上 下
37 / 64

異世界ハッカー

しおりを挟む
 これまた予想通りだ。

 助手がいりゃ、CPUにほうじ茶オレをぶっかけるなんて大ポカも未然に防げていただろうな。

 しかしミシルに弟子入りするような奴だ。

 マトモな感性を持っているのか極めて疑わしいね。

「なんなら千草さんがどうです? 丁度新しいモルモッ……実験台が欲しかったところですとも!」

「言い直した意味ねーだろコラ。誰がやるかってんだそんなリスク特盛りの仕事」

「時給一万マニーでどうでしょう?」

 ……

「……やるわけねーだろ」

 いかんいかん。

 少しばかり魅力的な提案だったが、そこで悪魔に魂を売り渡すほど俺も愚物じゃ無いぜ。

 エテルノとシャイタはラボにある物すべてが新鮮だったようで、目を輝かせながら探索を開始している。

「さーて、そろそろ話してもらうぜ」

「何をですか?」

「おまえが何者かってことだよ。ここにある物の殆ど、この世界のものじゃないよな?」

 ところで、雰囲気は中世のこの世界だが、技術自体はそこまで俺達の世界と大差ない。

 電灯もあるしインフラも整っている。

 水洗トイレも普通にあると知ったときは、膝から崩れ落ちそうになったもんだ。

 穴掘って地面にするってのはカンベンだったからな。

 それらはほとんど魔法の恩恵なんだそうだ。

 このまま発達していったら、ヘタすりゃ俺達の世界よりも優れた文明を築き上げるんじゃなかろうか。

 おっと話が逸れた、閑話休題。

「再現可能な奴もあるにはあるけどな、コンピューターなんてこの世界にはまだ無いし、デスクトップパソコンなんて論外だろ」

 パソコンOSはご丁寧にもWindowsときたもんだ。

「おまけにこの世界じゃ銃は魔法の劣化版扱いで発展してないって聞いたけど、あれブリーチャーだよな?」

 興味深そうにエテルノが銃口をのぞき込んでいるブツを指差した。

 レミントンM870ブリーチャー

 俺達の世界にあるソードオフショットガンの代表格だ。

 甚太の奴に暑苦しく解説されたもんだから、無駄に知識は付いてる。

「分かりませんよ? レミントン・アームズ社がこっちに進出しているだけかもしれませんとも!」

「グローバルすぎるわ! 国境どころか世界線まで越えちゃってんじゃねえかよ!」

「浪漫があっていいじゃないですか!」

「確かにそうだけど、それじゃあ俺達が戦った一年はなんだったんだよってことになんないか!?」

「人生はそんなもんですとも……」

 何スカしてやがる。

 いい加減こっちの質問に答えやがれってんだ。

「エテルノやシャイタにはもう話しましたが、ミシルの祖父は転生者でしてね。ミシルはその孫ってことになりますとも。異系三世ってヤツですね」

 てっきり転生者そのものだと思ったら、まさかのお孫さんだった。

 まあ転生者だって結婚するだろうし、そういうのもあり得ない話じゃないか。

「これらのオリジナルはこの世界のものではありません。異世界に存在するデータベース……インターネットを介して入手した設計図を元に祖父やミシルが作った物ですとも」

「……そりゃまた、随分とぶっとんだものが出てきたな」

 驚きを通り越して呆れるぜ。

 だってそうだろ?

 設計図を手に入れたからって、それを完全再現できることなんて凡人が成せる技じゃあない。

 俺?

 入学早々文系に生きようと決意した俺ができると思うか?

