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1章
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光魔法は使わなくていい、と言ったけれど、王子殿下は毎日修行を続けていた。ぐうたらで怠けているよりよほどいい、と思って何も言わなかったけれど、努力をする理由を考えると胸の奥がつきんと痛む。
少し前に、ちゃんと考えをまとめたのに。頭の中は冷静になっているはずなのに。
それなのに、まだ、俺の胸の奥はぐちゃぐちゃで醜いものになっていた。
「ワーカーホリック……だと思うんだけどなぁ」
朝の支度をしながら、ふと、そんなことをこぼしてしまう。俺が王子殿下に仕えるのは俺が従者だからだ。相手は王子で、俺はあくまで庶民生まれの従者にすぎない。生まれながらに許嫁がいることも、俺にしてみれば当たり前じゃないけど、王子殿下にとってみれば当然のことなのだ。
ほとんどが政略結婚で、愛情も感情も伴わない形だけの結婚だと言われている。その中で、王子殿下のように相手を喜ばせようと努力する姿は美しい恋愛小説として語り継がれてもおかしくない。
親に言われた相手と結婚するとわかっているからこそ、自分の意思で恋に落ち、一夜だけと分かっていても溺れてしまう熱情に大衆は恋焦がれるのだ。
「アホくさ……俺は俺の仕事をしないと」
今日も今日とて、王子殿下は光魔法の練習をしている。ちっともうまくならないし、完全に習得するまでに時間はかかりそうだけど。
本人が頑張ろうとしているから俺の一存で止めることもできない。だから、王子殿下が満足するまで好きにさせるしかない。
「もし、光魔法が使えるようになったら……俺は、ちゃんと喜べるのかな」
おめでとうって言わないと。
よくがんばりましたね、と褒めないと。
それから、これでビアンカ王女殿下に相応しい人間になりましたね、と言わないと。
認めたくない。王子殿下はまだ甘ったれでわがままで俺以外にはどうしようもない人間だと思われてもらいたいけれど。
早くそれも、卒業しないと。
「はーあ……」
急に込み上げてきた深い深いため息に、俺は地面の奥深くまで沈んでしまいそうな気持ちになった。
少し前に、ちゃんと考えをまとめたのに。頭の中は冷静になっているはずなのに。
それなのに、まだ、俺の胸の奥はぐちゃぐちゃで醜いものになっていた。
「ワーカーホリック……だと思うんだけどなぁ」
朝の支度をしながら、ふと、そんなことをこぼしてしまう。俺が王子殿下に仕えるのは俺が従者だからだ。相手は王子で、俺はあくまで庶民生まれの従者にすぎない。生まれながらに許嫁がいることも、俺にしてみれば当たり前じゃないけど、王子殿下にとってみれば当然のことなのだ。
ほとんどが政略結婚で、愛情も感情も伴わない形だけの結婚だと言われている。その中で、王子殿下のように相手を喜ばせようと努力する姿は美しい恋愛小説として語り継がれてもおかしくない。
親に言われた相手と結婚するとわかっているからこそ、自分の意思で恋に落ち、一夜だけと分かっていても溺れてしまう熱情に大衆は恋焦がれるのだ。
「アホくさ……俺は俺の仕事をしないと」
今日も今日とて、王子殿下は光魔法の練習をしている。ちっともうまくならないし、完全に習得するまでに時間はかかりそうだけど。
本人が頑張ろうとしているから俺の一存で止めることもできない。だから、王子殿下が満足するまで好きにさせるしかない。
「もし、光魔法が使えるようになったら……俺は、ちゃんと喜べるのかな」
おめでとうって言わないと。
よくがんばりましたね、と褒めないと。
それから、これでビアンカ王女殿下に相応しい人間になりましたね、と言わないと。
認めたくない。王子殿下はまだ甘ったれでわがままで俺以外にはどうしようもない人間だと思われてもらいたいけれど。
早くそれも、卒業しないと。
「はーあ……」
急に込み上げてきた深い深いため息に、俺は地面の奥深くまで沈んでしまいそうな気持ちになった。
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