上 下
46 / 64

潜入開始

しおりを挟む
 標的は、あっさり見つかった。

 本当はギルドで聞き込み調査を行うつもりだったのに、そのギルドの酒場に、ミシル・セリザワはいた。

 ううん、なんか拍子抜け。

 でも早く見つかるのにこしたことはない。

「絵に描いたような白昼堂々だねこりゃ。顔すら隠してない」

「アレが例のテロリストっスか。一見普通の女の子に見えるっス」

「女の子は見かけによらないゼ。信乃ちゃんだってたまに、すごい凶暴になるだろう?」

「見かけ通りじゃないっスかね、それは」

 とりあえずこの二人は後で殴ろう。

 今回の同行者は隊長ともう一人。

 新入隊員のカニス君だ。

 彼を一言で言うと、良くも悪くも真っ直ぐさん。

 でも腕は良い。

 今回は三人でミシル・セリザワを確保する手筈になっている。

 問題は、

「どう仕掛けるか、か……」

「このまま突っ込むっス!」

「具体的には?」

「ナイフ両手に突っ込むっス!」

「それただの強盗じゃない!?」

「強盗じゃないっス! 警察っス!」

「ハタから見りゃ強盗なのよ!」

「はっはっは、相変わらず一直線だねー、カニスは」

「一直線っス!」

 ダメだこの子、早くなんとかしないと……!

「……とりあえず、近くで様子を見ましょう」

「それからどうするんだい?」

「臨機応変に対応します」

「それってノープランって言うんだヨ?」

 けど、それが一番マシな作戦だ。

 少なくとも、無策に突っ込むよりは。

「じゃ、信乃ちゃん行ってきて。カニスはギルドの入り口で待機。オジさんは見物。よし、作戦開始だ」

 おい。

 おい最後。

「よーしっ、行くっスよ信乃先輩!」

「声が大きいっ」

 いきなりバレたらどーすんのよ!






 標的がよく見える場所を探して、席に着いた。

「ご注文は?」

「ええっと……レモネードを」

 本当はレモンサワー飲みたいけど、仕事中だし仕方ないか。

「かしこまりました」

 淡々と注文を取って、去って行くウェイトレスさん。

 ……顔立ちが日本人っぽい。

 もしかして、転生者なのかな?

 もしくは東洋系の国出身とか。

 っていけないけない。

 今は監視に集中しないと。

 ミシル・セリザワは、友人らしき女の子と談笑していた。

 彼女は白衣姿と結構目立っているが、その友人さんも中々のものだ。

 和風の着物ってここら辺では滅多に見られない。

 遠くからだから詳しくは分からないけど、多分すごい良い物よね。

 どこで売ってたのかちょっと聞いてみたい。

 それにしても、着物の子もすっごい美人だ。

 まるで絵本から出てきた妖精さんみたい。

 胸も……ある。ぐぎぎ。

「お待たせしました、レモネードです」

 おわっびっくりした……

「ありがとうございます」

 平静を装って、礼を言う。

「ではごゆっくりどうぞ。ああ、そうそう」

 ウェイトレスさんは一拍おいて、

「下手な騒ぎは起こさないでくださいね」

 っ……!?

 絶句している間に、ウェイトレスさんは引っ込み、クエストカウンターで事務仕事をし始めた。

 受付嬢も兼業してるのか……って問題はそっちじゃない。

 気付かれた?

 もしくはただの注意?

 分からない。

 でもあの人、ただ者じゃない。

 ずっと足音が聞こえなかった。

 でも確認するわけにも行かないし……

「難しいなあ……」

 カニス君を叱っておいてなんだけど、武力での正面突破があたしの性に一番合っている。

 元より、レオパルドはそう言う部隊だ。

 確保って、殺すより面倒なのよね……

 運ばれてきたレモネードで喉を潤す。

「おいしい……」

 もう一本頼もうかなと考えながら、再び標的に視線を向ける。

 こうしてみると、服装以外は普通の女の子に見える。

 いや、違うのか。

 二十六歳で女の子と言うのはやや無理がある。

 ぱっと見、あたしより年下にみえるけど……

「……ぐはっ」

 な、なんてこと。

 あたしの胸と、あんま、変わんない。
 
 なんか、なんか釈然としない……!

「うぎぎぎ……!」

 湧き上がる悔しさを、レモネードごと飲み込む。

 もう一本注文していると、ミシル・セリザワが友人に耳打ちを始めた。

 友人さんは素直に頷くと、てててとギルドを出て行った。

 それを見送った後、ミシル・セリザワは自然な動作でこちらに向かってきた――え?

「相席、いいですとも?」

「……どうぞ」

 なんとか言葉を乱さずに返答できた。

 いや、それも無駄か。

 動揺しようがしまいが、既にあたしの正体はバレているだろう。

 でもしばらくはシラを切ってみよう。

 藪をつつかれたとて、蛇を出してやる筋合いは無い。

「タソックは、初めてですか?」

「ええ、仕事の都合で昨日来たばかりなの」

「良い街ですよね。色々な街を見てきましたが、五本の指に入るお気に入りっぷりですとも! 色々面白い人達にも出会えましたしね! ちなみにエテルノもその一人ですとも!」

「エテルノ?」

「さっきミシルと話していた女の子ですよ。とっても可愛いんですよね……ぐへへ」

 友人さん改め、エテルノが可愛いことは同意する。

 けどなんだ、最後の笑いは。

「美少女ってすっごい欲情しますよね!」

「当たり前みたいに言うな! あたしにソッチのケはないわよ!」

 あ、やばっ。

 ついムキになってしまった。

「おやおや、そっちがあなたの素ですか?」

 じっと、こちらを見つめるミシル。

「な、何よ」

「いいえ? やっぱり勇者も人の子なんだなーと思っただけですとも!」

「……どういうこと?」

「あなた、刀剣勇者ムラサメですよね?、あ、今は特殊警邏隊『レオパルド』隊員、四宮信乃さんでしたっけ」

 やっぱりバレてたか……

「いつから、分かってたの?」

「昨日からですね。レオパルドが仕掛けてくるってのは薄々と分かってましたけど」

「こちらの情報は筒抜けって訳ね」

「気を落とさないでください。貴方たちがヘボいんじゃないんです。ミシルが天才なだけですとも!」

 ものすっごい殴りたい。

「それで、今回はどのようなご用件で?」

「どーせ、もう知ってんでしょ?」

「やっぱりそう言うって、そちらから言ってもらった方が雰囲気出るじゃないですか」

「……」

 耐えろ。

 耐えるんだ四宮信乃。

 これは仕事これは仕事……!

「貴方の身柄を確保させてもらうわ」

「その理由は?」

「貴方の作る兵器が欲しいんですって。ああでも、奴隷にするって訳じゃ無いわよ。最上級のもてなしをするし、資金援助も惜しまないって」

「それはそれは。ユステイツのお姫様も必死ですねー。そんなに怖いですか?」

「どういうこと?」

「勇者が殆どいなくなった今、ユステイツの影響力は以前より少なくなってます。戦勝国とは言え、戦争で受けたダメージは決して少なくはありません……漁夫の利をかっさらおうと言う輩は沢山いるでしょう? 外にも、そして何より――この国の内部に、ね」

 コツコツと、ミシルはテーブルを指で突いた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

処理中です...