「完全再現って言うと語弊がありますけどね。足りないところもちょいちょいありますし。まあそれは魔法でカバーできるから問題ナシなんですけどね!」

 そこら辺はさすがファンタジーだな。

「基本的にあっちの世界は電気魔法がメジャーになってるみたいですね。他の属性の魔法の方が良いところでも電気魔法を使うから結構コスパが悪いこともあるんですとも」

「ほーん……つまり俺達の世界にも魔法はあるってことか?」

「科学と呼ぶか魔法と呼ぶかの違いですね。本質的には違いはありませんとも!」

「魔法など非科学的だってーのは馬鹿丸出しのセリフって訳か」

「ははっ違いありませんとも!」

 もっとも俺は、科学も魔法もトンチンカンなんだけどな。

 どっちが馬鹿なのかと問われればトントンってとこか?

「しかしネットね……よく繋がったもんだな」

 アレか、転生者にありそうな異世界チートってやつか。

「いえいえ。お祖父ちゃんがこの世界に来た時の荷物にノートパソコンがありましてね。それと魔法を組み合わせて何年もかけて繋いだんですとも……最初に繋がったのは七年前でしたね。いやあ、あの時の興奮は今でも覚えていますとも! 興奮のあまり鼻血出してぶっ倒れたましたとも!」

 祖父との思い出を回想するミシル。

 七年でここまでのラボを作ることってできるモンなのかね?

「このラボは仮の住まいですから、一年くらいで作りましたとも!」

 もー何も驚かんぞ俺は。

 天才だからこそ成せる技ってヤツか。

 ……ところで、俺はさっきっから気になってしゃーないことが二つある。

 まず一つ目、

「……ミシル。おまえっていくつなんだ?」

「二十六ですけど?」

  やっぱ外見ってアテになんねえ。

 ロリババアと言うにはいやに現実的な年齢だぜ。

「確かに、三桁はいってないとロリババアと言う表現はしっくりこないですよねー。ロリババア枠はどちらかと言うとエテルノじゃないですか?」

「年齢的にはそうかもしんねーが、あいつは外見よりも幼く見えるんだよな」

 先程からルンバっぽいロボに追いかけ回され涙目になっているエテルノからは、老成したような雰囲気
はまるで感じられない。

 それはさておき、まだミシルに聞いておくべきことがあった。

 ていうか、こっちの方がメインだ。

  これからの俺の身の振り方を大きく左右するレベルのな。

「ネットが繋がってるってことは、ツイッターにもアクセスできんのか?」

「もちろんですよ。ミシルも使ってますから。これがミシルのアカウントで――」

 言い終わる前に、俺はキーボードに指を走らせていた。

 キーが沈む懐かしい感触を味わう暇も無く、メアドとパスワードを入力して、

「……は?」

 ログインに失敗した。

 メアドは合っている。

 パスワードも間違っていない。

 何度も打ち込んでみても、結果は同じ。

 試しに信乃や誠のアカウント名を打ち込んでも見つからなかった。

 ここがら導き出されることはただ一つ。

「このネットが存在する世界と、俺がいた世界は違うってことか……」

「ええ。ですが、限りなく近い世界です。違いと言えば、千ヶ崎千草、四宮信乃、氷室誠、鹿山甚太……彼らが元から存在しないってことですとも」

 なんつーピンポイントな。

「ともあれ、これで希望も潰えた訳か……別の異世界のネットにアクセスはできないのか?」

「異世界はそれこそ星の数程存在しますからねー。一発で引き当てるなんて幸運、宝くじの一等を十回連続当ててもまだ足りませんとも。一つの世界にアクセスするだけでも途方の無い時間と労力がかかりますしね」

 聞くだけでも気の遠くなる話だ。

 うまくいったとしても、その時俺はヨボヨボのじじぃになっていることは想像に難くない。

 いや、逆行時計があるからそうはならねーのか?

「ま、ネットでアプローチっつーのは無理だってことは分かったぜ。そろそろあのバカを救出しに行くか」

「ち~ぐ~さ~。助けてたも~」

 哀れ、ラボの隅に追い詰められたエテルノは、げしげしとルンバの連続タックルを食らっていた。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

義妹がピンク色の髪をしています

ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

処理中です...