこれからどう生活していくかだな……」

「は? なんでその後のことを心配すんだよ?」

「スポンジ脳の千草さんには分からないかもしれませんけど、レオパルドは国家直属の組織ですよ? レオパルドに喧嘩を売るって事は、ユステイツに喧嘩を売るも同義ですとも!」

 ユステイツに喧嘩、か。

 スポンジ脳ってのは全力で否定したいところだが、ミシルが言ってることは間違ってない。

 ユステイツを敵に回す。

 国一つ敵に回す経験ってのは皆無だが……なんつーか、別になんとも思わねーな。

 祖国に喧嘩売るってのなら、もしかしたらそれなりの覚悟があるのかもしれないが、生憎おいらは日本生まれの日本育ち。

 ユステイツに愛着持ってるかっつったら、まービミョーである。

 エテルノが死ぬかユステイツが滅ぶか選べと言われたら、躊躇いなくユステイツ終了ボタン押せるだろうし。

 うん、別に特に罪悪感とか恐怖とか全然湧かねーな。

「……はっ、俺は葬送勇者《アロンダイト》だぜ?  国の一つや二つ、余裕で相手取ってやんよ」

「さすがです千草さん! 実力が伴ってれば最高に格好いいセリフですとも!」

「何でおまえは人が反論できないことばかり言うんだよ!?」

「ふっふっふ、これが大人の攻め方と言うものですよ?」

  嫌な大人がいたもんだ。

 一応この世界じゃ俺も大人なんだけどさ。

「……待てよ? そもそも、レオパルドの本拠地ってどこにあるんだ?」

 場所が分からなきゃ、カチコミも潜入も不可能だ。

「ご安心を。ミシルはちゃーんとナビゲーターを用意してありますとも!」

 パチンと指を鳴らした瞬間、

「げふっ」

 魔方陣から出てきたのは、俺と同年代とおぼしき少年だった。

 よく見れば、信乃やラヴェットと同じ服を着ている。

「こ、ここはどこっスか!?」

「ふっふっふっ、ここはミシルのアジト。そしてあなたは、囚われの哀れな子猫ちゃんですとも!」

「あ、自分狼人族っス」

「さあ! これから行われますのはエロありグロありのR18な拷問フルコースですとも!」

「自分15っス」

「謝ったってもう遅いですとも! くっくっく、それが終わる頃あなたは廃人と化すでしょう……!」

「廃人にしてどうすんだよ! しかもコイツ、まるで動じてないじゃねーか!」

 律儀に突っ込み入れてやがる。

「ふむ……やはり彼もレオパルドの一員。一筋縄ではいかないか」

 バカが一周回って上手くいってるだけだろ。

 やれやれ。

 やっぱここは勇者である俺の出番な訳だ。

 今の俺は極めて冷静。

 ちょっとやそっとのことじゃキレないぜ。

「あ! アンタっスね! 信乃先輩に付きまとってるストーカーっていうのは!」

「おーいミシル、銃貸してくれ。このガキぶっ殺してやる」
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